クリパー 思い遣り②
「いらっしゃいませ。暑い中、ようこそ。
うちなんて狭くて何もないところだけど、
ゆっくりしていってください」
奏ちゃんのお母さんはそう言って、僕たちに冷たいお茶を出してくれた。
「おっと!ここに何か美味しそうなものを食べてるやつ発見!
飼育係さん、ここにお腹を空かせた悪いウサギが迷い込んでますよ!」
奏ちゃんが何かを美味しそうに食べているのを見て、僕は思わずそう叫んでしまった。
「うっ……うぐっ!ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!」
彼女は顔を真っ赤にして苦しそうに咳き込んだ。そして、
「この、菊なんですけど。こっちではよく食べるんですよ」
彼女は僕を睨みつけるように言った。
「そうなんだ……」
僕はまるで違う国の目新しい文化に驚くかのように、県民性の違いというものを実感した。
僕は奏ちゃんのお母さんに感謝の言葉を述べた。
「ところで、うちの奏とは、どんな仲なんですか?」
奏ちゃんとの関係を聞かれ、僕はつい、愛理栖と旅をしていることまで話してしまった。
そのおかげか、僕たちは一晩泊めていただくことになった。
夕暮れは、空を茜色に染めていった。
キラキラと輝きながら漂うさざ波達は、
ザザー……、ザザー……と優しく静かに子守唄を歌っている。
波の音を聞きながら、僕は愛理栖と並んで砂浜を歩いた。
https://kakuyomu.jp/users/buzenguy/news/16818093088283420270
「どうしてここへ?」
何故ここに僕たちは誘われたのか、
奏ちゃんに尋ねた。
「詩織はね、海が大好きなの。
だから、こっちに帰省するときは、浜辺に来て海の写真を撮ったり、綺麗な翡翠や貝殻を見つけて詩織に見せたりするのよ」
「奏さん、本当に詩織さんのこと、大切にしてるんですね」
愛理栖は、少し震える声でそう言った。
僕は二人の会話を聞きながら、自分の心が温かくなるのを感じた。
「まあ、妹を持つ姉として、これくらい当然だよ」
奏ちゃんは照れながら答えたが、その瞳は真剣だった。
「ところで、あのときうちが咳き込んでたけど、事情を話そうとして、結局話してなかったよね?」
「そうだね。でも、無理して言わなくてもいいんだよ」
「おじさんはうちの気持ち、わかってくれる?実は……」奏ちゃんは、静かに話し始めた。
「実は、一週間前に喉にポリープが見つかって、病院で手術を勧められたんだけど、
来週の金曜日に歌のオーディションがあって、まだ家族には言えてないの」
「そうだったんだ」
「愛理栖ちゃんにはまだ話してなかったよね?実はうち、詩織が書いた歌詞を私が歌って、たくさんの人に聴いてもらいたいと思ってるの」奏ちゃんの瞳は輝いていた。
「詩織は病気で学校に行けないんだけど、いつも明るく頑張ってる。
だから、うちも頑張りたい」
彼女の言葉に、僕は感動した。
夕焼け空の下、奏ちゃんの横顔は、とても美しく見えた。
https://kakuyomu.jp/users/buzenguy/news/16818093088283303555
僕たちは彼女の家に戻ると、夕食とお風呂を頂いた。
その夜、愛理栖は僕を庭に呼び出した。
満天の星の下、愛理栖の瞳はいつもより輝いていた。
「ひかるさん、奏さんのこと、どう思いますか?」
愛理栖は、静かに語り始めた。
※今回の要約※
ひかると愛理栖は奏に連れられ、家の近くにある砂浜へと向かう。
奏は二人に自分の喉にポリープがある事を告げた。奏は妹の詩織の夢のために歌手オーディションに挑んでいたのだった。
愛理栖は彼女を応援する方法を考える。
その夜、ひかるは愛理栖に奏のことで話があると言われたが。
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