2ー7

日記を開く。

そこには当時の結が送ってきたであろう日々が綴られている。


あの子と喋った

あの先生が怖い

お兄ちゃんと喧嘩した


とにかく、色んな事が綴られていた。


1ページにびっしりと書かれたそれは、なせかとても懐かしく思えた。

入れ替わりのせいだろうが、それだけとは言えなかった。


「お兄ちゃん!絶対だよ!」

「絶対だからね!」

そう何度も念押しする彼女の姿がふと思い出される。

病室だろうか?

彼女と指切りをする。


あのことだったのか…


どうやっても思い出せなかった約束。彼女を怒らせていた原因。

なぜ、突然記憶が蘇ったのかはわからないが、とにかく鮮明にそれを思い出した。


どんなことがあっても、守ってやる


子供の思いつきとはいえ、恥ずかしくなるような約束だった。


でも、そんな約束を今も忘れずに、しかも、それを破っていることを怒っているとは…。


ふと、考える。

その約束に特別な思いがあるような結。もしかしたら、彼女にとっての心残りなのではないかと。


「だからって、どうすればいいんだよ…」

思わず、そんな言葉が出てくる。


「何か掴めたのかしら?」

背後から不意に声を掛けられ驚いた。

「い、いきなり出てくんなよ」

得体の知れない存在と自然に会話していることに違和感はあるが、今はそんなことを考えてはいられなかった。

「言ったでしょ?私はあなたが見える場所に常に居る。声も届く。だから、独り言も、影口も、すぐに分かるわ」

と言いつつ、僕と相対す。

「で、心残りについて、何か分かったの?」

「まだ、分かったわけじゃない。なんとなく、そんな感じかなって…」

「解決できそうかしら?」

「どうしたら、解決と呼べるんだろうか…」


「それは私にも分からない。解決した先に終わりがある。それだけは確かよ」

終わり。その意味を分かっているはずだが、信じたくなかった。

「それは…死ぬ、ということか?」


「人はいずれ死ぬものよ。終わるのはこの日々。元々あった日常に戻るのよ」

「死ぬものって…なんで、そんな軽々しく言えるんだよ?あぁ、あんたは人間じゃないからか…」

「意識しないだけで、人は常に死と隣り合わせ。それは皆平等。あなたが先か、彼女が先か。その差でいちいち感傷に浸ってはいられないわ」

淡々とそう語る姿に、改めて人ならぬ存在だということを思い知る。

「人情ってものはないんだな」

「あなたの言葉を借りるなら、人ではないから人情なんてものは無いわ。そもそも、摂理なんだから仕方ないでしょ」


何を言おうと無駄だった。沈黙を続けていると向こうから口を開いた。


「どうしようがあなたの勝手だけど、後悔しない選択をしなさいね?それじゃ…」

それだけを言い残して、その場からすっと消えてゆく。


今はまだ、その解決方法を試すべきではない。そもそも、不確かな手がかりで、僕や彼女が中退するなんて選択はできるはずがなかった。

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