8 青池とイカサマレースと

 白神山地の十二湖に青池あおいけという池があります。

 名前の通りの青い池。

 今回はそんな青池と、どんな組み合わせだよオイ!と我ながらツッコミたくなるような、ちょっとナンパな響きのイカサマレースについて書いてみようかなーと思います。


 と言っても、最初にお断りしておきますがマサキチ、大変、たいっっへん残念ながらイカサマレースは未体験でございます…。くっそー!

 なので、そこに興味を持ったのになーんだ、という方は回れ右…でも構いません。先に進んでも肩透かしになりますからね。

 とりあえず、参加できなかったのはさておき、その悔しい思いを綴りつつ、内容紹介できたらなーと思ってます。

 旅の友はもちろん…このエッセイでは既に常連、ファイト一発な友人です。


 青池。

 もう響きからしてロマンのにおいがしますね。絶対なんかありそう。心なしか秘密のにおいさえ感じられる不思議。

 水なんだから青く見えるの当たり前じゃん、という方もいらっしゃるかもしれませんが、マサキチにとっては湖とか川とか海とか、水に関するものは波頭を立ててる白っぽいものだったり、透明度も低くてにごってるとか、どっちかっていうと青よりも黒に近いイメージです。

 マリンブルーなんてどこ行けば見れるの?沖縄とか九州の島くらいだろうなってほど、周囲の水に青を感じることはありません。水草やコケ、あとなんかよくわかんないけど色々なものが絡んだ結果の、磯臭い青臭い、って感じならわかるんですけどね…。

 日本海側に足を運んだことも何度かありますが、日本海は波打ち際こそ透明なものの、急にズドンと深くなるのか、ひたすら黒に近い藍という印象でした。


 青森を訪れた時に、とんでもなく青い池があるよって情報を聞きつけて、友人の「見てみたい!」との一声に勿論否など唱えるわけもなく、滞在していた十和田湖からはかなり距離あるけどんじゃま、行ってみよう!といつもの通り軽いノリで出発しました。

 まずそこに至る道が結構…すごかった。

 カーナビが示すまま、両側に雑草の生い茂る砂利を敷き詰めた駐車場のような「これ道?」という、道だかなんだかもよくわからないところ(でも、ちゃんとナンバリングされた国道?だった…はず)を、友人の運転でひたすら進む。

 当然前後左右にシェイクされるわ、レンタカーの底や側面には常にタイヤの跳ね上げた石が「…ッコン」「カン」「カチン」と当たる音がするわで、勿論スピードなんて出やしない。

「これ、返す時大丈夫かね」

「レンタカー屋に目をつけられるような、てとんでもない傷がつかないことを祈るしかないよな~…」


 そんな会話を交わしながらも、小型船以外ならマサキチ、大概のものはへっちゃらなので酔うことはなかったけれど…砂利に乗り上げては滑ってお尻が痛いわ、シートベルトしてても頭や肩がドアにゴンゴンぶつかる。ドライバーを務める友人も言わずもがな。

「つーかこれ、ホントにたどり着けるんかなあ」

「けど、青池見ずして戻るわけには行かない!」

 そんな使命感?に駆られ、小1時間…は大げさですが、かなりの間砂利道をひた走ったのち、普通の道に出たときにはさすがに2人してホッとした。

「なんだよー、普通の道あるんじゃん(当たり前だ)」

「あのまま山奥の謎の廃屋前とかで放り出されて終わり…とかじゃなくてよかったよ(ナビは全然信用されてない。たまに画面上で道なき道を勝手に回転してたし)」

 舗装されているけれど、かなり険しい坂道を上がって行くと白神山地の辺りへとようやくたどり着く。

駐車場へ車を止め、別荘が立ち並ぶ脇を通り過ぎ、プチトレッキングコースのようなところをわくわくしながら歩いて行くと…ありました、青池。


 マサキチと友人が訪れた時には、2人ほど見かけただけでほぼ独占状態でしたが、ガイドブックとかにも載ってるし、知らなかったけれど結構な観光コースにもなっているそうなので、場合によってはたくさんの人がいるらしい。

 運の良さを喜べど、そんな有名なところなら絶対大げさに書かれてるに違いない!ちょっぴり疑ってましたけど、なんの!

 目にした青池は本当に青かった!!


 陽の差すところはまさにコバルトブルーやトルコ石。光の加減や風で水面が揺れるとムラができるところがまた、トルコ石っぽい…。

 周囲に生えてる木々は水面に緑を映してるし、深そうな場所はもっさりした青いゼリーみたいだし。

 風で木が揺れて水面に差し込む陽の光によっても、青の色がその時々でまったく表情を変えるんですよ。

 しかも、少なく見積もっても十数メートルはあるだろう水底に沈む倒木まではっきりと見えるほどの透明度!沖縄でダイビングしてた時だって、あそこまでクリアな視界を経験したことはなかった、それほど透き通っていて青い。

 たとえ音声なくてもおそらくセリフは全部言えるだろう、それほどまで繰り返して見た「天空の城ラピュタ(夢だよー、あんなとこいつか冒険してみたいよー)」の中で、パズーが水底に沈んだ町を見ていた時、画面を横切る魚影(知らない人、覚えていない人は申し訳ありません)、あんな感じに底の方を泳いでる魚もしっかり見えました。

