最終章 みえないかたち
加護 僕は救われて、そして薄々解りかけた相対的な何か大切なこと
僕が意識を取り戻した瞬間、
あろうことか、あいつの目が僕の目の近くにあった。
これはひょっとすると……、
あいつとはつまり愛理栖のことで、僕の唇と彼女の唇が今まさに重なろうとしていた。
「え?え~!」
僕の頭は、この逆白雪姫状態にすぐには適応できず、疑いや驚きのほうだけで頭がいっぱいだった。
僕はそれでも、このチャンスを逃すまじと
目を瞑り、そして唇をタコのように突き出し愛理栖の唇に近づけた。
「チュ、チュ~!」
「ひ、ひかるさん。
何やってるんですか?」
「何って、人工呼吸だよね?」
「ひかるさんの馬鹿!!!」
バチー!
痛えっ!
愛理栖は意識が戻った僕に気が付いた瞬間、
一瞬の隙も無かった。
振り返り際の僕は愛理栖から、またもや痛恨のビンタをくらってしまった。
「ひかるさん、ちょっと調子にのり過ぎじゃないですか?
セクハラされて傷付いた私に今すぐ謝ってください!さあ!
さあ!」
「ご、ごめんなさい」
眉間にシワを寄せ、僕を睨み付け。
愛理栖からの僕への軽蔑ぶりは凄まじく、そして恐ろしかった。
「わかれば、もういいです!」
フン
僕の心無い言動から、
しばらくの間機嫌を損ねていた愛理栖だったが、それでも時間の経過とともに普段の表情に戻ってくれた。
「でもさ、
どうしてさっきあんな人工呼吸みたいなことしようとしたんだよ」
「あれは違うの、本当に違うんです。
実はですね……」
愛理栖は僕に今の表情を悟られたくないのだろう。
終始下を向きながら僕に理由を教えてくれた。
「つまり、僕が全然起きそうに無かったから
人工呼吸をしようとしてくれていた、
とそういうことなんだね?」
「そうなんですよ。
他にも、心臓マッサージとか、逆さ張付けとか、急所蹴りとか、ひかるさんの名前を書いた藁人形に五寸釘刺してみたりとか、先にいろいろ試し手はみたんですよ」
「成る程、それなら仕方が無いか~
……、っておいおい!
後半の行動はどう考えても普通じゃないから。
それ絶対、僕の死亡エンド確定なやつじゃん」
「ははは、まぁ、ちょっとだけ……」
「そこはお願いだから否定してくれよ!」
「あ~、そうだそうだ!」
僕は今愛理栖と漫才やってる場合じゃなかった。
僕は自分の体が元に戻っていた事を今更になって自覚した。
僕が周りの空間を見渡すと、辺り一面
まるでキャラメルマキアートのシロップが
カフェラテと交ざる時のように、沢山の色が複雑に混ざり合っていた……。
「ここが、六次元の迷宮なのか……」
僕は、ついその一生お目にかかれないであろう超高次元世界の光景に気をとられてしまっていた。
そして、
僕は何気なくまだ痛みが微かに残った自分の頬に触れ気が付いてしまった。
「あれ、濡れてる?
愛理栖、もしかして……
さっき泣いてたのか」
「ひかるさん
何してるんですか!?
早くこの空間から出ないと、
本当に戻れなくなりますよ」
「いけない、いけない。
愛理栖には後でもう一度ちゃんと謝ろう」
僕は自分の両頬を叩き、
自分にしっかりしろと言い聞かせた。
そして、愛理栖に洞穴で聞いた秘密の呪文の事を話し、二人で一緒に叫んだ。
『アミュー!』
その秘密の呪文を。
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