polychoron's demon 神境通

「でもさ、あんたが5次元人って証拠は?」

あたしはこのとき厨二病少女に現実をズバっと突き付けた……つもりだったんだけど。

「仕方ないね。力はむやみに使えないんだけど、

今回だけ特別だよ!」

彼女はそう言って、あたしの手首に小さなデバイスを装着した。

「これは何?」

「これは私の力を制御するためのトランスデューサー。

私の意志で5次元空間に干渉できるようにするの」

「5次元空間って?」

「キミ達の世界は3次元空間と時間で構成されているでしょ?

それに対して私達の世界は4次元空間と時間で構成されているの。

4次元空間とは、キミ達が想像できないような方向に広がっている空間のことよ。

それをさらに一つ足したものが5次元空間。

私達はその5次元空間を自在に移動したり変形したりできるの」


「えっ、そんなことできるの?」


「もちろん。見せてあげるわ」

女の子がそう言って、あたしに連れられて、近くの丘の高台に登った。


不思議な風貌の少女があたしの手を引いている姿。

それ町の人たちに絶対怪しまれると思ってあたしは最初は乗り気じゃなかったんだけど、

何故か誰にも会う事なく丘の高台までたどり着くことができた。

「さっきのはあなたの力?」


「私の事は愛理栖でいいよ。

そう、私の力。

普通の人には私の姿は見えていないから」


「すごいね。でも偶然かもしれないよね?」

あたしは往生際悪く意地悪にそう言った。


「もちろん、見せるのは今から。キミは真智ちゃんでいいんだよね?」


「そうだけど」


「真智、今から絶対に私の手離さないでね」

愛理栖がそう言ってあたしに握手を求めてきたからあたしは握手に応じる。

すると、信じられないことに彼女は高台から崖の下めがけて走り出した。


「ちょっとちょっと、落ちるって!

わあああ、落ちるって!ちょっとホントに死ぬ死ぬ死ぬ」

こんな非常事態なのに愛理栖が冷静なのはなんで?


次の瞬間。

急に景色が変わった。

崖から落ちそうだった場所から、突然別の場所に移動したみたい。

周りを見渡すと、緑豊かな森や湖や山が広がっている。

空気も清々しくて、鳥や虫や動物の声が聞こえてくる。


「イタタタ、痛った〜い!」

あたしは柔らかい草原に尻餅をついた。


「真智ちゃん?私が5次元人って事これでわかってくれた?」

愛理栖は崖の上から飛び降りてきて、あたしにそう言った。


「うん……わかった」

あたしはさっきの体験に対していまだに驚きを隠せなかった。


「じゃあ、仲間を探しにいこ!」

愛理栖は笑顔であたしにそう言った。


「その前に、さっきのような力もう1回見たいんだけど見せてもらってもいい?」

あたしは興味津津で愛理栖に聞いてみたが……、

駄目だった。


「この力、むやみに使えないの」

愛理栖はうつむき加減でバツが悪そうだった。


「どうして?」


「この力をキミ達に見せる事ってけっこうエネルギーを使うの。

キミ達はエネルギーを補給する為に食べ物を食べるよね?

それって大半は元々生き物よね?

キミ達は生きる為に生き物と呼ぶ有機物を食べるけど、

私達5次元人は生きる為に他の5次元空間、

つまりキミ達の文明の言いかたでは別の宇宙と言えばいいかな。

それらを食べなきゃ生きていけないの。

 つまりね、その宇宙に含まれる膨大な量の情報を食べて取り込むことで、

時間の経過に従い徐々に増加するエントロピーという自然界の絶対ルールに抗って生きてるの」



「そうだったんだ。あたし自分勝手なお願いしようとしてごめんね」


「そんな、大丈夫だよ」

愛理栖は笑顔でそう応えてくれた。


「ところで、これからどうやって仲間を探したらいいの?」


「う~ん……そうね~」


「仲間の条件ってあるの?」


「縁。

これくらいしかわからないの」


あたしは愛理栖の言葉に首をかしげた。


「縁って、どういう事なの?」


「私達5次元人の存在や力や生態に関して薄々気付いている人。

キミ達の世界ではまだ認知されていないけど、私は実はずっとキミ達の世界と交流してきたの。

 でも、それは秘密にしなきゃいけないことで、一部の人しか知らないの。

その一部の人が私達の協力者なの」


「なるほど。でも、どうやってその人達を見つけるの?」


「それが難しいところなの。

私は訳あって直接彼らと接触することはできないから、特別な方法で見つけなきゃいけないの。

それに、危険も伴うかもしれないから、

信頼できる人しか仲間にできないの」


「特別な方法って、どんな方法?」


「それは……」

愛理栖はここで言葉を切った。

彼女はあたしの目をじっと見つめて、何かを考えているようだった。


「真智、私はキミに信頼できるかどうかわからないけど、キミに教えてあげることにしたわ。でも、これは絶対に他言しないでね。約束してくれる?」


愛理栖はそう言って、あたしに真剣な表情で訴えかけた。


あたしは愛理栖の迫力に圧倒され、

なかなか次の言葉が出てこなかった。


「後ですぐにわかるよ」

会ったら適正者かどうかすぐにわかるらしい。


また、愛理栖は言った。

外国とか宇宙とかそんなものではないらしい。

 対象の人物に近づくと、

理屈抜きにビビっとくるはずだって。

あたし、それほんとに信じていいのかな?