 青池を眺めている時に、うわ、あのシーンと同じ!と思い出しながら鼻の奥がつんとしたので、相当感動していた模様。


 とにかく、心の底から不思議だと思うものや驚くものを見たとき、人はどうやら一種の失語症に陥るようで。

「青いねえ」

「青いー」

「なんでこんなに青いんだろう」

「青いなあ」

 それ以上言葉が出てこなくて、青い青いを繰り返しながら友人とぼんやり眺めるだけ。

 あんな青を現実世界が生み出せるものなんだなあ。


 なんだかファンタジーアニメに出てくるような青さというか…CGで作られた美しい原風景でも見ているようで、非現実感さえ覚えてました。

 結構長い間、じっと眺めたりうろうろぐるぐるしても全然飽きなかったなあ。

 さすがにキリがないね、と後ろ髪引かれる思いで後にしましたが、木立の影に隠れる前に振り返った青池は、やっぱり離れてみても青かった。


 どうやらあの池の青さを生み出しているものは、まだ解明されていないそうで。

 誰か潜ったりして、成分とか調べてみないのかなー。

 やり手がいないというなら、ダイブなんて久しくご無沙汰だけど、過酷な訓練があってもいいからやってみたいなあ。


 もっともあの色は、どう考えても体に良くはなさそうな成分入ってそうな気もする…。まあ魚泳いでたし、特に咳き込んだりむせたりとか、小鳥が周りで死んでる!なんてまったくなかったから大丈夫だろうけど。

 あ、でもいろいろな雑草にアレルギーを持つ友人は、ちょっとくしゃみしてたな。

 とはいえ、理解することで夢もなくなっちゃいそうだから、今のままのがいいのかもしれませんね。


 そしてイカサマレース。

 確か青池を後にして、マグロで有名な大間に立ち寄ってから…だったと思うけど、結構離れた場所から向かってたよね、って記憶くらいでかなりうろ覚えです、ごめんなさい。


 マサキチ、せいぜいがゲームするくらいでギャンブルみたいなものはやりません。

 ですが、イカサマレースの響きを聞いただけでときめきました。

 なんだそりゃ。イカサマの言葉を堂々掲げるなんて、なんという太っ腹!ものっすごく面白そう!!

 と思い調べたところ…正式名称を「元祖!烏賊様レース」。あ、イカサマじゃなくて「烏賊」様なワケね…。

 つーか元祖て、亜流やセカンドもあるのか?聞いたことないけど。

 まあそれはいいや。


 レースの詳細は参加費を払い自分で選んだ活イカで、20メートルほどのコースを竿のようなもので、時にイカをつんつんとあおりながらゴールさせるとか。優勝者にはなんか特別な商品がもらえるとあり(ここはどうでもいい。以下が重要)、参加した人にはなんと、共に走った(?)イカがお土産に!

 わあお、なんたる上意下達!

 なんたる切ない…いや、世知辛いレースか。

 しかも、イカは当然まっすぐなんて走ら(泳が)ない。留まって動かないやつや逆走してくやつ、スミ吐いたり、斜めに進んでる(つもり)で仕切りにばかり当たってるやつ…意のままに操れないところがまた醍醐味とな。

 なにそれー!

 ますますもって面白そうだよ!わくわくも倍増ってもんです。

 自分で選んだイカ、つっついてみたい!走らせてみたい!


 そんなわけで車を飛ばすものの…行けども行けども目的地には及ばず。

 斜めに横切る道路さえあればもう少し、だったとは思うけれど、開けていない場所は当然走れない。

「誰だよ、日本は狭いとか言ってるやつ」

「今まで道路沿いの店すらろくに見かけてない。十分広いって」

 広いの基準がいささか狭く、しかも単なる八つ当たり。が、それだけ真剣?だったってことでお許しください。


 ようやくたどり着いたものの、レース時間はとうに終了していた。

 …多分、そのはずだ。

 なぜ多分かと言うと…開催日、そしてわずか開催予定時間の25分後過ぎ?くらいだったにもかかわらず、レース場(外のテント下に設営)に人がいないどころか、レースをやっていた形跡などまったくと言っていいほどなかったから。


 うまくしたら余韻とか名残みたいなものだけでも見られないかなー、なんていう期待すら裏切られ。

 せっかくだから見学してこうか、とイカを備蓄する水槽が置かれている建物に入ってみるものの…そこにはカウンターでお造りをアテに飲んでいる、ご近所?か漁協のおじさんらしき2人がいるのみ。

 建物内のイカ備蓄水槽を覗けば30匹(こういう時も「杯」になるのかな?)ほどがひょーう、ひょーうと泳いでいるだけ。

「あー、あれうまそう」

「お造りにもしてくれるらしいけど」

「…でも、この時間に一杯のイカ刺2人で食べたら、夜ご飯(その日は食事のついてる宿だった)確実に食べれんよなあ」

「……」

 頑張って車を飛ばしてきた割には、のんびりと水槽を泳いでいるイカを眺めるだけ、ついでにカウンターで飲んでたおじさんたちにも、こんなとこまで来るなんて珍しいやつらがいるもんだな、的な視線で眺められつつ、ちょっぴり…いや、かなり空しい気持ちで建物を後にした。


 さすがに悔しいので、ロードサイドに立っている「元祖!烏賊様レース」の看板をやけくそのように写真に収めて帰ってきたけど…いつか絶対、イカサマレースは体験したい!という思いは未だに褪せず(ちなみに開催期間は7~10月です)。


 あー、くそう。書いてたらますますやりたくなったなぁ…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る