第9話 邂逅
それからも『赤の森』での戦闘は続いた。次々と湧いて出てくる『昆虫系怪物』、『ドリルのような針を持つ蜂』、『大カブトムシ』、『赤いサソリ』、etc。数え上げればキリがない。
「はぁ・・はぁ・・・おい!どうなってんねん?!この森は?!虫だらけやないか?!」
「そうですね、さすがに今日は数が多すぎます。普段はここまで出現しないのですが。しかし、『動物系』が出てこなかっただけマシですね、『黒虎』とか。あっ!見えました!出口です!」
先を歩いているシルファが笑顔で振りむく。ほぉーと大きくため息をつくソラ。
「やっとかい・・・。ていうか、『虎』までいんのかい?!てか、なんでシルファ―ナはそんな元気なん?」
「これくらいで疲れていたら、この先、持ちませんよ!あと、私の名前で遊ぶのやめてもらっていいですか?」
「はぁ・・・これから先、どうなんのーーーー?!」
「しっー!大きな声を出すと、また出ますよ!」
「えっ?!それはまずいやろ!」
「あっ、先にずるい!」
シルファを追い越して、赤に覆われた森から指す光へ向かって駆け抜けるソラ。この虫地獄の森もようやく終わりかと思うと、少し元気が出てきた。
「うわぁ、広い平原やぁ!ていうか、晴れてるなぁー!」
赤い森を抜けた先に広がるのは、緑色に染まる雄大な平原。
眩しいくらい晴れ渡る蒼い空。
この緑と蒼のコントラストが、まるで絵画のようだ。
そのコントラストの先に、小さいが、街のようなものが見える。
「もう!いきなり走らないでください!つまづいたら、危ないです!」
「シルファ、お前、いつまで俺を子供扱い・・・ん?あれ、なんや?」
ソラの目線の先に、数人の人間のような姿が見える。シルファもそれを確認すると、少し見つめた後、顔色を変え、ソラの手を引っ張り、森の出口へ戻った。
「もう、いきなりなんやねん?!あれ、人ちゃうか?」
「『魔族』です!」
「『魔族』?!」
シルファは『例の腰のバックパック』から望遠鏡に似た道具を取り出し、その集団を確認する。少し見ると、ハッと息を飲み、再度食い入るように見つめた後、真剣な表情で俯いた。
「なんやねん?!俺にも見せてや!」
「いえ・・・ダメです・・・」
「はぁ?!貸せ、それ!」
シルファから望遠鏡をひったくる。「あっ」と声を上げたシルファだが、既にソラは望遠鏡を覗いていた。見えてきたものは、3人の戦士のような恰好をした人物。しかし、顔を見ると、青白く、耳が大きく尖っている。全員、男性のようだが、手には、大きい剣が握られている。そして、3人の魔族の戦士が刃を向けている先には・・・
黒髪、左眼に眼帯、右眼に真紅の瞳を湛えた少年の姿があった。少年は憔悴しきった表情をしている。年齢は、6~7歳か。こちらも耳がちょこんと尖っていた。少年がじりじりと後退する中で、背中に背負っているモノも見えた。少年と同じ髪と瞳をした赤ちゃんだ。眠っているようだ。
「アカンアカン!それはアカンわぁーーーー!!!」
「ソラ様!!!」
シルファが止める前に、ソラは『空剣エアリアル』を発動。森から飛び出し、弾丸のようなスピードで一直線にその集団へと飛んでいく。
「ちょっと待てや!お前らーーー!!!」
いきなりの乱入者に、驚く一同。ソラはそのままのスピードを維持したまま、左端の魔族の戦士の前で、『躍動』を発動。勢いを止めることなく、空中で一回転し、その衝撃を乗せた一撃を食わらせる。魔族の戦士はなんとか大剣で防いだものの、あまりの衝撃に倒れてしまう。その隙に、戦士たちと少年の間に割って入るソラ。
「大丈夫か?!少年!」
「はい・・・あの・・・あ、ありがとうございます」
「背負ってる赤ちゃんの方も、大丈夫か?!」
「は、はい。アンジュは、妹は、眠っています」
「ふぅ・・・とりあえず安心したわぁぁぁ・・・ていうか、お前ら!寄ってたかって、なんやねん?!こんなガキと赤ちゃんに、デカい剣、向けてー?!なんや、お前ら、誘拐犯か?!それとも、揃いも揃って、幼児趣味か?!気色悪い!!!あーーー気色悪いねん!お前ら!!!」
烈火のごとく、痛烈なツッコミを入れるソラ。気圧される3人の魔族達・・・と少年。しばらく睨み合いが続いたが、魔族の戦士の一人がソラをじろじろと見ながら話し出した。
「きさま、その金髪と蒼い眼、そして、透明な剣。まさか、天空の一族か?」
「おう、俺は『天空の王国シルフォニア』の王子、ソラ・シルフォニア!・・・ってことらしいで!」
「ら、らしい?」
思わず聞き返す少年。キョトンとする一同。
「だぁーーーうるさい!俺もよく知らんねん!今日、この世界に来たばっかりやからな!」
キレるソラ。戸惑う魔族の戦士達・・・と少年。
「ソラ・シルフォニアといえば、13年前の『シルフォニア侵攻』から行方不明のはず、なぜここに?」
―――今がチャンスじゃねーか。でも、この少年と赤ちゃんを連れて、どうやって逃げる?そう、『エアリアル』で・・・そうか!
ソラがそう思った瞬間、真ん中の戦士が、ぐわぁと叫び声を上げた。腹から大量の出血をしている。
「今です!」
姿が見えないシルファの声が聞こえると同時に、大量の煙幕が周りに噴き出した。ソラは『ここだ!』とばかりに『詠唱』した。
『エアリアルよ、蒼い天空へ飛び出す船を!』
空剣エアリアルが蒼く輝き、『変形』する。
そう、これは天空という海を渡る船、もとい『白く輝くサーフボード』
『飛空具現化』
ソラは『飛空』の応用を、この危機的状況で無意識にやってのけたのだ。
「おっしゃ!乗れや!少年!」
「えっと・・・」
「いいから乗れ!妹を守りたくないんか?!」
「・・・はい!」
ソラと少年が『白船エアリアル』に乗り込む。船前方から突き出している舵を握る。
「シルファーーー!!!」
大声に叫んだ瞬間、煙幕から何かが飛び出してくる。一瞬、ピカッと光ると、金色の髪を振り乱したシルファが出現し、そのまま『白船エアリアル』へ乗り込む。
「あとでお説教ですよ!ソラ様!」
「おう!」
4人を乗せた『白船エアリアル』は、灰色に包まれた世界を突き抜け、蒼い天空へと登っていった。
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