第10話 空母機動部隊の誕生

 昭和8,9年の時点では、海軍の主力航空機は、90式艦上戦闘機という複葉機であった。とても、飛行機が戦闘におけるキーアイテムになるなど、誰も考えていなかった時代の話である。恐らくは、航空派ではなくとも、第一次世界大戦後は、有能な海軍士官であれば、航空機の時代が来ることや、海上艦隊決戦において航空機が必要不可欠であるという大方の予想がたつにしても…である。海上戦闘の要素を突き詰めれば、「集中」と「分散」に集約される。分散して制圧され難い味方ユニットを、狙った敵ユニットへいち早く集中して、破壊力を行使する。そのスピードを鑑みれば、戦艦よりも「空母+航空機」の方が、戦闘のイニシアティブをとりやすいユニットであると考えるのは、自然な流れである。そのような発想の元で、日本海軍に空母機動部隊を作ったのが、小沢治三郎その人であった。言うなれば、治三郎は空母機動部隊の父である。もし日本海軍に、空母と艦載機全体の運用能力がなければ、相対して戦後圧倒的なミリタリーパワーを持つようになった、米海軍の最強機動部隊も存在していなかったかもしれない。史上、空母を保有した国家同士の組織的戦闘である、空母艦隊決戦を戦ったのは、日本と米国のみであるという事実も、中々に興味深い事だろう。

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