2ー12

僕にとって二度目の入試。

二年連続というだけあって緊張はしない。


「一緒の高校が良い」なんて頼まれれば、断ることなどできない。

また、「お兄ちゃんの頭を持ってすれば、普通に受かるでしょ」とおだてられては、受けるほかない。

なんだかんだと結に乗せられて、今日に至る。


はじめっ!

チャイムとともに顔見知りの試験監督が声を張り上げる。


奇しくも担任の先生だ。

不思議な光景に戸惑いつつも、ペンを走らせる。


身体能力と同じく、頭脳も僕の能力を引き継いでくれているお陰で難なく解くことができた。

順調そうに見えた試験だったが、徐々に頭が痛くなり、気分が悪くなってくる。

結の身体がついていかないのだろう。あがり症で陸上以外のここぞという舞台には弱い。まして、希望校の試験。

自分自身は平気でも、結の身体はそのプレッシャーを敏感に感じ取っていたようだ。


なんとか試験を終わらせたものの、ちゃんと答えられたかどうかは怪しい。


青白い顔をしながら帰宅した。

「なに、世界の終わりみたいな顔してるのよ~」と母に突っ込まれてしまった。


「緊張でうまく答えられなくて…。落ちたかも…」

「悔やんでも仕方ないわ。自信がないなら、次に向けて準備するのみよ」

「うん…」

母が考えている以上に、大きな意味を持っている受験。やはり、気になってしまう。


どうメッセージを送ったらいいのかと悩んでいると電話が掛かってきた。

残念がるだろうと思いつつ、うまくいかなかったと伝えると、

「気にしなくていいよ。ずるしてるんだもん。落ちたとしてもそれは当然の結果だと思うし」と結は答えた。


「どちらにせよ、今はお兄ちゃんのための受験だし、私があれこれ言っても仕方ない」と割り切っていた。

「でも、これが心残りかもしれないんだぞ?」と聞き直す。

「学力的に難しいわけだし、自分の中でも半分諦めてたから。そもそも、志望校に行けなかったからって死んでも死にきれないくらい後悔するとは考えにくいし」

どうでもいい、という感じに答えた。


「結果はどうあれ、今はお兄ちゃんが私なんだから、私の分まで頑張ってよ!」

と鼓舞され、忘れていた大事なことを教えられた気がした。


博としてではなく、結として生きなければ。結のために生きなければ。

入れ替わりなど無くても今の行動や選択が、間違いなく彼女の今後を左右することになるだろう。


だからこそ、彼女にとって今、何が最善かを考えて動かなければならない。

「どういう方向性がいいんだ?」と訊いてみたものの、内に秘めたものを明かすのは恥ずかしいのか、

「べ、別に何も決まってないし、陸上をこのまま続けたいとも思わないし、とりあえず、普通に就職できれば、学校なんてどこでもいいよ」とはぐらかされた。


「とはいえ、これはお前の人生なんだからな!どうなっても知らないし、後々、文句言うなよ」と言っておいた。

「それはこっちもなんだからねっ!」と進路調査の話が出たことを明かしてきた。


自分もこの先どうしたいとか、そんな話はしにくい。そもそも、人に話せるほどの夢や目標があるわけでもない。そう考えると、自分の主張が身勝手に思えてくる。


お互い黙り混んでしまい、程なくして向こうから切られた。


この生活があと二年続くとは考えにくいが、その時はやがてやってくる。その時、そもそも生きているのかどうかもわからないが、考えておかなければならない。

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