7 落人たちが暮らした鍾乳洞

 鍾乳洞が好きです。

 つるつると滑りそうに見えて以外にもざらっとしてるあの鍾乳石や石筍せきじゅん、石柱の林立する姿。

 かぼちゃっぽいもの、地獄みたいな針山状態、神様の座椅子だのびっくりするような形状になってたりで、自然てすごいなあと心から感心します。

 たまに腰をかがめてしか通れないようなところなんかもあったりして、曲がりくねった先に何があるのか予想もつかないところとか、行き止まりになってるし一般は入れないけど、あの奥には何があるんだろうとか…昔その土地がどんなところだったかによって色も光景も全然違う。鍾乳洞は何度訪れてもワクワクします。鳥目じゃない分、人が暗くてよくわからないというところも結構見えるってのも楽しめる理由の一つかもしれません。


 天井に蝙蝠こうもりがいたり、脇を流れる水の中には目が退化して見えなくなったうなぎ、サンショウウオみたいなものが住んでいたりすることもあり、日常とは違う感じを味わえるのもまた、いいんですよねぇ…。たとえその姿は拝めなくても、そんなのいるんだ!って驚きだけでメシが食えそうな勢いです。

 もっとも、狭い通路で頭をぶつけたり、階段の手すりがびしょびしょで手がさび臭くなるなんてところもありますし、あまり同意の声はなさそうですけれど。


 とはいえ、沖縄でわざわざ市内から足を伸ばしたというのに、入場料払って入ったら体育館の半分ほどしかない単なる泡盛置き場だった、なんて鍾乳洞にがっかりしたみたいなこともたまにはあるんですが。そんなショボ経験や空振りも案外憎めない。やっぱり行ってみたりやってみなきゃ、何がつまらないのかもわからないですからね!経験、大事!


 にわかでないことだけは確かでも、狭い世界をぐるぐるしている、いささか箱庭チックなミステリーハンターのマサキチ。

 今回は源頼朝と同じ姓を持ちながら追われることになった、源家の落人たちが暮らしていたという栃木にある源三窟げんさんくつについて。

 旅の相棒は相も変わらず、いくつか読んでいただいている方にはお馴染み?ファイト一発な友人です。


 源三窟はかつて源義経の腹心であった源有綱みなもとのありつなが、壇ノ浦の戦いののち、頼朝に義経一派と追われることになり、家族や家来とともに2年もの間隠れていたとされる鍾乳洞です。2年の間暗い岩屋暮らしをしていた有綱たちがすわ、お家再興!と立ち上がろうとした矢先、洞内の滝の水で米をといだ、そのとぎ汁が外に流れ出ているのを頼朝軍に見とがめられ、一族は無念の最期を遂げることになったと伝えられているそうな。

 うーん…なんたる悲哀。


 マサキチ、個人的に学生時代に歴史を専攻(史学部ではありません)していたこと…は関係ないものの、平氏(敗者の歴史)にむしろ興味があるという、若干変わり者。

 だって天下なんて取ったことないし、取れなかった人たちの方の気持ちのが、フツーの人間には理解しやすいじゃないですか。

 無計画だったとか、計画練っててもほんの些細なことがきっかけでダメだったとか、理解も共感もしやすいし、殿上人な存在よりもそういう人々の人間臭さがまた…。

 …なんて書いたところで、これもあまり同意の声はなさそうだなあ。


 ともあれ、一時的とはいえ天下采配を振るった源氏にも、やはり薄暗い側面があったことを入洞前に滔々とうとうと説かれ(ここ、入る前に口頭説明があります)、そして入口手前にもナゾの一休さん像があり、親切にもほぼ同じことを繰り返してくれます。

 歴史なんてすっかり忘れちゃったよ、てな人にも入る前から予備知識ばっちり。気合いも入るってものです。

 どんな世界に会えるのかな~。わくわく。


 入口は石造りのアーチっぽい作りとなっており、朱塗りの短い欄干が「ここじゃ!」と主張する感じ。そのアーチの両脇には朱墨で赤々とした字で源三窟と刻まれてます。

 手前にある標石も同様に朱墨で「源三窟」をうたっている。

 ちょっぴり主張が激しいというか、その鮮やかすぎる朱色がなんだかとてもおどろおどろしく見え、イタリア辺りのカタコンベのようなそうでないような、なんとなく地下墓っぽい感じがするなあというのが第一印象。

 入口アーチの上に並んだ提灯が光っている様子がまた、アンバランスさを醸し出してました。

 密教っぽい感じの独特の派手さというか…いささか不謹慎ですが、外国人の考える日本のセットっぽいというか…うーん…。なんとも言えない不思議なセンス。

 だからこそ、いまだかつて並ぶところのない鍾乳洞かも!

