22 まんじゅう責め
今回は日本三大名湯にも挙げられている、群馬は草津温泉での『まんじゅう責め』について。
湯畑を中心として、温泉旅館やみやげ物屋が充実している草津温泉。泉質もとても良く、さほど色々なところを巡ってはいないけれど、マサキチの温泉経験を思い出しても一番かもしれない。
でもって、草津は温泉街というよりも温泉町って感じに近いかなあと。
地図がなくても方角さえわかっていれば大体のところにたどり着けるし、とても便利なところです。
熱帯圏という小さな動物園やら旅館やら、あちこちから温泉が湧き出ている光景はちょっぴり地獄体験を味わえる?
坂道たっぷりで案外高低差があるけれど、へー、ふーん、ほーうと色々なものを眺めながら歩いていると案外楽しくもいい運動になるし、普段が運動不足気味ならますますもって一石二鳥。
何も考えずに歩いているといつの間にか高いところにいたりして、足元には湯畑が広がっていたりでちょっとしたワンダーランドです。マサキチは湯畑を見下ろして、なんか(滑り台とか遊び要素のある)プールみたいだあと、あんまり普通なら思わないことに感心したりしてました。
そんな草津温泉名物といえば、温泉まんじゅう。
いや、日本中どこでも温泉なら温泉まんじゅうはあるだろ、あちこちで売ってるよ、そう思う方々はそれはもうたくさんおられることと思いますが…なんか草津温泉はそういうのとは一味もふた味も違うところでした。
西の河原公園に地獄気分でも味わいに行くかな~、なんて宿を出たマサキチ、湯畑を眺めながらほてほてと歩き、みやげ物屋が軒を連ねる西の河原通りに向かいました。
あちこちの軒先に温泉まんじゅうののぼり。なかなか風情があるなあ…とごきげんで踏み出したその時、右側からひょいっと差し出された腕。
「まんじゅう召し上がってってくださいなー」
当たり前のように丸ごと1個が乗っているトレーをぐいぐいと、かなり食い気味に向けてこられた。
「せっかくなんで食べてってえ」
マサキチは断りにくくなるからあんまりそういうのには乗らないんですが、あんこは元々大好物でもあるし…というよりは、そのかなりの勢いに負けて手に取ってしまった。
もぐもぐ。
うん、うまい。
でも、これから公園散歩に行くんだよね、そう告げると
「良ければお帰りの際にー」
意外にもあっさり引いてくれた。
ちょっとほっとする。
ぺこりとお辞儀をし、何歩か歩いた時にまた横から手が。
「まんじゅう食べてってー」
少し先の、今度は別のまんじゅう屋でおばちゃんが、またもぐいぐい。
…手に取ってしまった。
もぐもぐ。
これもうまい。
「帰りにまた見てってね」
今回もあっさり引いてくれた。
かなりほっとする。
また数歩進んだところ。
「まんじゅう食べてってなあ」
先ほどより少しだけ先のまんじゅう屋で、おじちゃんがぐいぐい。
嗚呼、そこでもやはり断りきれず…。
もぐもぐ。
うまい…。
が、さすがに3つ目は喉に張り付く。
見越したかのようにお茶まで出てくる。
…いかんいかん、こんなことではいつになっても地獄の様相公園など見に行けない。しかもその後は夜ご飯が待っている。心を鬼にしなくては。
そう思いとっさに目を走らせれば、どうやら右手側はいくつかの店を挟みつつもまんじゅう屋ばかりのようだ。
あちこちで人がまんじゅう売りに足止め(?)されている。
ならばと右手にある店ののぼりを意識しながら、左手に寄って早足で進んでいたその時。
左からサッと手が出てきた。
「まんじゅう食べてってよ」
まんじゅう屋は右側だけじゃなかった!(通りに店がひしめいてるんだから当たり前か)
あの瞬間思い出した。
この光景…というかこの思い、つい最近1号店が閉店したというクリスピー・クリーム・ドーナツに酷似していると。
オープンの頃は長蛇の列だのって報道されていたけれど、半年後くらいには数箇所に店ができて、場所によっては大分下火になっていた。
その店をマサキチが通りがかった時、珍しくも店内に並んでいるのは5人くらいだったので、どんな味か一度食べてみようかなあ、ふと思い立ちドーナツを作ってる厨房(?でいいのかな)を横目にレジ前の列の後ろに並んでみた。
2人くらい減った頃、厨房から人が出てきて並んでいる人々に「お待ちいただいている間に、どーぞー!」とドーナツを配り始めた。
しかもプレーンの、一番甘くなさそうだから普通に買ってみようと思ってたやつ(それしか配らないのかもしれないけど)。
…え?あと3人しか待っている人いないのに?
仕方ない、マサキチもぐもぐしながら列に並んでいたけれど…。
うーん…おいしいけど…フツー…
正直萎えてました。
プレーンのドーナツが欲しかったけど今こうして食べちゃってるし、少し先にあるショーケースを見ただけでも、激甘!!!!!そうなグレーズがかかったものばかりが目に留まる。かといってもらうだけもらって帰るってのもなあ…ですよね。
その上、自分の番が来たところでドーナツ1個、3人の待ち時間ぐらいで食べ終われるわけがない。
「何になさいますかー?」
とにこやかな店員さんの前で、ちょっと待ってください、もぐもぐ、もぐもぐ…後で食べたっていいんだろうけど、お待ちいただいている間に、と言われてはなんか申し訳ないじゃないか。
妙なところでクソ真面目さを発揮するマサキチ。やはり食べ終わらずもぐもぐ。って、一体何の拷問なんだろう…。
あの時の気持ちにそっくり!
さすがに差し出された4個目のまんじゅうは「公園行ってから寄りますー」と断って、残りは振り切ったけれど。
のんびり歩いてたら多分、あのエリアにある全店のまんじゅうを制覇できるよ、きっと…。
…どんなに好きでも美味しくても、ほどほどって大事だよねって、そんなお話。
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