2ー4

目の前に広がる競技場。

そのトラックで私は走っている。


スタートから出遅れ、徐々に後退していく。

そこから追い上げることは無く、最下位でゴールラインを通過した。


全力で走ったようだが、いくら足の早い兄でも、いつも大会に出ている選手には歯が立たなかったようだ。


その後、隅で待機している陸上部のメンバーのところへ戻る。

戦況を見つめていた仲間たちは、最下位に終わった私を励ましていた。


その光景を遠く離れた場所から眺めるだけの私。その距離がとてつもなく遠く感じた。


なんとも言えない気持ちになる。


出番が終わって、私のところへ来た彼はやりきったような顔をして言う。

「お前の言った通りにしたぞ」

余裕綽々といった感じの態度が腹立たしいので、

「必死だったくせに…」と言い返す。

「ちょっと手加減が過ぎただけだ」と冷静に返答される。


何か話題があればいいのだが、なかなか見つからず、グラウンドをただ眺めるばかりになってしまった。


こうして眺めていると、夢の出来事のような気がした。

恥ずかしかったが、素直に伝えることにした。

「…ありがと…ここに連れてきてくれて…」

「あぁ…」と返事はしたが、それからは二人とも黙りこんでしまった。

顔を合わせてからは、ずっとこんな調子だ。


普通に話せばいいだけなのに、それができない。

いつもの私なら、兄が話を振ってくれればいいのに…と思うのだが、どうもそんな気持ちにはならなかった。


気まずくて立ち上がる。

「…じゃ、私は寮に戻るね」とだけ伝えて、その場から離れた。


もう、ここに居る理由はない。そのまま、競技場を後にした。

帰り道、一度自宅に寄ってから寮に戻る。


この間までは日常風景だったはずなのに、どこか違う街の景色のように思える通学路。

きっと、今は結ではなく博だから。

そう思いたいのに、何か引っ掛かるものがあって、感情を誤魔化せないでいる。


入れ替わる前の私が否定されるようで嫌だった。

気分転換にと、中学校までの道を辿ってみた。


兄も通った道だから、迷うことなく辿ることができる。

もちろん、私自身の記憶もちゃんとある。


だけど、何かが違う気がするのはなぜだろう?


何か違和感がある。


左右に住宅が並ぶ平凡な通り。通行人はまばらだが、自転車や車が頻繁に行き交う。


そういえば…あの日も…

そう無意識に呟いた時だった。

「痛っ!」

思わず、そう口にしてしまうほどの激しい頭痛に襲われた。


幸いすぐに収まってくれたものの、今度は視界がゆらゆらとする。めまいにも似た症状。

体調不良かと思い、近くのベンチに腰かける。

座っていると次第に収まり、症状などなかったかのように不快感は消えた。


ふと、通りの先にある十字路に目が行く。

小学生くらいだろうか、どこか見覚えのある少女が曲がるのが見えた。


一瞬しか見えてなかったのに、なぜか見覚えのある人物だと認識できた。

それが不思議でならなかった。


ただ、誰かを確認することもなく、立ち上がり、来た道を引き返した。


なにしてたんだっけ…?


そんな疑問が浮かんだが、それは特に気にならなかった。


さて、帰ろ…


何事もなかったように寮へと戻るのだった。

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