 新感覚を体験できそうだよー、と大きく膨らんでいく期待に、いざ!


 アーチから見える下へと続く階段…よりもそれを囲む壁が無造作に石を積み上げたような作りで、尚一層おどろおどろしかったけれど、それもまた未知の体験へと誘うものであるならば、これほどふさわしいものはありませんね。


 道なりに歩いていくと、不意に現れる滝と落人の人形。

「うおぅ」

 …若干色が抜けている、かつ人より等身よりの小さいそれらの姿が、妙に生々しく、リアルで怖い。

 ドキドキワクワクは好きだけど、ホラーは苦手なんだよなー…。小説は読めても、映像や現物は無理なんだよー!

 マサキチ、しょっぱなからすでにビビる。

 友人も「こわっ…」とぼそり。

 …いや、ホラーじゃないんですけどね。

 滝の傍で米をとぐ人形の姿。むうう…これが一族を悲しい末路に追い込んだという滝か。


 続いて、有綱についてきたのだろう落ち武者たちの人形が彩る食事風景。

 当時の生活って粟やひえと少量の野菜…程度だろうと思っていたけれど、鍋を囲みおかずも以外とあって、むしろおいしそうな感じに見える。案外贅沢だったのかなあ?それとも製作者のやさしさ?

 でも、スポットが当たって妙に浅黒い人形たちの顔が、相変わらず妙に怖い。そして心なしか寒い。この鍾乳洞に来てから割と、ずっと。


 マサキチ、霊感なんぞありません。だからこの寒さは源氏の霊なんてもんじゃない…はず。

 でも、おかしいなあ。なんだか風も吹いている気がする。

 うわあ、やだよ~!!


 …と、あれ?

 エアコンが目に留まる。

 こんなところに??と思うものの、鍾乳洞というか地下の洞窟だし、人形が湿気でぼろぼろにならないよう、除湿してるのかもしれない。

 どうりで寒いはずだ。

 …なんてわかっても、人形やっぱり怖い。

 友人と2人してそそくさと先に進む。


 かつて湖だったところということで、ちょっとした石柱などの説明をはさみ、当主であった有綱再起を図る、といった人形を眺める。

 …で、鍾乳洞終わり。

 え??

 短っ!

「短かったね」

「うん…」

 なんとなく消化不良な感じ。まあ、仕方ないか。長くしろと言ったところで、そういうものでもないからなあ。

 そのまま動線に沿って小さな宝物館に向かい、部屋の中のあたたかさにホッとしながら、洞内で発見されたぼろぼろになった甲冑などの展示を眺める。そしてなぜかどんな小さい宝物館でも必ずといっていいほどある、古銭やこの地で発見されたわけではないであろう化石が、ちょびっと展示されている…で源三窟の旅は終了でごわす。


 今のように照明もない中、きっとほぼ暗闇で生活していたのだろう往時の落人たちの暮らしを思えば、こんな風に言うのは不謹慎ですが。

 もう少し鍾乳洞な空気を味わいたかったなぁ…。

「鍾乳洞より落ち武者の人形の方がインパクトあったんだけど」

「怖いしゆっくりなんて見てらんないよ、あれ」

 そんなことを友人と言い合いながら、帰路についたのでした。


 源三窟は神秘的というよりは無骨、普通の鍾乳洞とはちょっと違い、むしろ洞窟や岩屋のようなイメージでした。

 短さといい、ひたすら怖い人形といい…さらには洞窟ならではの涼しさだけではないエアコンのインパクトといい、他にあまり並ぶところのないスポットだったなあと、妙に印象に残っている場所です。


 栃木方面に行く機会がある方はぜひ一度、足を伸ばしてはいかがでしょう?

 きっと、なかなか不思議な体験ができますよ。

 (物好きにも?)行こう!行ってみる!という方はクーポンなどもネットでダウンロードできますので、よろしければ探してみてください。

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