「よう! 真智」

道端で挨拶してくれたのはあたしのクラスの担任 谷先生。


「ビビ~っときましたー!」


「何なの、その探し方ダッサ〜!

ハハハ、ハハハ♪」


「もー!

だから、言いたく無かったのに〜!」

愛理栖は顔を赤くすると、

幼い子供が親に駄々をこねるような仕草であたしの肩を叩いてきた。


「あ〜、愛理栖ちゃん、あたし背中のそこ凝ってるんだよねー」


「ねえ、真智ちゃん? この人!」

愛理栖はそう言うと、

あたしへの抵抗をピタリと止め、

目の前の谷先生の方を向いた。


「愛理栖ちゃん?その人一応先公だから

指探すのは止めよ」


「なあ、この人って誰や?」


(谷先生も愛理栖がみえる人なんだ~!)

「先生確か一人暮らしでしたよね?

この娘愛理栖って言うらしいんですけど、

今から愛理栖と2人で先生の部屋におじゃましてもいいですか?」


「 散らかってても構わへんならええよ。

ただし……」

谷先生は付け加えた。

「そのかわいいお嬢ちゃんはいいけど、 あんたは嫌~」


「それは無いじゃん、 先生~!」

あたしはすがるように先生に頼んだ。


あたしは愛理栖と先生、 2人にいいように遊ばれながら先生の家に向かった。トホホ。


「なあ真智? うちな、 このお嬢ちゃんと昔どこかで会った事あるみたいなんやけど知らんか?」

まるでコソコソ話でもするように、先生はあたしに聞いてきた。


「あたしも不思議と昔親しかった気はするんだけど……。

でも最近まで面識が無かったからよくわからないんです」


先生の家に到着♪

「あんたら、 ちょっと待っててや」

先に部屋に上がり谷先生がガチャガチャ慌ただしく立てる音は正直うるさい。


その後先生から呼ばれて あたし達は家にお邪魔した。

先生には5次元の事と愛理栖が特別な力を持った仲間を集めていることを話した。

「なるほどなあ。 信じる。 仲間になればいいんやろ?どうすればいいんや?」


「ね~、愛理栖?

だからあたしはまだ話すのは止めとこうって……え?」


「だから、 信じるって言ったんや。 悪いか?」


「いえ、 信じてもらえて話が早くて助かったんですけど、

どうしてすぐに信じてくれたんですか?」

あたしはそのことが今は不思議で仕方ない。


「実はな、 この前押入れを片付けてたら全然見覚えの無い絵が見つかってな。 うちは何か普通じゃない事が起こる前兆かと思ってたんや」


「その絵、 みせてもらっていいですか?」

愛理栖がお願いすると、 先生はその絵をうちらの前に持ってきてくれた。

その絵は幼児がクレヨンで描いたような絵で、 妖精のような女の子と男の子が仲良く手を繋いでいる絵って言ったらいいかな。


あたしはこの絵をみても何も思いだせなかったけど、 愛理栖はどうやらなにか心当たりがあるようでひどく驚いていた。


「この名前、 私の名前ですよ!」


「どうして? 愛理栖っていう名前があるのにアイリスが名前なの?」

あたしは疑問を隠せず愛理栖に聞いた。


「愛理栖っていうのは私のほんの一部分だけの名前なの。

私は5次元人としての全体としてはアイリスって言うの!」


「そうだったんだ。 それでこの絵は愛理栖が描いたわけなの?」


「それが不思議なんだけど、 私もこの絵を描いた記憶はどこにも無いの」

愛理栖は驚きのあまり、暫く絵を見つめながら硬直していた。


「きっと考えすぎだよ。 偶然じゃない?」

あたしは愛理栖にそう言った。


「真智はどうして偶然だって思うの?」


「アイリスって響きいいよね? この絵を描いた幼児が好きな童話の登場人物の名前とかかもしれないし……」


「でもそうしたら、 どうしてそれが恵美さんの家の押入れに入ってるの?」


「ごめん愛理栖、 あたしもそこまではわからない…」


「まあまあ二人とも議論は程々にしなよ」

谷先生があたし達の仲裁に入ってくれた。



「そう言えば真智? もうすぐ可織ちゃんの命日だね?」


——————————————————————

↑【登場人物】

真智まち

愛理栖アリス(リトル愛理栖)

•谷先生

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