2ー16
「部活、休ませたよ」
そんなメッセージが届いて、胸を撫で下ろす。
何かあった時のためにと中川と連絡を取れるようにしておいたのが役に立った。
「最近、やけに部活に熱心になってて心配。やつれてる気もする」
そんな一報が中川から届いたのはつい昨日のこと。
例の事件のせいで、風当たりも強くなっていることだろう。
期待の眼差しを向けられるよりはマシだろうが、それでも厳しい目を向けられていることには変わりないだろう。
スマホを置き、目の前に置かれたアルバムを手に取る。
記憶が曖昧な期間の写真を探すが、入院中の写真など見つかるはずもない。
残しておきたいほどの思い出ではないだろうから。
とはいえ、形に残らなくとも、そこには大事な思い出があったはずだ。
おそらく、そこに心残りの真相はあるはずだ。
ふと、本棚の中にあるくたびれた背表紙の本を取る。
それは小学生向けに作られた小説だ。
「王子さまが助けにきてくれるの!」
目を輝かせながら話す彼女の姿が鮮明に呼び起こされた。
鳥かごに囚われたお姫様を王子様が助けるという物語。
当時の彼女がとても気に入っていた本で、そんなあらすじを何度も聞かされた。
今でも、こういう話を好んでいるらしい。恋愛小説の
パラパラと捲ってみると、とあるページが開かれる。
『王子様はお姫様に言います』
『もう君の手は離さない。これからは一緒にいよう』
『私も離れたくありません』
『そうして二人は抱き合います』
その場面を描いた挿し絵も載っている。
あれ…なんだっけ…
何か既視感を感じる。
読んだことがあるのかもしれない。
なぜ、読んだのだろう?
勧められたのか…
それとも、自らの意思で読んだのか…
その辺りは思い出せない。
もしかしたら、結の記憶が混ざりあっていて、自分の記憶のように感じられているだけかもしれない。
考え込んでいるとスマホがメッセージの着信を知らせた。
「ヒロ、眠ったよ。今すごく熱があって、数日は休むことになるかも。連絡するように言ったけど、できないみたいで私が知らせたことになってるから、メッセージ送ってあげてほしい」と、あちらの状況が送られてきた。
無理をした時の身体的な辛さは、自分も経験している。
体と人格が不一致になっている今は、かなり繊細で不安定だ。負荷も掛かりやすく、それによる反動も自分の体で感じるものとは大きく違う。
彼女の性格を考えるに、これまでの分を取り替えそうとでもしたのかもしれない。
「熱が出たって聞いたが、大丈夫なのか?返事できる時でいいから返事をくれ」
そう送ってみたが、しばらく返信は来なかった。
ほどなくして、母が部屋へやってくる。
「結、買い物頼まれてくれない?」
「うん。いいけど」
といつも通りに返事する。
いつの間にか慣れてしまった振る舞いや格好に複雑な心境になりながらも家を出る。
しかし、タイミングが悪い。
早く終わらせようと足早に家を出た。
何度もメッセージ確認する姿に両親は不審そうにしたが、結からの連絡を待っていると伝えると伝言を頼まれてしまった。
伝言を重ねて送ると、すぐにメッセージは返ってきた。
「熱はもう大丈夫。中川さんに感謝しなきゃだね。親には気をつけるって伝えといて」
文面はいつもと変わらない。
しかし、一つだけ、いつもなら書かないであろう言葉があった。
「部活のことは考えようと思う」
その一言に彼女の心情が垣間見えた。
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