2ー9

入院している間のことを訊いてみた。


怪我をしただけで特に目立った影響はなかった。

そう言い切られ、釈然としない感情を抱きながらも、「そっか」と受け入れた。


ふと、日記のようなものを残してはいないかと思った。兄のことだから、そんなマメなことをするとは思えないが、ダメもとで探してみた。


しかし、寮暮らしということもあって、参考書や辞書の類い以外は、数冊の文庫本だけ。

エロ本どころか、普通の漫画や雑誌の類いも出てこない。


年相応の興味や趣味が無く、勉学に全振りする兄のことを心配しつつ、次の手を考える。


圧倒的に情報の少ない私。兄に色々と訊くか、家に帰って探るしかない。とりあえず、兄を頼ることにする。


「なにをお願いしたらいいんだろう?」


「お兄ちゃん、こっちにきて~って言えば良いんじゃない?」

背後から聞き覚えのある声がする。

「い、いきなり出てこないでよ…。そういうことを言いたいんじゃないわ」

「本音はそうでしょ?」

「なっ!そ、そんなことないわよっ!」

見透かしてますよと言わんばかりの彼の言動に戸惑う。


「原因探ってどうするの?それを知ったら、何か変わるの?」

部屋を物色しながら、片手間で訊いてくる。

「手がかりになるかもしれないじゃない」

「でも、結局、こっちにきて~ってなるんでしょ?」

またも断定するような言動に困るが、平然を装う。


「なんで言い切れるの?」

それを聞いた彼は、胸を張って言う。

「僕は使者だよ。君の考えてることくらいすぐに分かるよ。今だって、お兄ちゃんに会いたいな~って思ってる。それは入れ替わる前の君も同じだったんじゃないのかな?」


「入れ替わる前ってどういうこと?私は私よ?」

「心残りはあくまで入れ替わる前の君の心にあったものだよ?入れ替わりを経験した今の君は君であって君ではない。言葉じゃうまく説明できないけどね~」


「だから、記憶が無かったりするの?」

「そうだよ」と言いながら、急にこちらを向く。まじまじと顔を見ることはなかったが、よく見れば、整った顔をしている。

「って、まぁ、それはまた別の話。とりあえず、今の君の気持ちに素直になることも、解決の糸口と言えるんじゃないかな?」と話題をすぐに戻す。


「…なんで、そんなに協力的なの?」

「言ったじゃん、手がかりを探してくれてもいいんじゃないか?って。面倒だから、仕方なくアドバイスしてあげてるんだよ」

「め、面倒って!」

「明日死んじゃうかもしれないよ?後悔するだろうね~。なんであの時やらなかったんだろ~って。あ、でも、二人とも死んじゃうし、後悔できないか~」と煽るように言う。

「そんなこと…分かってるけど…」


「困ってるなら、僕を頼ってくれてもいいんだよ?すぐにでも妹ちゃんを高校生にして、君の望みを実現させてみせるよ」

自信満々に言うところが怖い。

「そ、それは絶対ダメ。私でどうにかするから!」

それを聞いて、残念そうにする。

「そう…なら、早く解決させてね~。暇で暇で死にそうだよ~死なないけど」

独り言のようにぶつぶつ言いながら、じゃあねというように手を振って消えていった。


はぁ…

すべてを見透かされている。


でも、それが心残りとは言い切れない。だからこそ、色々なことを知らなければならない。


「私が入院してる間のこともっと教えて欲しい。うまく思い出せないから」

そうメッセージを送り、返信を待つことにした。

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