2ー13
ドアを開けると、そこにはあいつがいた。
「お前……なんなんだよ…」
苛立ちというか、何かすっきりしないといった感じの表情でそう呟くように言った。
「な、何のことだ…?」
「勝手に謹慎食らいやがっただけでなく、のうのうと学校生活を送りがる…それが目障りだ」
「どうしたらいいんだ?」
「その態度!そのでっけぇ態度どうにかしろや!イラつくんだよ!」
「ぼ、僕は普通にしてるだけだよ…」
「なわけねぇだろ!ペコペコ頭下げてたやつが、タメ口なんかで話すかよ!人格入れ替わったみたいに性格も変わったし、振る舞いも全然違う!挙げ句、今回の謹慎だ!お前、誰だよ!一体、誰なんだよ!」
「実は…」
どう思われようとも構わない。
あわよくば、関わらないようにしてくれたらありがたいと思った。
このまましらを切り続けると面倒なことになりかねない。
それは私にとって、避けたかった。
ただでさえ、面倒なことになっているのだから。
自分でそう言い聞かせながら、これまでのことを話す。
すべてを聞き終えた彼は、憤りを隠せないような様子で私に詰め寄る。
「早く…博を返せ…」
肩を揺さぶるその手は怒りで震えているようにも感じられる。
「えっ…」
何がどうなっているのか分からない。
「早く、出ていけ。博を乗っ取るなっ。この悪霊っ!」と唾が飛び散るほど、語気を強める。
「い、今は、む、無理なんだってっ!お願いだから、静かに!もう面倒事起こさないで!あ、あと悪霊じゃないしっ!」
このままではまた騒動に発展しかねない。落ち着くように言うと素直に聞いてくれた。
「早く解決しろ…博を巻き込んだら、ただじゃおかねぇからな」と吐き捨てるように言って、体から離れるようにした。
「とにかく、すぐに解決しろ…」
もはやうわ言のようにそれを繰り返す。
「なんで、そんなに解決してほしいんだよ?」と尋ねてみる。
その質問で自我を取り戻したように冷静になり考え込む。
「なんでって、それは…な、なんでだろうな…よくわからねぇ。でも、体が勝手に動く」
そんな彼の態度が腹立たしかった。
「じゃ、嫌がらせも、体が勝手にって言いたいわけ?」
「それは単に気に入らなかっただけだ。今もそれは変わらねぇよっ」とまた感情が高ぶったかに見えたが、それを遮るように時刻を知らせるチャイムが鳴る。
食事の時間を知らせるもので、正直こんな言い争いをしている暇はない。
彼もそれを悟ったらしい。
「ちっ、今日はこの辺でやめといてやる…じゃあな…」と吐き捨てて、足早に去っていった。
嵐が過ぎ去った部屋は驚くほど、しんとしている。
改めて、思い返してみると少しばかり後悔も残る。
距離を置こうと思い真実を話したというのに、より面倒なことになってしまった。
兄に対する異常なまでの執着心に少し違和感を覚えたが、今はどうすることもできない。
「あ~あ。しゃべっちゃったね~」
その声の主はいつも前触れもなく現れる。
「あ、あんた…」
「どうなっても知らないよ?僕は言ったはずだよ?余計なことはするなって」
やれやれといった感じで忠告してくる。
「誰にも言いふらさないでしょ。こんなこと…」
「問題はそこじゃないよ。君も見たでしょ?彼の様子を」
何か心当たりがあるのかと尋ねるが、彼は首を捻りながら口を開く。
「さぁね。詳しいことは知らないよ。でも、君が話して態度が変わったということは、君が彼をあんな風にしたと言っても過言ではないよね?」
「でも、あいつとの縁が切れるなら、手段は選んでいられない…」
「果たして切れるかな?」
「どういう意味よ?」
「博という人間に人一倍執着してるみたいだからね。難しいと思うよ」
「それでも、やらなきゃ…」
彼のために陸上は続けなければ。その実現に彼という存在が障害となる。
「はぁ…そっか…。なら、頑張ってね~」
最後はめんどくさそうな様子で去っていった。
私も兄のために今できることをやらなければならない。
兄が私のために志望校であるこの学校を受験してくれたように。
そう意気込んで、気持ちを新たにした。
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