第2話 めんま殺しの犯人は誰なのか(あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。)

 物語部の部室で、1年生の樋浦清(ひうらせい)・市川醍醐(いちかわだいご)・立花備(たちばなそなえ)は雑談をしていた。

立花備「こないだアガサ・クリスティー原作の映画を見たんだけどさ。○○殺人事件って奴」

市川醍醐「ああ、だいぶ古い、エルキュール・ポアロが出てくる有名な奴ですね。テレビドラマ『名探偵ポワロ』も有名で、何度も再放送されてるんだけど、なんであっちは「ポワロ」表記なんでしょう。そういうの、清さんも好きそうですね」

樋浦清「わたしはそういうのちょっと苦手で…ちゃんと読んでるのってブラウン神父のシリーズぐらいしかなくって」

立花備・市川醍醐「ぐらいしか!」

樋浦清「あと、アントニイ・バークリーと後期クイーンを何冊かと…翻訳されてるの全部読んだのはピーター・ディキンスンぐらいかな。ピブル警視シリーズとか。でもあの人ってミステリー作家なのかなあ」

立花備・市川醍醐「ぐらいかな!」

立花備「…ちょっと清とは次元が違いすぎるので、おれたちだけで話そう、市川」

樋浦清「えー、いーじゃん、勝手に話に参加するよ!」

立花備「でさ、思ったんだけど、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』ってアニメあったよね。めんまってあだ名の子を成仏させてやる話」

市川醍醐「ああ、ぼくも見ましたよ。めんま可愛いよめんま、ですね」

立花備「だけどさ、あの子どう考えても殺されてるよね、超平和バスターズのメンバーに」

樋浦清「何また馬鹿なこと言いはじめてるのよ、そんなのネットのブログで記事にしたら、コメント欄でボコボコにされるよ、備」

立花備「川で事故で死んだことになっている子は、たいてい誰かに殺されてるんだ。『ハムレット』のオフィーリア殺しだって、真犯人はガートルード、ってこないだ教えてあげたやん。アニメ10話でゆきあつが「あの日起きたことを再現してみよう」って言うところでおれは驚いたね。アガサ・クリスティーのミステリーと同じだから」

市川醍醐「言われてみるとそうですね。話を聞きましょう」

立花備「あのアニメ、基本的にじんたん中心の複数視点で書かれてるけど、まあじんたんのいないところでも各キャラは会話・行動してるけどね、で、一番信頼できない語り手としてじんたんがいて、「犯人はお前だ!」とゆきあつが再女装して出てくるのかと思ってちょっとドキドキした」

市川醍醐「それだと犯人はじんたんになっちゃうという、とんでもない叙述トリック。死んだはずの人間が実は生きているように見せかけて、真犯人を追いつめる、というのは古典ミステリーにあるかも」

立花備「そうだな。そういうのないとゆきあつはただの変態だし。結局ただの変態だったけどさ。おれが考えたもうひとつのパターンの真相は、めんま殺しは、実はじんたんとめんまを除いた4人が共同でたくらんだ、って案」

樋浦清「えー? 動機とかそういうのは何よ?」

立花備「それもまた順番に話す。不思議なのは、めんまが残したダイイングメッセージ、ってもう死んでるんだけど、置き手紙の意味なんだよね」

 そう言って立花備はホワイトボードに字を書いた。

     *

やさしい つるこ

がんばりやさんの ゆきあつ

おもしろい ぽっぽ

しっかりものの あなる

     *

立花備「最後のメッセージについている「やさしい」「がんばりやさん」「おもしろい」「しっかりもの」というキャラ設定、このアニメを見てる途中・見終わったあとで4人のそれぞれに「あー、そうだったよなー」ってわかるエピソードないんだよね。「やさしいあなる」でも全然問題ない。たとえばバーベキューのシーンだとソーセージを切ってる「やさしいあなる」だし、最後にちゃんと材料持ってくるのは「しっかりもののゆきあつ」じゃないかな? つまり、これはこう解釈するんだ」

 そう言って立花備はホワイトボードに字を書き足した。

     *

やさしい つるこ(罠を考えた)

がんばりやさんの ゆきあつ(罠を具体化した)

おもしろい ぽっぽ(手伝った)

しっかりものの あなる(逃げ道をふさいだ)

     *

立花備「…で、やっぱ4人がめんま殺した、ということ、めんまはちゃんと知ってるよ、って言う置手紙だな」

市川醍醐「備くんの言うことは、いつもながら無駄に説得力がありますね」

立花備「秘密基地での問題の日、最初はめんまにじんたんが一番好き、って言わせるつもりで、じんたん除いた5人で話そうと思ってたんだけど、前日にめんまが「みんな好き」とか、たわけたこと言ってじんたんも来ることになっちゃったんで、つるこがちょっとゆきあつと相談して当日の段取り変えたんだよね。つまり、あなるがつること図って、最初予定していた質問は、「めんまってじんたんのこと好きなんでしょ」。これを「じんたんってめんまのこと好きなんでしょ」に変えさせたのはゆきあつだね」

市川醍醐「それって、でも全部備くんが適当に考えたことじゃないですか」

立花備「当たり前だろ。だけど、あのシーンであんな質問されたら、じんたん走り出しちゃうのは想定内。ただ、当初ゆきあつが(事故を装って)殺そうと思ってたのはじんたんのほうで、崖から落ちるのがめんまのほうだったのは想定外なんだ」

市川醍醐「ああ、だから話がややこしい殺人になってるんだ。殺すつもりだった人と、殺された人が違う、というのも古典ミステリーにはあったような」

樋浦清「あのアニメ、わたし的にはもっとちゃんとミステリーにして、現在進行形で人どんどん死んでいって、ぽっぽが殺されて「冗談じゃない、こんなところにはもういられないわ!」とか言って秘密基地を出たあなるが殺されて、頭おかしくなったつるこがヘン顔でゆきあつ殺すとかそういうのが見たかったな」

立花備「だったら『Another』見ればいいだろ! お前が一番ひどい!」

     *

 このテキストはでたらめです。

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