第7話 魔力検査
俺はカスパールに連れ出され、元いた建物の外に来ていた。
外はもう明るく、時刻は昼より少し前くらいだろうか。
後で聞いた話だが、俺がいた部屋はセミラミス王国国立魔術院という施設の客室らしい。
中学生の頃にテレビで見たヨーロッパの宮殿のような廊下をしばらく歩き、石でできた横幅が五メートルはあろうかという階段を降りると、外に出ることができた。
今いる場所は魔術院の中庭のような場所らしく、外ではあるが四方は建物に囲まれている。
中庭と言っても運動場並みに広さはある。
「魔術というのは人間が自らでは入れない領域に足を踏み入れることができる奇跡の技のことでございます」
カスパールは中庭の壁近くの日陰に立つと、俺も日陰に入ったのを確認して話し始めた。
「発見されたのはおよそ千二百年前だと言われておりますが、詳しいことはわかりません。しかしこの世界におけるその力は絶大で、我々の歴史は魔術抜きには語れないのは間違いないです」
テンプレ通りの話で安心する。
しかし、カスパールは発見された、と言っていたが、この世界の人間が元来使えるものなら発見もクソもないんじゃないか?
人間、手とか足とか元から使えるものに「発見」という言い方はしないだろう。
「いろいろと話すべきことはありますが、今は一旦割愛させていただきます。後にまとめてこの国の歴史と合わせて学ばれた方がわかりやすいかと存じますので。なのでまず一番重要なことなのですが、魔術を使うのに必要なものは何よりもまず、魔力です」
「今から俺が持ってるかどうか調べるやつですね?」
「そうです。これはこの世界の人間にも共通することなのですが、その魔力を持つには必要な条件があります」
何だろうか?
水晶玉みたいなのに触ったりするのだろうか?
「魔術を直接見ることです」
「‥‥‥‥‥へ?」
「詳しく言えば、魔術が行使される様子を『魔術が行われている』と認識して目撃することです」
「そんな簡単でいいんですか?」
水晶に触ったり、異世界に転移した瞬間からできるのだって簡単と言えば簡単だが、何と言うか「見る」だけってのは単純すぎると思う。
「というかそれなら昨日、魔術みたいなのを見た気がするんですが」
それだったら俺はもう魔術が使えるんじゃないか?
「確かに昨日、我が弟子ユルトがヨシノ様に翻訳魔術を施しました。しかし恐らくその時は『魔術が行われる』と認識していなかったのでしょう。原理はまだわかっていないのですが、魔術を使う素養のある人間が魔術を見ると、自分の魔力の存在に気づくのです」
「気づく、ですか」
「はい、先ほど『魔術が行われていると認識して』と言いましたが、その言葉通り魔術と認識せずに魔術を見た場合、たとえ素養のあるものでも自分の魔力に気づくことはできません。重要なのは認識です。」
俺がまだ説明が腑に落ちず首を傾げていると、カスパールは言葉を続けた。
「わかりやすく言えば、他人の魔術を見て参考にするようなもの、ということです。何かの達人がいくらすごいことをしていたって、何も知らずに見ていては何のことだかわからないでしょう?何をしているか理解すれば、その行動の意味も理解できる」
何となくわかったような、わからないような、という感じだ。
「正確には少し語弊がありますがざっくりまとめますと、魔術を直に見れば体がそれを参考にして魔力に気づくことができる、ということですな」
「わかりました」
うん、まあ納得できた気がする。
納得したら早く魔術を見たくなってきた。
「さて、それでは早速魔術をお見せしたいところですが、その前に注意がございます」
焦らすなこの爺さん、と俺は心の中で愚痴を言った。
俺は魔術を使えるかもしれないということがわかると、本格的にこの世界に来たことに対するワクワクを感じ始めていた。
「まず、魔力を自覚した瞬間は酷く言い表しにくい感触を味わいます。初めのうちは不快感のように感じられますが、それは魔力の感覚そのものなので安心してください。そのうち慣れます」
それを聞いても俺のワクワクは止まらなかった。
早く魔術を見たいという気持ちは少しずつ膨らんでくる。
「そして、稀に魔力を自覚した瞬間は周囲の様子が変わることがあります。自覚した魔力が漏れ出ることが関係する現象です。もしヨシノ様の魔力が非常に強かった場合は、大きな風などが吹く場合がありますが驚かないでください」
「わかりました!」
「ほっほっほ、そんなにキラキラした目で見ないでください。こちらが照れてしまいます」
どうやら知らずに目を輝かせてカスパールを見ていたらしい。
カスパールの目はまるで自分の可愛い孫を見るような目になっていた。
俺は少し恥ずかしくなって笑った。
「さて、これ以上もったいぶるのもやめて、魔術をお見せするとしましょう。ヨシノ様がご覧になるのにふさわしい魔術を披露してみせます」
カスパールは俺から離れ、中庭の中央の方に歩いて行った。
そしてちょうど中庭のど真ん中に立つと、両手を合唱した。
「ふっ‥‥‥‥‥‥!!!」
カスパールが息を吐いて両手に力を込めると、その足元に何重もの円が浮かび上がる。
円はどんどんその数と大きさを増やしていき、ついには中庭全体の地面に光の円が描かれた。
そしてその円はカスパールを中心に回転し始める。
回転はどんどん加速していき、光は球の形になっていく。
俺にはカスパールが光の球の中にいるように見えていた。
光の球の回転は絶頂に達し、風が吹き荒れる。
するとカスパールは両手の合掌を解いた。
瞬間、風が止む。
「--------『極光』」
カスパールがそう唱えた瞬間、光の球が空に打ち上げられる。
そして球は音もなく、弾けた。
光が空から放射状に降り注ぐ。
そしてその光は徐々に収束していき、中庭全体に光のカーテンを作り出した。
「すげえ‥‥‥‥オーロラみたい‥‥‥‥」
俺はそれ以上の言葉を紡ぐことができなかった。
ただただ美しい光景だった。
中庭の緑が光り輝き、草木の生命力がこれでもかというくらい強調される。
風もなく揺れる光のカーテンは、眩しいのに目を離すことができず、それでいてただの光ではないことがわかる宝石のような輝きを放っていた。
「ほっほっほ、気に入っていただけましたかな?これが私の誇る最上の光魔法、『極光』です」
カスパールは中庭の隅で光に心奪われる俺に向かって歩いてくる。
俺はカスパールに言葉を返そうと思ったができなかった。
降り注ぐ光に心を奪われていたからだ。
全く光から目が離せない。
感動で言葉が出ないなんて俺には初めての体験だった。
「そんなに感動していただけるとこちらとしても嬉しいですな、ただ、これはあくまで魔術故、数分で消えてしまいます」
カスパールがそう言い終わると同時に、光は弱まっていく。
一度薄れた光は少しずつ消えていき、草木は次第に元の落ち着いた色に戻っていく。
俺は光が薄れた瞬間大きな喪失感を感じたが、すぐに生まれて初めて魔術を見た実感、そしてその美しさに対する今までに感じたことがない興奮を感じていた。
「すげえ。すげえすげえすげえ!!!!!!」
あんなに綺麗なものは生まれて初めて見た。
日本にいたら絶対に見れなかった光景に違いない。
きっと、いや絶対に南極で見るオーロラの数百倍綺麗だった。
俺の興奮は、光が完全に消えるまで冷めることはなかった。
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