4 カモメは盗賊
前回はアメリカ東海岸での甘ったるい思い出を語りましたが、今回は西海岸でのこと。
盗賊カモメの話ではなく、盗賊なカモメです。
?と思われるでしょうが、しばしお付き合いください。
昔から水泳をやっていたこともあって、マサキチは特に泳がなくても、海とか川とか揺れる水をぼーっと眺めてるのが好きです。
人の少ないプールでクロールなんかした時、水底に移る指先が起こすゆらゆらした水の波紋とか、眺めながらのんびり泳ぐのなんて最高に気持ちいい。とにかく形もないのにふるふると揺れたり、不思議な文様を見せてくれる水の動きにはホント、癒されます。
ハリウッド映画なんかでもしばしば取り上げられている、サンフランシスコ。監獄島アルカトラズがあることでも有名ですね。
既に刑務所としての機能はなく、観光地となっている今は観光船で島に上陸できるようになってます。無骨なコンクリート製の建屋とか中に作られた檻とのギャップに驚くほど、晴れた日には刈り込まれた芝に小鳥がいたり、のどかな光景が広がる場所。
外だけ見ればこんなに明るくて静かなところで、対岸の、泳げばたどり着きそうなところに見える街を当時の人たちはどんな思いで見ていたのかなあと、ちょっと想像難しいほどに暗いイメージはありません。もっとも、あそこの海は潮目がかなり特殊で急、そして冷たいとのことで、生存説などで有名な人もいますが、脱獄したほとんどが、生きてたどり着くことはなかったんじゃないかと言われていたりします。
ともあれ。
観光としてどこかに行っても、名所を巡るより地元のカフェとか教会前の公園とか、自分の気に入った場所を見つけ、ひたすらぼーっと過ごすのを楽しみとするマサキチ。
明らかにアジア系の顔をしているのに(フィリピン系のハーフに見えるかもと、昔仕事の同僚に言われたことはあるが。色黒ってこと?それとも目の形?)、大概はピンでいるからか、日本人ではなく現地に暮らすアジア系にしか見られたことがなく結構困る…まあ、韓国人は韓国語で、中国人は中国語、フランス人やアメリカ人もそれぞれに話しかけてくる…のは、ろくすっぽその国の言葉がわからなくても、団体行動で有名な日本人なのにむしろ、一人歩きが好きなことに起因しているのだろうと思われます。
そんなマサキチはサンフランシスコのピア39で、海にせり出したデッキにある2段ほどの見晴らし台のようなところに座って、アルカトラズ島と海をひたすらぼーっと眺めることにハマりまして。朝食そっちのけで出かけてました。
ずっとぼーっと眺めていても勿論全然飽きないけれど、やっぱお腹すくし、おいしいものがあったらもっと幸せだよなあ。そんなことを考えていたマサキチは、さまよっていた際にウェンディ―ズ(日本からは数年前に撤退。残念)があることを思い出し。
今もあるのかなあ…あそこのチリビーンズがかかったタコサラダ、豆入りのタコスミートを乗せたレタスのサラダが好きで。あれ食べながらのんびりできたら最高じゃないか!と、フライドポテトを共に購入。いそいそとデッキへ。
サラダっつったって、使い捨てのプラケースは30センチくらいもあるビッグサイズ(アメリカでは多分スタンダード)。それにポテトですからもう、かなりお腹いっぱいになります。
強い潮風にあおられ、時々飛んで行きそうになるレタスと格闘しつつ、思い出したようにイモを食う…超ジャンクな食事も最高の幸せってもんです。
なんで身体によくないものってああ、おいしく感じるんでしょうかねえ…。
空をカモメが何羽も飛んでる。
青い空に白いカモメ、そしてゆらゆらと揺れる深い色の海。風情があるなあ…なんて思いながら、半分ほどとなったサラダとポテトを置いて、しばしぼんやり。
そんなマサキチの目の前を、ふわーっとカモメが一羽降りて来て、台から少し離れた背後のデッキに丸くなって日光浴を始めました。
それまであんま近くで見たことはなかったけれど、案外でかいなあ、カラスくらいはあるのではないだろうか。白いカモメは風情になるのに、カラスは黒いだけであんなに嫌われちゃうのって気の毒だよなあとか、どーでもいいことを考えながらまた海に目を戻すうちにもふわあ、ふわあと数羽のカモメがデッキに降り立ち、それぞれ日光浴を始める。
そんなカモメたちを横目に、サラダに手を伸ばすと…ん?
一番最初に降り立ったカモメの位置が随分と変わっている。ふくふくと丸くなってはいるけれど、なんか数メートルくらい距離を縮めて来ているような…。
まあ、その時はほとんど人はいませんでしたが、観光客もひっきりなしに訪れるデッキだし、誰かをよけたのかな。そんなことを思いながらしばしもぐもぐ。
そうこうするうちに、視界の端で何かが動く。
ん?
別のカモメが
日の当たるところのがお腹もあったかいもんなあ、それもありか。なーんて再びもぐもぐぼんや…り?しようとしてハッと気づく。
降り立ったカモメたちの輪?が、マサキチを中心にどんどん縮まってきていることに!
見渡せば、いつの間にか最初に降り立ったカモメの姿はデッキになく…マサキチのいる台の上、1メートルくらいの距離で匍匐前進していた。
そしてマサキチと目が合い、慌てて取り繕うように前進をストップ。
無表情なのに、もし言葉が喋れたなら「チイイッ、見つかっちまったぜ」とでも言わんばかりの顔をして、しれっと明後日の方を見ようと…している。が、明らかに狙いはマサキチの手元だ。
そこでようやく思い出した。
白い姿をしているコイツらも、カラスと同じ雑食じゃないか!?ということを。
ウミネコとか言うし、魚も食べるし、なんなら草も食べるかもしれない。
…マズイ。
マサキチ、小さい頃図書館で借りた中国の伝奇に載っていた
マサキチは当然子どもでもなければ、鳥が鷲掴みにできるような重さでもない。わかっているのにやっぱうへえって思ってしまいます。
なので、そろぉ~…っとこう、すぐそばにうずくまるカモメがクソッタレ!寄越しやがれ!って顔(してるように見える)のを横目に、食べてたものを畳みました。
…つもりが、なんつーか、やっぱびびってたんでしょうね…風にあおられてサラダのレタスがぴゅーっと。袋に入れようとしたポテトも数本バラバラと。
ああ、ここ掃除してる人ごめんなさい。シンガポールじゃなくてよかった(放置すれば罰金)でも、今は怖くてこの場にいられん!
心の中で
しようと思ったら、背後からバサバサ、キェーともケェーともつかない、おそらくカモメたちが取り合うらしき音声が…
こ…怖あ!
間一髪つか危機一髪。振り向くのはトラウマ再び!になりそうで、そのまま足早に去りました。
いささか大げさではありますが、マサキチはあの日、カモメは獲物を虎視眈々と狙う盗賊なのだということを知ったのです。
白いのに黒いなんて…。
皆さまも匍匐前進する鳥を見た際には、十分にお気を付けください。
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