第2話 半年前

「ハーハッハッハッハッハッハッハ!!!!私がこの偉大にして絶対的、何者をも寄せ付けぬ最強の力を手にいれた理由を教えてやろう!!!それは!なんと!私が生まれた時まで遡るゥッ!!!私が生まれた時、私の母の頭上には、太陽があった!そして!私が生まれた瞬間!!!全く雨雲などない中でっ!雷が落ちた!いや!断じてただの雷ではない!『神雷』というのがふさわしいだろうぅっっっ!!!思えばその時からすでに!私の英雄譚が語られることはっ!決まっていたことだったのだっ!!!私は太陽と神雷に祝福され(ry…………」


 俺が武勇伝を語り始めてからおよそ四時間が経過していた。

 グリコのポーズ、仮面ライダーのポーズ、ボルトのポーズなど様々なポーズを駆使しながら、できるだけ大きな声で人々に自分の武勇伝を語り続けている。

 もちろん内容は大嘘である。

 先ほどの戦いと同じく音声を拡張する魔法も使っているのでこの声は村中のどこにいても響き渡っていた。

 村人たちの顔には隠しきれていない苦痛の表情が出ている。

 俺が見ているこの場でも苦痛の顔を隠しきれていないということは、今この場では見えていない村人達は恐らく耳を塞いで俺の語りが終わるのをまだかまだかと待ち続けていることだろう。

 ちなみに村人達には申し訳ないが、あと九時間はこの武勇伝を聞いてもらう。

 村を救ってくれた英雄だからこのくらいは許してやろう、という許容範囲は絶対にぶち破らねばならなかった。


 俺がこんな見るに堪えない痛々しいことをしなければならなくなった理由は、今から半年前に遡る---




…………………………………………………………




 引きこもりだからって、暗い部屋でずっとPCをいじっているわけではない。

 しっかり部屋を明るくしてPCをいじり続ける引きこもりもいる。

 かくいう俺も、というか俺はそうだった。


 中学校を卒業して半年、第一志望を落ちた俺が入った私立高校は俺にとってそこそこ楽しい場所になりつつあった。

 学費は高かったが先生達は熱心で、初めの方こそ俺のように第一志望に落ちた生徒達は腐っていたものの、先生達の熱心さ、先輩達の明るさを受けて、目に輝きを取り戻していけたのだ。

 校風は比較的自由で、部活動に対しても熱心な学校だったので、俺は中学から始めていた吹奏楽部に入部し選んだフルートを毎日練習していた。

 吹奏楽部なので男女比には差があり、数少ない男子部員とはすぐに仲良くなることができた。

 男子部員と仲良くなった一方で、俺に目をかけてくれた優しい女子の先輩もいて、今思うと俺はその先輩に惚れていたかもしれない。


 そんな充実していた俺の高校生活は親父の飲酒運転によって一気に終わりを迎える。

 親父は職を失い、社会的地位はなくなり、俺達家族はが生まれた時から暮らしてきた故郷から離れなくてはならなくなったのだ。

 そんな状態で始めた新生活がうまくいくはずもない。

 お袋はずっとパートで働き続けたが、親父は酒に溺れてついには賭博にまで手を出し始めた。

 親父の作った借金を返す為俺も働きに出る必要があり、転校した学校もやめなくてはならなかった。




 そんな生活が続いて一年が経ち、母は家を出て行った。

 

 そして一週間後、父が行方不明になった。


 それから間もなくして、俺は一人で部屋に引きこもった。




 援助してくれる親戚は一人もおらず、俺自体も精神的な病に陥っていると診断された為、意外にも生活保護を受けることができた。

 俺はPCを買って部屋に引きこもった。

 毎日毎日、飯を食って寝て、PCを開いての繰り返し。

 時折自分の置かれた状況と、自分自身のどうしようもなさに絶望して泣いたりもした。




 そして引きこもってもう何日か分からなくなった、そんな時だった。




 いつものように布団から起き上がり、部屋中に広がったカップラーメンの匂いに若干の吐き気を覚えながら、PCに向かって一歩歩いた瞬間--


--何の前触れもなく、俺の目の前に見たこともない巨大な空間が現れた。



………………………………………………………




 俺がまず見たものは、目の前に集まっている沢山の人と思わしき影だった。

 影、というのは正しくない。

 ただ単に黒い服、ちょうど某魔法使いが着るようなローブにフードが付いているものを着た集団をそう言っただけだ。

 そして俺の足元には六芒星を中心に沢山の記号らしき絵が書き込まれている、そしてこれまたちょうど魔法使いが書くような、と形容するのがふさわしい魔法陣があった。


 俺は混乱こそしながらも、自分の置かれた状況を表す言葉に、おそらくは正解であろう答えにすぐにたどり着く。


「異世界‥‥‥召喚ってやつか………?」 

 

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