12 イルカ=イカメシ

 イルカ。

 カワイルカやネズミイルカといった、あまり聞いたことのないだろう種も様々いますが、日本では水族館でもよく飼われている、白黒の小さめカマイルカやグレーのバンドウイルカが有名ですね。

「人畜無害そうに笑ってるみたいな顔して、あいつら寝首掻いてきそう」

 と言った友人もおり(ちょっとびっくりしつつ、思わず笑ってしまった)、苦手という方も当然いるとは思いますが、あのふにゃっとした微笑みを浮かべるに似た表情に癒されるという人も多いはず。

 今回はそんなイルカのお話。


 既に連載も終わっている『重なる刹那の先に』本文に、ちらっと紛れさせたりしているのですが、マサキチ小さい頃は「大きくなったら何になりたい?」の質問には必ず「イルカ!」と答えては、大人を翻弄するほどのイルカ好きでした(当然惑わせるなんてそんな気はなく、大人の言う〝大きくなったら″が職業を指してるだなんて、まったく気づかなかったアホな子どもでした…でも、そうならそうと言ってくれればいいのに)。

 もう少し大きくなってから水泳をはじめて、それを習い続けていたのもいつかイルカと泳ぎたい!が目標だったほど、脳内をイルカがウェイト占めてたくらいです。

 体力はあるからむしろ足りない筋力アップを図ろう!とジムへと通うようになり、泳ぐことを離れて大分経ちますが、同い年くらいの人を見ていると体力に関しては、水泳のおかげかなと思うくらい馬鹿ほど丈夫なので、まあ悪いことではなかったようですね。


 最近では専門学校までできているそうですが、マサキチの学生時代にそんな便利なところなどなく、水族館に足しげく通い、イルカの訓練士トレーナーになれないものか調べたり直接尋ねたりして、職業としてでもなんとかイルカに近づけないものか考えたりした頃がありました。

 今思い返しても、あれは本当だったんだろうかと思うような意味のわからない職員の説明だとか、なんじゃそりゃという意味不明な話も含め諸々の事情あり、結局イルカのトレーナーにはなりませんでしたけれど…。

 ま、そんなかつてのマサキチの甘苦い?思い出はさておき。


 ハワイや沖縄の特定の場所に行かない限り、イルカと泳ぐどころかふれあいなんて夢のまた夢、と思っていましたが、そんなマサキチに思いがけないところでチャンスが訪れました。

 イルカショーをやっている水族館でのことです。

 普段は(あまりに眺めている時間が多く、人と一緒だと申し訳ないことから)1人で行くことが多いのですが、たまたま友人と訪れていた時に目に入ったポスターの文言。

「イルカとふれあいませんか?」※定員制・有料となります

 どうやらショーの後プールに残ってイルカに触れる、とのことで。マサキチもう目が釘付け。

 うー、体験してみたい。

 でも今日はいつものファイト一発な友人とではないし、その友人は水棲生物苦手だから、まず水族館なんて一緒に来ることなんてないし、かといって友人差し置いて1人でやるのは一緒に来ている友人にも申し訳ないし…

 ポスターの前でぼんやりとしているマサキチに気づいた友人が、

「え?イルカに触れるの!?1人だったらためらうけど、面白そうだからやってみない?」と言い出してくれたときには天にも昇る?気持ちに。

 善は急げと、展示水槽はあとで見ることにしてイルカプールへと申し込みに直行。

「イルカとふれあいませんかー?」

「人数限定でーす(何人かは言ってない)」

 プールスタンドの端っこの方で、水族館のトレーナーを着て大声で呼び込んでいるお姉さん2人…を見る限り、急行するほど人気はなかったようですが…。

 いや、人気など関係ない。

 とにかく生まれて初めてイルカとふれあえる!ならば実行あるのみ!と、勢い込んで申し込みを済ませる。

 ふれあいはショーの後で開催と聞き、ショー開始まで館内の水槽を眺めるも、いつもならきっと、他のお客さんたちが呆れるほど眺め続けている生き物たちにさえ気もそぞろ。


 ここでちょっと、あくまでマサキチ視点や感覚であり、科学的な根拠なんてまあったくありませんが、イルカショーについておススメ時間を書いちゃおうかなと思います。

 できれば初回から最終の回まで見てみることを推奨しますが、世の大半の方々は、そんな物好きな人、少ないと思いますので…。そうだよね、そんなのわかってるけどさ…マサキチよほど時間がない限り、全制覇しちゃいますけどね。


 これ読んでいる方々は「は?おススメ時間?」と「?」がたくさん飛び交っているかと思いますが、実は時間帯によってイルカのやる気や元気って違うんですよ。

たとえば1日3回ショーがあるとします(4、5回のところもあるけれど、これが通常かな)。

 大きい水族館でたくさん頭数がいるようなところなら、ショーのメンバー(イルカ)入れ替えも可能かもしれませんが、イルカのコンディションや、まだ人前で見せられるレベルに至っていない、あるいは訓練中などで、動かせるのは数頭ということも多いです。たくさん数がいない水族館なら、当然同じイルカがすべてのショーをこなすことになります。


