第6話 学校の上履きをめぐる70年の歴史(『坂道のアポロン』から『ギルティクラウン』)まで

 物語部の部室で、1年生の樋浦清(ひうらせい)・市川醍醐(いちかわだいご)・立花備(たちばなそなえ)は雑談をしていた。

立花備「こないだ『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』見たんだけどさ」

市川醍醐「ああ、ワイルド・スピードのシリーズの中でも駄作のほうで、見どころは渋谷の交差点や首都高速を暴走するところと、ドリフト走行って技術が日本起源だってのがわかることぐらいですね」

樋浦清「え、あれ駄作なの? 私はけっこう面白かったけど」

立花備「ワイルド・スピードのシリーズは駄作な作品でも、ほかの映画より普通に面白いの。気になったのは上履きの件なんだけど、出てくる高校は、おれたちと同じ、縁が学年ごとに違ってる奴だよね」

市川醍醐「ウワバーキ、って主人公が、履いてないところを先生に注意されてますね。東京の和田倉高校って架空の高校で、昼食バイキングが和風懐石だったりして。そうですね、あの中で主人公は青で担任の先生は赤の上履きでした」

立花備「生徒のはおれたちの学年と同じだな。1年生が青、2年生が赤で、3年生が緑。でもって、学年が変わっても色は変わらないでそのまま進級する。新しくおれたちの下に1年生が入って、現在の3年生が卒業すると、新1年生の上履きの色は緑になる」

市川醍醐「そういうのって、今のところぼくたちの物語に直接関係ないから言及してませんけどね。3年生になりそこなった2年生が出てきたら、きっと赤と青の上履きを片方ずつ履いてきたりするんでしょう」

立花備「だけどさ、あいつら屋上で喧嘩するときは上履きじゃなくて普通の靴なんだよ。やっぱ不良に上履き履かせるとおとなしくなるんだな」

樋浦清「オードリー・ヘップバーンにスカート履かせるのとおとなしくなるのと同じようなもん?」

立花備「なお、うちらの学校は、教師は学校指定の上履きじゃなくて、上履きっぽいようなものなら何履いてもいいことになってる。よくわかんないけど、上履きっていつごろからあったの? ある学校とない学校があるのはどうして?」

市川醍醐「立花くんの後者の疑問は、アニメの制作会社によるのでは、みたいな。京都アニメーションのアニメだと、だいたい上履きありの学校ですよね。でも、ない学校もいくらでもありますよ。『魔法少女まどか☆マギカ』の見滝原中学校とか、『アイカツ!』の奴隷の鎖自慢学園とか」

立花備「スターライト学園だけどな。確かにアイドルの通ってる学校って上履きない印象あるな」

樋浦清「アイドルトーナメントの決勝戦で、勝った主人公がアリーナの観客に「この負けた奴どうする?」って聞いて、みんな親指を下に向けて「キル!キル!キル!」って言うアニメ?」

市川醍醐「古代ローマ人は英語じゃ言わないですけどね。そういうアイドルアニメだったらやっぱり、履いてるのはサンダルかな」

立花備「そんなアイドルアニメなんかねぇって。何考えてるんだよお前ら。でさ、『坂道のアポロン』ってあったじゃん」

市川醍醐「ああ、1966年の長崎を舞台にした、ジャズが好きな高校生の、なんかホモっぽいアニメですね。主人公のピアノが弾ける西見薫って名前は、1969年上半期の芥川賞受賞作だった庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』の登場人物、庄司薫にインスパイアされてますね。学年も同じだし」

立花備「主人公が教室で読んでる本が1966年4月刊行旺文社文庫『車輪の下』ってディテールの細かさとか、いろいろ当時の小物に忠実なんだよな」

樋浦清「バス広告の昔のカルピスの看板は改変されてるし、紫煙もくもくの職員室もないし、広辞苑の箱のうしろにダルマとセブンスターと灰皿を隠している文芸部もないけどね」

立花備「そんな文芸部、当時もないだろ。よく知らないから断定はできないけど。ダルマってのはサントリー・オールドか。でもって、主人公と不良の川渕千太郎が、教室で最初に出会うところあるじゃん。え、あの時代、上履きってないの、って思ったんだ。そのときセンの履いてるのって、スニーカー、じゃなくて、運動靴、じゃなくて、ズック、っていうの? とにかく外履きの靴」

市川醍醐「文化祭ではふたりのアドリブジャズ演奏を、こりゃすごい、ってんで学校のみんなが外履きのまま講堂に集まるんですね。もう講堂の中泥だらけ。で、演奏後は、そのままふたりで笑いながら校外へ走って逃げる。アニメの中でももっともホモっぽい場面です」

立花備「まあおれたち、当時のこと知らないから、そうなんだ、って納得するしかないんだけどさ」

樋浦清「『きんいろモザイク』のOPだと、現代、少なくとも21世紀はじめの話で上履きあるんだけど、上履きのままつなぎ廊下から校庭へ駈け出してしまうってのはどういう意味があるのよ」

立花備「あれは多分、このアニメは嘘ですよー、ってことを強く示す演出かな? それより気になるのは『ギルティクラウン』だ。あれって、2039年っていう未来設定なのに上履きある学校なんだよね」

市川醍醐「桜満集とその仲間は縁が黄色で、1学年上の生徒会長・供奉院亞里沙は青。もうひとつは何色だったかな…。だいたい、あの学校の作りって、どこからどこまでが上履き使用で、どこからが外履きなのか一度見ただけではさっぱりわからないんですよね」

立花備「生徒総会で集まる講堂はみんな上履きなんだけど、捕まった旧・葬儀社のメンバーである篠宮綾瀬(車椅子)とツグミは、外履きで壇上に上げらる。その二人は多分学校指定の上履き持ってないんだよな。文化祭の手伝いとかしてるけど」

樋浦清「外部の人と見分けがつくような高度な演出のひとつ?」

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