2-8

いい歳して、知恵熱が出ましたなんていっていられない。


あれから、ずっと考えを巡らせていた。

ほぼ、徹夜といっても過言ではない。そのせいなのか、朝から微熱がある。


ただでさえ、勉強が遅れ気味な私は、無理やり通学した。


しかし、授業どころではなく早退することになった。


一人で寮に戻り、管理人の先生から必要なものを受け取り、部屋に戻る。


少しでも体調を崩すと不安になるようになった。

いつもは聞こえる住人たちの声や音がしないこともあり、

非常に心細い。


「あれ、前にもこんなことあったような…」

そう感じ。改めて約束のことについて考えを巡らせた。


入院した時も、きっとそんなことを思っただろう。

でも、なぜ入院したんだろうか?


「私が入院したこと、覚えてる?」

そんなメールを兄に送ってみた。


向こうも学校たから、返ってこないとは思いつつも、迷わず送信ボタンを押していた。

早退したからにはちゃんと休んでいないといけないだろうと、横になり、目を閉じた。


「あっ、お兄ちゃん!」

「これ、持ってきてやったぞ」

「ありがとう!」

そんなやり取りが夢の中で繰り広げられた。


舞台は病室。

どこかぎこちない様子の兄が見舞いに来て、なにかを私に手渡した。


それはとても大事なものだったと思う。

でも、それがなんだったのかは思い出せない。


もやが掛かったようにそこだけがぼやけてしまい、思い出すことができない。

歯がゆさにも似た感情を抱いたところで目が覚めた。


もう夕方になっていた。

いつもの雑踏が戻っていて、頃に返信が来た。

「それなら覚えてる。足を滑らせて階段から転げ落ちたときはビックリした」


具体的に覚えているようだった。

それだけ、分かればいい。


私の記憶はどうしてしまったんだろうか。なぜ、覚えてないのだろうか。

そればかりが頭を巡る。


もしや、記憶が飛んでしまっているのではと心配になってくる。

兄なら知っているだろう。ただ、そんなことを訊くのは怖かった。


そこに手がかりがあるかもしれない。

でも、知ってしまえば、何かが大きく変わってしまうような気がして、メッセージを送る手が進むことはなかった。

「どうしたら、いいのかな…」


「ねぇ、まだー?そろそろ、解決してくれないかな?」

「わっ、びっくりした…」

突然の出現に思わず声が漏れる。


例の天使とやらが現れた。

「まだ何も分かってないし」

その返答にうんざりするようなそぶりを見せた。

「僕や向こうの使者は、君たちが解決するまで縛られてるんだ。だから、なるべく早く解決してくれると嬉しいな」

「それなら、解決の糸口とか、探してくれてもいいんじゃない?」と反論してみる。

「めんどくさいし、そもそも、君たちの問題でしょ?自分達で解決してくれないと困るよ」


「なんで、そんなに急かすの?」

「君たちのために言ってあげてるのに…。両方死んじゃったらどうするの?」

正論過ぎて、言い返すことはできない。

「それは、そうだけど…」

「ま、とりあえず、分かったこと、気づいたことは共有したらどうかな?」

「分かった…」

「それを言いに来ただけだから。じゃ、頑張ってね~」とだけ、言い残してあっという間に消えていった。

「あっ、ちょっ」

引き留めることはできない。


一人取り残された部屋で立ち尽くす。


知りたくないことを知ってしまうのは怖い。

それでも、解決しなければ、きっと後悔することになる…。


悔しいが、彼の言うことは正しい。

「解決しよう…」

そう言い聞かせて、スマホに手を伸ばしたのだった。

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