第2話 少年は少女と再会する
とある高校の中庭。ボロボロの汚い立ち台の上で、二人の少年の声が響き渡る。
「こいつ、イケメンでしょ?金髪碧眼なんて、漫画でしか見たことないでしょ?」
「そんなことあるかい!外国行けば、いるやろ」
「こいつ、これで、ゲイなんですわ!」
「ちゃうわ!いつから、そんな設定、追加されたんや!」
「しかも、自分も童顔のくせにロリコン」
「最悪やないか!」
「そんでもって、ドMです」
「トドメやないか!どんなやつや?!見せてほしいわ!」
「こんなん。うぇっうぇっへへへへ!そこの少年、ちょっとこのムチで、ワシのこと、しばいてくれへーん?!」
「えーかげんにせいや!」
「これが、普段のこいつです!」
「ちゃうわ!もうえーわ!!!どうも、ソラダイチでした!」
立ち台に集まっていた同級生たちがワイワイと騒ぎたてる。最後にソラは大声で叫ぶ。
「みんなー、今週の日曜、駅前のライブハウスで、前段やらせてもらうから来てなー!」
パラパラとした拍手の中、『放課後の漫才タイム』が終了した。
円城寺空と相方の
「ソラ!今日も可愛かったよ!」
「なんやねん!可愛かったって、オモロかったやろ?」
「うーん、まぁ、ソラとダイチが面白いことやってるから、みんな、見に来るんだと思うよ?」
「なんかへこむわ・・・」
「でも、最近のお笑いの人達って、かっこいいこともステータスみたいなものじゃない?」
「まぁ・・・」
ソラは、それでもやっぱり純粋に『面白い』やつには、今のままでは敵わないと思っていた。相方の大地は、その横でこの後、女の子たちと遊ぶ約束を取り付けていた。
「おいおい!ライブ明後日だぜ?!」
「まぁまぁ、これも『笑い』の勉強やって!」
ソラは、この相方の大地が、とにかく女の子にモテたいためだけに、お笑いをやっていることは知っていた。それを承知で、コンビを組んでくれと申し出たのは、ソラだったため、文句を言いたいが、あんまり小うるさいことを言って、ライブ前に雰囲気を悪くしても、アレなので、ため息をつくだけにしておいた。
「ソラも遊んでいこうよ!」
ソラにもお誘いの声がかかる。 俺、帰って、新しいネタ考えたいんだけどなぁ。迷っていると、携帯が鳴った。親父だ。
「もしもし、なに?」
「おう、まだ学校か?」
「あぁ、放課後の漫才してた」
「悪いが、今すぐ家に帰ってこい」
「えっ?なにかあったん?」
「お前に客人がきている。大事な客人だ」
「はぁ?誰?」
「説明が難しい。しかし、大事な客人だ。いますぐ帰ってこい」
それで電話は切れた。しかし、あの親父がずいぶん真剣な声だった。これは何かあるかもしれない。
「ごめん、用事できたわ!また今度な!」
女の子達のブーイングをかわしながら、学校をあとにした。
◆
百段はある石造りの階段を登る。新緑の木々がそよ風とともに踊る。登りきると、見えてくるのは、ソラにとっての『帰る場所』、円城寺だ。歴史ある寺は、費やしてきた年月の分だけ重みを感じさせる。
「ただいまっと!・・・ん?」
白い庭がいつもと違う、光を放っていた。
まるで朝日のように黄金に輝く金髪。後ろに結った姿は凛々しさを感じさせる。サファイアよりも深い蒼い瞳。神話に出てくるような女神にも似た美少女。微笑みながら、空を仰ぎ見る相貌は、時が止まっているようだ。
『彼女』はソラを見つけると、小さく驚いた。そして、微笑み、ゆっくりと近づいてくる。輝くような美貌が眼前まで現れる。見ると、蒼の瞳からぽろぽろと涙が溢れだしていた。そして、母親が自分の子供を抱くように、ソラのことを抱きしめた。
「やっとお会いできましたね、ソラ様・・・!」
円城寺空、完全停止。あぁ、なんて優しいんだろう。このまま・・・って、ちゃうやろ!
「・・・・・・っ!いやいやいや、初対面やし!」
顔を真っ赤にして、バババッと仰け反るように、バックステップを踏むソラ。雰囲気台無しのツッコミが炸裂する中、彼女はクスッと笑う。
「いきなり申し訳ありません。私は、『シルファ・シエル』と申します。ソラ様、あなたのことをずっと探しおりました。本当にずっと・・・」
「こんな美人と会ってたら、いくら奥手歴年齢の俺だって覚えているわ!」
「やはり覚えてはいないのですね・・・」
シルファが大事な人を失くしたような悲しい顔をする。先ほどの嬉し涙も、悲しい涙に見えてくる。
―――ヤバい!
「あぁ、思い出した!あれや、生き別れたお姉ちゃんやろ!会いたかったよ!最後に会ったのは、確か、中学校の修学旅行で行った京都の・・・」
「ボケもたいがいにせい!ソラ」
ソラがなんとか場を取り繕おうと、必死になっていると、本堂からがっしりとした人物が現れた。黒髪、40歳半ば、背が高く、袈裟をなんともオシャレに着こなす壮年。目つきが悪いので、不良がそのまま大人になったようだ。円城寺住職、
「親父!邪魔すな!今、思い出すから!確か・・・奈良の・・・鹿と戯れている時・・・」
「もうえーわ!お前の微妙なボケにシルファさんが困っとるわ!」
「微妙いうな!」
「あははっ!」
二人のやり取りを見て、シルファが思わず噴き出した。
「仲良しですね、お二人とも!」
「「誰がこんなアホ!」」
二人揃って、ツッコミを入れると、またシルファはクスクスと笑った。
―――良かった。笑顔めっちゃ可愛いやん。
「コホン。とにかく中に入れ、ソラ。結構ヘビーな話だから覚悟しとけ」
「げっ・・・俺、ちょっと髪切ってくるわ」
「一昨日行ったばかりだろ。いいから来い」
「えー・・・マジ話苦手なんだよ、俺。親なんだから、知ってるだろ?親父」
「そのお前の『両親』に関する話だ」
「えっ・・・」
―――両親?
さっきまでテンションはどこへやら、ソラは虚を突かれた。身体の体温がどんどん下がっていくような感覚。自分の一番触れてほしくない部分。
すると、シルファは左手をスッと伸ばして、ソラの右手を優しく握った。
「ソラ様、行きましょう。まずは、お話しましょう」
ニコッと笑うシルファ。ソラは自分でも驚いていた。シルファに手を握ってもらうと、心が温かくなってきて、不安が消えていくのを感じた。いつもはツッコミを入れるところだが、今は素直に従うことにした。
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