☆投機 かつて空が親友と再会した神社の境内にて※一部 可織 視点す

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真相•ひかるの回想〜


「ちょっとあなた、ひかる達あんなところまで行っていますよ。

あなたからも少しは注意して下さいな」


「あ~、わかった。

お~い、ひかる~、可織も~!

二人ともあんまり沖のほうへ行くなよ~!」


「は~い、父さん!」」

僕と可織はお父さんにそう返事を返した。


可織っていうのは僕の妹だ。


今日は父さん、母さん、まだ小学生の僕と可織の四人で新潟県の糸井川っていうところの海に海水浴に来ていた。



「可織、父さんもああ言ってるし、

そろそろ浜辺に戻ろうか」

僕がそう言いながら可織の方を向くと……、

信じられないことに可織は浮き輪を手放し、随分沖の方へ流され溺れていたんだ!


「おい!可織!」

「お兄ちゃん、助けて!」

僕は慌てて可織を助けに泳いだ。


可織は波をかぶり海水を飲んでしまったらしく、その弾みで浮き輪を手放し溺れているようだった。

「お兄ちゃんすぐ助けに行ってあげるから!

待ってろよ、可織~!」


僕は溺れる可織を何とか追い付き、

可織を抱えて浜辺まで急いだ。


「ひかる!後は任せなさい」

父さんが泳いで来てくれていた。


僕は可織をお父さんに託した。


「ひかる?お前は一人で浜辺まで戻れるか?」

父さんは僕を心配してそう聞いてくれた。


「大丈夫。だから、可織をお願い」

僕は父さんにそう言うと、後を追って浜辺まで一人泳いで帰ったんだっけ。


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••• ••• •••


あれ?ここで僕の記憶は終わっている。

僕は、回想から現実に引き戻された。


「続きは私が話すわ」

可織は僕にそう言って、続きを話してくれた。




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真相•可織の回想〜


『お兄ちゃんは私を抱えたお父さんの後を追いかけたんだけど、私を助ける為に無理をし過ぎたのか、途中で力尽きて溺れてしまったの。

私は、お父さんとお母さんに、お兄ちゃんがいないのに気付き、家族総出で海の底のお兄ちゃんを探したわ。

でも、既に手遅れだったのよ……。



  ライフセーバーや救急救命士の人達が急いで駆けつけてくれて、お兄ちゃんを海の中から救い出してくれた。

しかし、人工呼吸や心臓マッサージ、どれも既に手遅れだった。

私達遺された家族はみんなお兄ちゃんの死を悔やみ、ただその現実を受け入れるしかなかった。


 私は思った。

最初に溺れたという責任は私にあるのに、

どうして私が生き残って私を助けたお兄ちゃんの方が死なないといけないのか。


『こんなのってあんまりじゃない!!』


 私はこの時から自分のほうが死ねば良かったと、本気でそう考えていた。




 そして月日は経ち、

お兄ちゃんの葬儀が終わってから今日でちょうど1ヶ月が経とうかとしていたある日のこと。

 

 私が近所の神社に行って一人ずっと悩んでいたところまではいつもと同じ。

 しかし、その日はくしくも私が死を覚悟した日でもある。


 私は意を決して境内の裏に生えた木にロープをはり首吊り自殺をはかろうとした。

 しかし、私がロープに首をかけようとしたまさにちょうどその瞬間、

私の身にある驚くべきことが起こったのだ。


 私はまるで自分の内面から響いてくるような不思議な声を聞いた。


その声は大人の男の人の声。

そして、その声は私にこう言った。


◇命を粗末にしてはいけないよ。

君のその命は君だけのものじゃ無いんだから◇


「は?誰?

あなたが何様か知らないけど、あなたに私の何がわかるって言うの?

 本当に辛い思いをして生きるってことはさ、

偽善や綺麗事なんて言ってられないくらい

本当に必死なんだよ!」

私はその声に向かって強くそう言い放った。


◇それは、君のお兄ちゃんが、本当は死んでいないとしてもかな?◇


「え?どういう事?

お兄ちゃんは確かに死んだし、

私は葬儀場で焼かれたお兄ちゃんの遺骨を確認したのよ!

いい加減なこと言わないで!」


◇キミに『チャンス』をあげよう!

私は死んでしまった人間は生き返せない。

でもね……、

ほんの僅かな期間だけだが、

お兄さんが生存している宇宙に行かせてあげる事はできるよ◇


「あなたの言っていること、さっぱり意味がわからないわ!」


「大丈夫。既に失われ、※選択されるかもしれなかった幻の宇宙を一時的にだが見せてあげよう」


「本当にそんな事できるわけ?」


◇出来るさ。その代わり、書き換えは一度きりで以後二度と出来ないよ。

そして君には、

私の元で後継者として永久に働いてもらうよ◇


「あなたの言ってること、オカルト過ぎて信じろって言うほうが無理だわ。

でも……、

おもしろいじゃない!

私も一度は諦めかけた人生だし、

あなたのその提案、のってあげるわ!」

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私はね、こういう経緯でアスー博士の後継者として、一つの宇宙を管理する存在になったんだよ。




「そうだったんだ。可織、僕の為にそうしてくれたんだね」


「そう。だからね、この宇宙は

お兄ちゃんが死ぬはずだった本当の宇宙に書き戻される前の期限付きの閉じた幻の宇宙なの」


「じゃあさ、僕の身の周りから人々が消えている本当の理由って言うのはもしかして……」


「そう、宇宙が、お兄ちゃんが死ぬはずだった宇宙に書き戻される前兆なの。嘘をついていてごめんね。

私、お兄ちゃんに自分を責めて欲しく無かったから……」


「だから、悪人のフリをしていたのか。

可織お前……ずっと一人っきりで、

僕のことで責任を感じて今まで自分自身と戦って生きてきたんだな」


「お兄ちゃん……!」


「可織!」



僕と可織は抱きあい、そしてひたすら泣き続けた。



「ねえ! 二人とも上! 高い所を見て!」

突然、愛理栖が僕と可織にそう叫んできたんだ。


僕は愛理栖に言われるがままに、頭上を見上げた。



 可織は元々、私達が体感として認識している四次元ミンコフスキー時空とは異なる、時間軸が2つある特殊な時空構造にアクセスする能力を持っているが、本人は覚えていない。

 アスーは可織が何者かに強制的に忘れさせられていたその能力を一時的に覚醒させることによって、量子力学的な現象によって分岐した他の可能性の世界に移動することを可能にした。

 しかし、他の可能性の世界でも

ひかるの死は避けられない運命であることが多い。

 その為、可織はひかるの死を防ぐために自らの命を犠牲にし、ひかるが死んだことにすることで物理的な過程を変えた。

 また、時空が歪むことでエネルギーが増減することの影響や、

可織の能力を発揮する為のエネルギーの消費が大きいことから、

ひかるが昔死なかった世界は長く維持できない。


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