 そんなイルカたちのショーは、1回目は元気かつちょっとドジ。どの水族館でも1回目は大概が午前中なので、まだ体力もあるのでしょう。どことなく目覚めのウォーミングアップ感覚というか、なんか「えー、ボクたち、ワタシたちがやるのぉ(面倒だなぁ)?」みたいな、なんとなくトレーナーへちょいと甘えた、かつ面倒くさいけどご飯もらえるしやっちゃおうかなあ、みたいな子どもっぽい空気での演技が多いです。ジャンプや、飛び上がってボールをつつく、みたいなのもミスしてテヘペロ、みたいな感じを普段よりも多く醸しつつ、演技後に魚をもらったりしてますね。


 2回目は1回目より当然、時間帯がいいことから見る人も増えて、1回目がウォーミングアップになっているのかいい方向に作用し、やる気スイッチが入ってます。ジャンプも高く、かなり熟練的な感じで見せてくれます。成功が多く、より完成形に近いものを味わいたい方は、2回目で見るのをおススメします。


 3回目は…これ、人と同じですね。夕方近くになるとイルカも疲れてくるようで。ショーをしてなくても常に泳いでるんだから当然かもしれませんが、朝方に比べて元気ないなあという感じに見えたりします。

 同じプログラムを日に何度もやることで微妙に飽きも来るのか、きちんと演技はできていても1回目、2回目に比べ、若干精細が欠けるような動きになっていることも。


 到着タイミングで見るし、そんなの考えたこともなかった!という方は、もしご興味があり、時間が許すならばぜひ、通しで見てみてください。

 全部見るなんてお子様連れやデートには向きませんし、1日がかりにはなりますが…。


 随分話が逸れましたが、マサキチのイルカふれあいに戻ります。

 ショーを見終わり、イルカとふれあいをお申し込みのお客様はプールサイドにお集まりください、の放送を聞いていざ、未体験のイルカとふれあいです!


 放送で集まったのは、保育園くらいの男の子を連れたお母さん、そしてマサキチと友人のみ…。

 写真撮影つき(プリントは確か別料金)、ふれあうだけで千円くらいだったので、水族館を目的にしている人たちには入館料払った挙句、中で飲食するならちょっと高いし、そもそも大人はあまりやらんだろう。

 万一水に落ちたらなんてこと考えたりしても、底まで5M以上はあるプール、怖いという人もいるし。シュノーケルなんてつけてなくても3、4Mくらいは素潜って下に落ちてるもの取ってきちゃえるマサキチは、まったくなんの恐怖感もありませんが…。

 普段はトレーナーが指示を出すために立つ、プールにせり出した台に上がると、すぐ先に口角を微笑んだ形にしているバンドウイルカの顔。ちょっとした感動を味わう。

 そしてトレーナーの「はいどうぞー」の声とともに、触ってくれといわんばかりにくるりと回り、ぷかりと浮いた状態で背中を差し出してくるのに恐る恐る…なんてことはなく、待ってましたとばかりに触れてみると…

 …んん?

 ふにっ、でもなければ、むにゅ、でも、ぬるっでもない。

 想像していたよりもはるかに硬い。店で売っているような魚(イルカは哺乳類だけど)の感触なんかとは、まず明らかに違う。音で言うならぐって感じ。

「意外と硬いね」

 友人の声に頷きを返しつつ、マサキチこの感触どこかで…と必死になって思い出している(勿論その間も姿勢を変えてはサービスしてくれるイルカをなで続けている)。

 バスケットボールじゃないし、なんかでもそういう弾力がある硬めの何かなんだけど…。

 あれは…

 あれだよ、あれ。

「イカメシ…!」

 閃いた瞬間思わず声に出してしまったけれど、マサキチの言葉は聞こえなかったか、傍らではトレーナーがにこにこ笑ってイルカ体験を味わう母子と友人、マサキチを見守っている。

 けれど友人には届いたらしく、かくかくと頷きながら笑いをこらえるように肩を揺らしていた。


 そうなんです。ご存知ない方には申し訳ないですが、イルカの感触はあの身と具がいっぱいに詰まった、カットしてないイカメシと同じだったんですよ。

 短い逢瀬は終了し、プールから離れたマサキチと友人、感動体験よりもその後しばらくの間、笑いが止まりませんでした。

 あの硬さなら、水中での呼吸と泳ぎさえクリアできれば、マンガやアニメみたいにイルカのひれや体につかまって泳ぐなんてのも、夢じゃないかもしれないなあ。


 もしこれを読んでいるあなたの手元にイカメシがあるようでしたら(ないだろ)、ぜひ袋から出して触ってみてください。

 きっとイルカの感触を味わえますよ!(その後はおいしくいただいてくださいね)。

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