第7話 マッチ売りの少女を救おう

 物語部の部室で、1年生の樋浦清(ひうらせい)・市川醍醐(いちかわだいご)・立花備(たちばなそなえ)は雑談をしていた。

立花備「今さらだけど、アンデルセンの「マッチ売りの少女」ってひどい話だな」

市川醍醐「だいたいアンデルセンの童話ってひどいですけどね。そういうこと言うとだいたいの童話がひどいわけで」

立花備「マッチなんて普通に路上で売ってて買うか? もっと売れるもの売れよ」

樋浦清「そうだね、春とか」

立花備「そういう、わかりやすい知っててボケるのやめろよ。そりゃ寒い冬の話だから、春が売れればみんな買うよ」

市川醍醐「なお現在使われているものとほぼ同じような、箱の横にあるヤスリに赤燐を、マッチの先に塩素酸カリウムをつけ、こすりあわせて発火させる赤燐マッチ(安全マッチ)は、1852年スウェーデンのヨンコピング社のルンドストレームによる発明で、その後かなり長い間マッチはスウェーデンの産業の一つでした」

立花備「そういう人間ウィキペディアもやめてくれ。なお、『マッチ売りの少女』が発表されたのは1845年で、その本文中に「「壁にこすりつけると火がつく」という描写があるんで、毒性の高い白鱗(黄燐)マッチだったんだよな」

樋浦清「マッチすって危ないものを見る、これが本当のリン死体験!」

 立花備は樋浦清の両肩に両手を当てた。

立花備「だいぶお前の立ち位置もわかってきたようだな、清」

市川醍醐「要するに、備くんがくだらないこと考えて、清さんがボケツッコミをして、ぼくがウィキペディアからコピペすればいいんですね」

立花備「で、せっかくだから、どうしてマッチが売れなかったか、どうやったら売れたか、ってのを考えてみよう」

市川醍醐「売れなかった理由は、えーと、マッチ売り組合も当然あって、デンマークのマフィアとかヤクザみたいなものがからんできてて、それに上納金を払うことができない少女は繁華街で売らせてもらえなかった、みたいな」

立花備「1848年の春にはシュレースヴィヒ=ホルシュタイン戦争によって致命的な経済危機を迎える以前、ナポレオン戦争後より、デンマークは徐々に国土と王室の権威が失われていた時代でもあった云々」

樋浦清「備が北欧諸国の歴史にくわしいのは知ってるよ。で、どうするのよ、マッチ売る方法」

立花備「そりゃ近代のマーケティングと同じだよ。市川とおれの二人でやってみるからな。たとえば…古くする」

市川醍醐「新しい年には新しいマッチを。去年のマッチは捨てましょう!」

立花備「安くする」

市川醍醐「他では1箱100円(当時の価格単位がよくわからないので、日本円にしてみました)のものが、3箱200円!」

立花備「限定する」

市川醍醐「初回限定版!」

立花備「並ばせる」

市川醍醐「最後尾です!」

立花備「有名人の名前を使う」

市川醍醐「伊丹十三も絶賛している、強風の中でも消えないマッチ!」

立花備「サンプルを配る」

市川醍醐「10本セットの試供マッチ配布中です!」

立花備「揃わせる」

市川醍醐「富嶽三十六景マッチ! 次は東海道五十三次マッチ!(これは本当にあったらしい)」

立花備「特典をつける」

市川醍醐「握手券つき!」

立花備「レアにする」

市川醍醐「水着ラベルはレアだけど、女豹のポーズラベルは激レア!」

立花備「一番くじ」

市川醍醐「箱買いのお客様はお一人様一箱限定です!」

立花備「アニメ化」

市川醍醐「アンデルセン物語、アニメになりました!(ちなみに「マッチ売りの少女」は最終話です)」

樋浦清「つくづくずく、ふたりはよく考えると思ったよ。えーと…わたしだったら…こわいおっさんにリベートを払って、無理やり売りつける、みたいな?」

 立花備と市川醍醐は言った。

『それは違法だ』

樋浦清「えー!? ふたりの案は合法なの?」

立花備「当たり前だろ。まあ一番いいのは、タダで配る、って手だな」

樋浦清「あー、わかった! ラベルのスポンサーを見つけて、広告料で稼いで、マッチはタダにする。いいじゃん」

市川醍醐「問題は、それだと数百人の他のマッチ売りの少女が凍死する、ってことですけどね」

     *

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