13 海の中と外のとんでもない光景
最近はご無沙汰になってしまいましたが、ダイビングにしばしば行っていたころ。伊豆の雲見にお手ごろスポットがある話を聞きつけ、ファイト一発の友人と、当然のことながらそれはぜひとも行かねば!ということになりました。
雲見は海沿いの町らしく、小ぢんまりと民宿や宿がまとまったところ。買う予定はなかったのものの、みやげ物屋の影すら見えずで温泉もあるけれど、どちらかというと漁師さんたちが暮らす普通の場所なんだなぁ…といった印象でした。
民宿のおばさまも「雲見は魚くらいしか名物がなくて…でも、魚は本当においしいですから」と、こちらが申し訳なく思えるほどしきりに恐縮していたくらい、魚がメインの町だそうで。
確かに夕食は魚づくしのとんでもなく豪勢な食卓でした。
サラダや煮物、さつま揚げみたいなものはさておき、かぶと焼き、8種くらいの魚がそれぞれ6切れくらい味わえる舟盛、そして上げたばかりの50センチはあるだろうまだ身の固いイカ刺し…味噌汁も魚出汁だったかな、とにかく量が多いことに驚くばかり。
とまあ、そんな量の多さはさておき…マサキチをそれ以上におののかせたものがありました。
卓上にででーんとおわした…蟹なの?海老なの?それともヤドカリなの??という、マサキチにとってはとんでもなく恐ろしい姿をしているものにしか見えなかった「アサヒガニ」。
ボディにはごわごわケバケバの毛が生えていて、脚は小さいのにやたらと両のはさみは大きくて、後ろの方はザッツ節足動物!てな感じの伊勢海老ボディのような曲がる?仕様。
もぎゃー!!
マサキチ、エビフライ程度なら何とか…ですが、でっかい蟹とか海老とか、甲殻類アレルギー持ちなものでよほどやむを得ない限りは食べません。が、これは一目見ただけでも絶対アレルギー来る!というあからさまなスタイル。背筋にぞーっとしたものが走り…もう見てるだけでも来る!っていうか食欲皆無。
部屋食だったのをいいことに、ダメだー、こっちにあるだけでダメだー!と大騒ぎして友人に引き取ってもらいました。
我ながら大人げないなぁ…。
なのにマサキチの星座はヘラクレスに踏み潰されただけの、あんま物語的に意味のないカルキノスの姿を投影した蟹座なんだよなあ…
まったく関係ないけど。
アサヒガニ、皿持ち上げるだけでもずっしり、そして今は皿の真ん中に収まっているけれど、万が一傾けたりしたら、ズサーって手の方に来るよな…そんなことはないのだろうが、触っただけでも蕁麻疹が出そうだという気分で…それは慎重にそろりそろりとえらい時間をかけて友人に渡し終えてホッとする。
そっと目をそらしながら他を片付けるマサキチの正面で、蟹好きの友人はバキバキぼりんぼりんとむしっては、うまそうに片付けてくださいました。
今思い出してもホントあれ、マサキチにとっては史上最大ビックリした生物だと思う。それほどに怖かった…。
さて、気を取り直して海の中での話に。
雲見の海にはトンネルのように入っていける洞窟スポットがあるとかで、今日はそこを回ります、とガイドさんから話を聞いて、「どんなところかは行ってからのお楽しみ」という言葉にダイブ前からとてもわくわくしてました。
透明度はそれほど高くないものの、沖縄などのあったかいところでは見られないヒラマサ、カンパチ、イサキなど、すし屋や食卓にのぼるような食材としての魚が群れをなして泳いでいるのを見られたので、新鮮でなかなか面白いコースだなあというのが感想。そしていよいよ海中洞窟へ。
少し開けた場所で時折立ち止まって(泳ぎ止まる?)は、ホワイトボードに何がいるかを書いて見せてくれるガイドさん。ハンドライトだったかヘッドライトだったか忘れてしまったけれど、を壁面に当てていろんなものを照らしてはホワイトボードに、そのたびにふむふむうんうんと頷いてを繰り返す。そのうち、なんだかやたら狭いところで立ち止まり、ボードに書いていたけれど、前にいる人の姿に隠れてその言葉は見えず。ライトが照らす先もよく見えない。
こんなところにあるものってなんだろう、良くわからないけど、まあ後で聞けばいいや~、なんて思っていた折、ガイドさんがライトを消す前にちらりとよぎった姿。
くすんだ色のひげ、脚、ひげ、脚、なんか広がった尻尾?ひげ、曲がるボディ…が光の先に何やらうじゃっと…。
この姿は…もしや…。
大群の、伊勢海老!?
昨日の蟹に引き続き、またかー!!
そう、雲見は伊勢海老漁でも有名なところだったのでした。
暗い海中洞窟でよかったよ…。昔、料理人を親に持つ友人の家の玄関にあった正月飾りの伊勢海老ですら、ドア開けたら落ちてきたりしない?とびびってなかなか入ることができなかったっていうのに…あんなん全部見えたらきっとパニックしてましたよ。
と、ここまで書いていてようやく気づきました。
甲殻類アレルギーだけじゃなくマサキチ、節足動物自体が苦手なんだなと。
あー…確かに、あの腹側のシステマチックな関節のつき方や、自在に折れる尾側のあのじゃばら部分を考えるとぞわっとするなと。
そうか…そうだったのか。
まあそれはいいや。
ともあれ、もう伊勢海老うじゃうじゃなんて知っちゃったら、1分1秒たりともこんなところにはいられない、というかいたくない。
早くー、早く抜けようよーって気分で前にいる人が動いてくれるのを、内心では半泣きで待つこときっと十数秒…蹴飛ばされないぎりぎりの距離を保ちつつ、足や体が決して洞窟内の壁に当たることがないよう、細心の注意を払って抜け出したのでした…。
だって、もし掠めたりしてあんなのが落ちてきたりしたらもう、やすやす昇天できるよ…。
よほど怖かったのか、その後何を見たか今振り返ってもさっぱり思い出せない。そんな海の中と外でのとんでも体験でした。
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