2ー11

お兄ちゃん…

病院のベッドで眠っている私。死んだわけでもなければ、危篤ということもない。

なのに、その視界は酷く歪む。

ここに来て、まだ5分ほどしか経っていないのにもう目が腫れている。


なぜこんなにも悲しいのだろう。

とても悲しくて、涙が止まらないのに、その理由が分からない。


自分の眠る姿を見ていると、条件反射のようにそうなってしまう。


自分自身のそういう姿を見るのが嫌とかではない。むしろ、興味深いくらいだ。


しまいには誤魔化しが効かないほどになってしまうため、部屋を出て落ち着こうとするのだが、彼から離れると今度は不安になって仕方がない。

感情のせめぎ合いでどうにかなりそうだ。


私の騒ぐ声で目を覚ました彼と会話をして、ようやく落ち着いた。

彼は私を見るなり「何泣いてんだよ?」と笑う。

そんな呑気な反応に「笑い事じゃないし」と言い返すのであった。

ちなみに母からも「大げさよ」と笑われてしまった。


診断結果は貧血。体質的なもので、特に心配するようなことではないそうだ。

笑われても仕方ない。


単なる体調不良で看病なんてできるはずもなく、落ち着かないまま寮へ戻ることになった。

翌日には退院。それから、二日ほど自宅で休み、学校に復帰したという。


メッセージでその報告を受けて、ようやく私を翻弄した不安が取り除かれた。


それから程なくして、電話が掛かってくる。

「不安にさせたな。ごめん。お前の体だし、もっと気を遣うよ」と反省しているようだった。

「いや、私もなんだかよく分からない感情になって…」

それを聞いた彼は呟くように言う。

「これも入れ替わりと何か関係あったりするのかな…」

「たぶん、そうだよ」と迷わず答えた。


そう答えられるほど、確信を持っていたのだが、それが解決の糸口になることはなく、時間だけが過ぎていく。


それぞれの日常は無情にも進む。それには抗うことができない。

いつまで続くのだろうか…。

いつまで生きていられるのだろうか…。

そんな不安が徐々に大きくなっていった。


秋を過ぎ、冬になる。

周りのみんなは進路を決めている頃だろう。

本来、私にとって大事な時期となるはずだったが、今は高校の寮で暮らす。

改めてそんなことを考えていると、飛び級でもした気分になってくる。


解決への大きな一歩とも言うべき大事な受験になる。

私を差し置いて合格し、通っている高校。

それは本来、私が目指していた学校だったのだ。

ただ、推薦入学できるほどの陸上成績は残せておらず、学力的にも厳しかった。だからこそ、兄の進学すると聞いて悔しかったし、憎らしくも思えた。


今なら、合格できる。兄の力に頼ってでも、成し遂げたいと思った。


「入試、どんな感じ?」

ふと、気になって訊いてみた。

「勉強しなくても、受かるだろうな」

二年連続の受験ということもあって、余裕を見せている。

「気を抜かないでよ」と注意し、心残りかもしれないのだからと釘を指しておく。


そんなやり取りをしている最中に来客が来た。

「誰ですか?」

「俺だよ、俺」と遠慮なくドアを開けてきた。

にやっと嫌な笑みを浮かべて口を開く。

「よぉ、元気にしてたか?」

そこに居たのは、だった。

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