第8話 敵との遭遇
光が完全に消えると、俺の体に変化が起き始めた。
「ヨシノ様、体に違和感がございませんか?」
俺が自分の体の中に変化を感じるのと同時に、カスパールが駆け寄ってきた。
「ヨシノ様に素養があれば、そろそろ体のどこかしらに違和感を感じるはずです」
「は、はい。なんというか、感じたことのない感触というか、お、おぇええええええ‥‥‥‥‥」
なんとも気持ち悪い感触が俺の体を駆け巡る。
そしてその感触は加速度的に広がっていく。
「結構結構!そこまで気持ちが悪いのなら相当魔力は大きいですぞ!」
カスパールは何やら喜んでいるようだが、俺には全くそんな余裕などなかった。
不快感はピークを超え、頭痛と腹痛が俺の体を襲い始めた。
俺は立っていることができなくなり、その場にうずくまる。
「ヨシノ様?ヨシノ様!大丈夫ですか!」
カスパールも俺の異常に気付いたらしい、さっきまで喜んでいた顔に不安の色が見え始める。
俺がうずくまって数秒経つと、周りの草木が揺れ始めた。
その揺れは伝染する様に中庭に伝わり、中庭を囲んだ窓が揺れ始める。
風がさっきの魔法と比較にならないほど吹き荒れ、草木が削られて宙に飛ぶ。
「う、うぐっ‥‥‥‥‥ぐあぁああああああああ!!!!!!!」
俺の痛みは全身を捩じ切られる様な無茶苦茶な痛さに変わっていた。
そして俺の痛みがピークに達し、絶叫しそうになった瞬間
----空気が爆ぜた。
「……………ッ!!!いかん!!!」
カスパールは何かに気付いたように、急に俺を抱き上げて走り出した。
「ヨシノ様!すみませぬ、不測の事態が発生いたしました。この場から絶対に避難せねばなりませぬ!!!」
カスパールは動けない俺を抱えたまま、俺達が中庭へと入った道とは逆の方向の扉へ走っていく。
廊下に入ると、沢山の黒いローブを着た人々が右往左往していた。
「カスパール様!第一結界、第二結界、第三結界が全て大破しました!」
「撹乱装置が大破しました!」
「報告!敵影発見!撹乱装置の故障により敵に発見されたと思われます!」
「数は!?」
「一です!まっすぐこちらに向かってきます!」
「一人ってことは千人級以上か!くそっ、最悪だ!!!」
それぞれが口々に状況を報告する。
廊下は大きく混乱していた。
「皆の者!これより非常事態として私が全ての指揮を請け負う!指示に従え!」
カスパールがそう言うと、一瞬その場が静まり返る。
そして黒いロープを着た人々は互いに目を合わせて、声を揃えた。
「「「「了解!!!」」」」
「よし、これから私はヨシノ様をどこか安全な場所、そうだな、王宮に送り届ける。その間第一部所から第四部所が結界及び撹乱装置の修復、第七部所がやってくるであろう敵影の監視、残りの部所が外敵の排除に当たれ!」
「「了解しました!」」
「千人級以上の可能性があると言っていたな?その場合は戦えるかどうか判断し、不可能なら時間稼ぎだけしたらこの場を放棄して散開しろ!最悪この建物は奪われて構わん!」
「「はっ!」」
カスパールはテキパキと指示を出していく。
一方俺はと言えば未だに猛烈な痛みに襲われているままで、意識を保つので精一杯だった。
状況はうまく理解できないが、何やら周りが騒がしくなっていて、意識がなくなるのはどうしても避けなければならないことは直感で理解できた。
「ヨシノ様!‥‥‥‥聞こえていると信じましょう、強力な敵がやってくると思われます!今から共に避難しますので諸々ご了承ください!」
俺を地面に仰向けに寝かせると、カスパールは両手を合掌する。
「『仮面』」
カスパールがそう唱えてもなにも目に見えたことは起きない。
しかし、カスパールは別段変わった顔をしていないのでこの魔術はこれで正しいらしい。
「行く場所は王都です!そこなら安全かと」
カスパールは俺を背負って廊下を駆け抜け、外に出る。
そして空を確認すると、また合掌しなにやら呟いた。
すると俺たちの体は徐々に浮遊し始め、あっという間に魔術院の高さを超える。
カスパールが浮遊しながら王都の方向を確認し、その方向へ飛行しようとした瞬間、
赤いレーザーの様な線が魔術院を照射し、魔術院は崩壊した。
「いかん!降りますぞ!!!」
カスパールはほとんど落下に近い速度で魔術院から少し離れた茂みへ飛び込む。
俺は急な落下に全身が一瞬震える思いをした、と言いたいところだったが、嬉しいことに全身の痛みはまだ続いており、落下による浮遊感などほとんど感じる暇はない。
とはいえ、自分の痛みと浮遊感が評価できる程度には痛みは治まり始めていた。
「ヨシノ様、答えられるのなら返事をください!敵がこの場に現れました、もはや逃げることは不可能です。迎撃に移ろうと思いまする!」
「は‥‥‥‥‥はい」
俺は何とか痛みに耐えつつ答えることができた。
意識も少しずつだがはっきりしてきている。
まだ俺は背負われたままだったので、自分からカスパールの背中を降りた。
「おお、気がつかれたのですな。それなら今から戦闘が開始されますので、自分の足でできるだけ目立たない場所にお隠れください」
「‥‥‥‥‥はい」
ここは俺も戦う、とか言うと主人公らしいのだろうがあいにく俺に戦闘能力はない。
俺はおとなしくカスパールの指示に従うことにした。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「おかしい、確かに巨大な魔力がこのあたりにあったはず」
俺がさっきの光線で崩れた建物の下に隠れて間もなく、カスパールの前に小柄な青年が現れた。
概ね人間と同じ形をしているが、大きな違いが一つ。
左肩に大きな眼球が埋め込まれていた。
「おいそこのお前、何か知ってんだろ」
明らかに人ならざるものの風体をしているそいつは、間違いなくさっき魔術院を破壊した張本人だった。
そいつは、右手に赤い光をバチバチと鳴らしながらカスパールを脅迫する。
「左肩に副眼、となると魔王軍第十三席、グギャアル様でよろしいですかな?」
そいつはカスパールの質問には答えなかった。
カスパールから数歩下がり、右手の赤い光を肥大させていく。
どうやらそれがカスパールの質問に対する答えらしかった。
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