56億7千万光年先の遺跡で拾った不思議なペンダント

最終話 Hard problem of consciousness 僕達は「自分の意志」で生きている

確か僕がまだ幼い頃に家族で海水浴に来て

と泳いだ海!

そして、今見ている夕焼けって……。

思い出したよ!あそこだよね?」


「はい。私も驚きました。ここは

奏さんと一緒に来た新潟県の日本海が見える海ですね」


目的地がここになっていることに、

僕は何とも言葉にしようもない不思議な因果を感じてしまった。




「ひかるさん、危なーい!!」


「え?」

僕が気付いた時、既に愛理栖は見えない十字架に張付けにされていた。


「どうして?

気配なんて感じなかったのに」


「ごめん愛理栖。僕が油断したせいで」

愛理栖を助け出すことだけに僕は一生懸命だった。

しかし……。


「アイリス?

あなたを拘束したのは私じゃない」


「誰!?」

謎の声に釣られ囚われの愛理栖も一緒に後ろを振り向く。


突如、何もない空間から現れた愛理栖と同じくらいの年頃の少女。

黒よりも暗くどこまでも深く燃え上がる長い炎髪。

それは、渋く青みがかり、『∨』と刻印された銀のティアラをかぶり、膝の丈が短く露出の多い黒い法衣をまとっている。

またその背中からは、

数えきれないくらいたくさんのどこまでも続く七色の光が、

無数の羽を持つ天使のように生えていた。

そして、まるで生気を感じられないその氷のように冷めた瞳。

それは死んだ魚のようで、

僕にはその面影がどこか悲しそうに思えた。


「君の顔、誰かに似ている……。

僕にとってそれはとても大切なことのように思うんだけど、

思い出せない……」



「あなたは?」

彼女に名前を訊ねたのは愛理栖だった。


「私の名前はクオリア 菩薩ボーゼサット 千本乃手サラーシャ

通称、5次元人ボーゼサットクオリアよ」


「あなたね。私達の宇宙を消そうとしている張本人は」


「そう、私」


「どうして? どうしてそんな酷いことをするの?」


「それはもちろん私の為だけじゃないわ。

私が率先して私自身と、中に含まれるたくさんの命を生き永らえす為。

これは酷いことかしら?

一部の民からどんなに恨まれようと、自分が幸せに出来る

できるだけ多くの集団を導き、前を向いて走り続けて行く。

これは強者の定めよ!」


「そんな事ないわ!」


「どうしてそう言い切れるの?

例えば、人間達ホモサピエンスの歴史の裏には、

たくさんの類人猿が生まれては絶滅して行ったのよ!

他にも、地球が生まれてから現代人が生まれるまでの間には、

沢山の種の誕生と支配、絶滅があったじゃない」


「じゃあ、恐竜絶滅後も生き残って今の私達に繋がる哺乳類のご先祖様はどう説明するの?

みんな一部の弱者だった哺乳類でしょ?

弱者だって強者になれるのに、今弱者だからってだけで切り捨てるなんてあんまりじゃない!」


「それは屁理屈よ。

私の言う強者っていうのは体格や腕っぷしじゃないの。

自ら先頭に立ち、努力と運と才能で競いながら、

可能な限りの民に救いの手を差し伸べていく者のことよ。

強者も弱者も、双方の立場を知り受け入れる覚悟が大切なの!


アイリス?あなたからは競い生き残ろうとする覚悟・・が感じられないわ。

全員みんなによく思われようと偽善者ぶっていつも先頭に立たず、

限られた資源の中での競走という進化の厳しい本質から

『なにもしない』でただ正論言って逃げてるだけよ!」


「違うわ!

例えば、私やあなたの様に学識・・と行動する自由・・、最低限の経済力・・・を持つ恵まれた人には厳しい本質を受け入れる覚悟・・が大切なのかもしれないわ。

でも、実際は違うじゃない!

自分達の利益ばかりで民衆みんなの気持ちを考えない腐敗した政治家がいる一方で、

差別社会の悪循環の中に押し込まれ、

教育も受けられず、不条理の理由すらわからないまま、

差別と貧困と生命の危険に苦しみながら毎日を生きている人が沢山いるじゃない!」


「私だってね、口だったら簡単にそう言えるし、もちろんそうしたいわよ!

私はね、あなたが自分は豊かに自由に暮らしておきながら口だけ理想を言ってるから気に食わないのよ!

そう思うなら行動・・しなさいよ!えてごらんなさいよ!」


【クオリア、いつまで時間かけるつもりだ】


「あらあら。阿修羅アスラ様に怒られてしまったわ。

阿修羅アスラ様、お願いします」


【わかった。後はまかせたぞ】


「キャーッ!」


「おい!愛理有!」

愛理栖の悲鳴が聞こえるやいなや、彼女の姿は一瞬で消えてしまった。


「おい!愛理有をどうしたんだ」


「あらあら、探しても無駄よ。アイリスは阿修羅アスラ様が6次元タナトーガの迷宮に閉じ込めたから」


「6次元タナトーガの迷宮だって?」


「そうよ。阿修羅アスラ様は、

阿修羅アスラ 如来タナトーガ舎那シャナ

全ての空間・・を統べる者。

私5次元人ボーゼサットすらも超え足元も及ばない6次元人タナトーガなの。

所詮はホログラム宇宙に過ぎない5次元人ボーゼサットにとっては、

絶望的に閉じている真宇宙の6次元タナトーガの迷宮に閉じ込められたら5次元人ボーゼサットでも永久に出てこれないから」


「愛理栖を戻せ!」


「無駄よ!

アイリスは強力な瞳術

"心技 伝読浪でんどろビィーム"

を持っているの。あの子は相手に自分の目を覗かせる事によって心を操ることが出来るの。

違う方を向いたり目を瞑ったりして誤魔化そうとしても無駄、

空間や時間を越えて、心の中まで追ってくるんだから。

あの子はああ見えて、怒らせると意外と厄介なのよ。


あなたには今から私がじきじきに相手をしてあげるわ」

クオリアは僕にそう言うと、背中の光の内一番細い一本だけの向きを変えて僕のおでこに照準を合わせた。


「これに耐えられる?」


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛!

頭が割れる~!」

僕の頭はクオリアの精神攻撃を受け、死ぬほどの頭痛におそわれた。


「くそ!僕達人間の……人生を奪うな!」


「何?あなた達だって、自分達が生きのびるために、

たくさんの生き物の命を食べて奪っているじゃない。

 それなのに、僕達人間の人生を奪うなって何様?

そしてあなたは、人間だけ救って他の生き物は見捨てる人なのね?」


「違う!言葉のあやだ。生命全てだ!」


「いいこと?言葉って言うのはその人の性格が現れるのよ。

あなたがいかに普段自分勝手に生きてきたかわかるわね」


「くっ……」

僕は歯を食い縛り言い返したい気持ちを堪えた。


「さっきの自分達の人生を奪うなって言葉だけど、

あなたは自分達の行動は棚にあげて、

いったいどの口が言ってるの?


 しかも『あなた』が?

都合の悪い現実には目を瞑り、

直接その命のやりとり殺生・・

の現場さえ見もしない。


私にはね、あなたの性格がお見通しなのよ。

いつも身も心もぼろぼろにすり減らしながら

あなたの代わりに率先して歩いてくれている先頭に立つ者

の不完全な判断に、

あなたはただただ文句を言っている。

相手の身になって代わろうとしたり、

悩みを聞いて一緒に代案を考えたりすらしない。

そして、感謝どころか不満を漏らす。

そんな他人任せで卑怯に生きてきた『あなた』が?


あなたはまだまだ餓鬼ガキね。

あなたのような自分さえ良ければって性格の人の生きかたの事を

六道では餓鬼がきって言うのよ」



「うわぁぁい痛い痛い痛い痛い!」


「いくらあがいても無駄よ。

私には千本の心を操る槍があるのよ。

命中はアイリスの自立追尾型の瞳術に劣るけど、

威力と同時効果範囲は私のほうが上。

あなたに当てているのはその内の一番威力が弱い心の槍。

これでも光っているだけの外側の部分を除いたら、

宇宙ひも理論に出てくるプランク長レベルの細さしかないのよ。


水素の原子核の半径くらいの細さの二番目に威力の弱い心の槍を当てたら、

あなたはきっと一瞬で自我を無くしちゃうでしょうね。

心の槍ってね、扱い方誤ると心に負のブラックホールが出来て

周りまで巻き込んじゃうから使う私もいろいろ大変なのよ~。


でも、安心して。

私には、私を救ってくださった阿修羅アスラ様との約束があって、

私や他の誰かの命を永らえる為以外の殺生はできないの。

だから、今はあなたを殺さない。


実はね、私からあなたにいい提案があるの。

あなた達の宇宙が消えるのは宇宙規模ではほんの刹那の一瞬だけど、あなた達にとっては少しずつ進行していくから、

運良く最後の方まで消されなかったら10年くらい生きられるかもしれないの。

もちろん、あなたにとっての運は私の気まぐれにかかっているんだけどね。

あなたが消える順番を最後にして、

あなたの大切な人達を先に消していくようにするわ。


あなたが長い長い孤独と恐怖に心をさらししながら、

今までの腐れきった生き方を恥じ改心してくれたら、

私も嬉しいわ。

今、手を引いてくれたらそうしてあげる。

だから、もういい加減あきらめたら?」


「嫌だ!僕は絶対に諦めない」


「みあげた根性じゃない。

あなたは、10年生きられる自分だけの今を選ぶより、

可能性零の絶望の背後にあるみんなの未来を選ぶわけね。


あなたは、孫悟空がお釈迦様と勝負する話は知っているわよね?

 私がお釈迦様タナトーガならあなたは悟空サトバよ。

あなたが筋斗雲でどんなに速く、そして遠くまで移動したとしても、

あなたは所詮私の手の上の4次元時空サトバの檻の中なのよ。

 それにね、時間や空間だけじゃないわ。

あなた達が普段自分の意志で考え行動していると感じている感覚質クオリアは全てまやかしなのよ。


すべては脳の神経伝達物質による化学反応・・・・に過ぎないのよ。

そして、それら全てを操っているのは私、

5次元人ボーゼサットクオリアなんだから」


「違う!僕達人間の心は化学反応なんかじゃない!

他のだれのものでもない。

自分達のものなんだ!」


「あらあら、残念。交渉決裂ね!さようなら。


これは私の生み出したブラックホール。

このブラックホールホールは私が特別に細工したもの。

この中ではあなたは決して死なないわ。

 でもね、あなたがどの時代のどこに飛ばされるかは全然わからないから

せいぜい、その身が消え行くまで孤独な絶望を味わいなさい。

じゃあね~」



「うわぁぁぁぁぁぁー!」








「そうか……、僕は飲み込まれたのか……」

僕の意識は薄れていった。




 


そして僕は、長い長い眠りの果てに、

意識を取り戻した。


そして強く誓った。僕は決してあきらめないと。

絶対に、この宇宙とふるさとの地球、

そして愛理栖を救ってみせると。















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↑【登場人物】

愛理栖アリス(5次元少女アイリス)

•ひかる

•クオリア(5次元少女クオリア)

阿修羅アスラ

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