2 十和田神社のおより紙

 随分と前に青森に行った時のお話。

 これ、関東の人間にしかわからん話かもしれませんが…

 JR東日本のCM「そうだ、京都行こう」ならぬ、「そうだ、恐山に行こう」。思い立ち、友人と青森に行きました。


 なんでそこ!?ってツッコミは無用です。マサキチとその友人、外身も中身も似てないのに、とても似た者同士「不思議なもの(変なもの)」が大好物でして。

 ホラーではない、いい意味でオカルティズムやらパワースポットといった、ファンタジックな物、事、場所に胸躍らせる冒険野郎って感じですかね。ただ面白そうだから以外、大義名分なんてありゃしません。まれにあっても、なんか別のイベントに埋もれてそれのみが目的ではなくなる、予定は未定、明日の風はそん時じゃなきゃわからんってところもまたいい塩梅で。

 そしてさらに「え?」なのはまずこれ、恐山でのお話ではありません。

 無論行ったのですが、よりインパクトの強かったものをとりあえず、と気まぐれに書き始めたので…冒頭詐欺はご容赦ください。



 その日は十和田湖畔にあるホテルに滞在し、すぐ近くに神社があるとのことで、昨今?のブーム以前から2人して御朱印を集めてることもあり、喜び勇んでそびえるような階段をためらいもなくずんずんとのぼりました。

「あたし(御朱印)書けないから紙になっちゃうけどォ?」と言うお守り売り場にいるおばさまに頷いて、御朱印をもらっていた時に目を留めたもの。

『←占い場』矢印は斜め上を向いている。

「占いやってるんですか?おみくじじゃなく?」

「そぉなの、おみくじもあるけど、おより紙(おそらくねじるなどの「撚る」を丁寧にした言葉)っていうの。ちょっと変わってるわよ。湖のほとりに占場(占う場所)があって、そこに紙を沈めて占うのよ」

 なんだか面白そう。友人も目を輝かせているし。

「やっちゃう?」

「やっちゃうか」

「結構行くまで大変なんだけど、平気かしらぁ?この上をね、道なりに行くの」

 なるほど、矢印が上向いてた理由は、神社からさらに上へと続く階段を示していたようで。

 でも、平気とか平気じゃないなんてどうでもいい。もうやる気満々なので、のーんびり牧歌的なおばさまの声にもぶんぶんと頷いておより紙を購入。

 なんかお守り袋を買った時のような、薄い紙袋に入っている。

「説明、中に入ってるから」

 もんのすごい気になりますけど、今からなくしちゃいかん、取り出すのは現地でと諦めて…いざ出発!


 ひたすら階段上ります。

 とにかく上る、上る。

 …途中、神社や社務所を見下ろせる辺りでなぜかガスってくる(霧が出てくる)。

なんだろ、ちょっと神秘的。前途を祝福してくれているようではありませんかと、勝手な解釈をしつつほくそ笑むマサキチと友人。これは期待できるかも!

 階段が終わると、今度はなだらかな山道に。

「確かに階段は結構あったけど、別にさほど大変じゃない」

「このまま湖に降りちゃうのは確かにあっけないな」


 いやあもうね、すっかり慣れっこになりすぎてていっつも忘れるんですわ。

「うおっ、面白そう」って好奇心発動で飛びついちゃうマサキチと友人、なんか普通に温泉行こうぜ!と旅立ったのに、近くに面白そうな滝があるじゃーんって、なぜか2時間山道歩いてたり。さらにこの奥にも滝あるみたい。どうせだから行っちゃおうや、とか、地図を見ながら野伏のごとく、崖みたいなヤバげなところ歩いたりとか…。

 とにかく意識的にせよ無意識にせよ「ファイト!一発!!」な目に、なぜか飛び込んでく猪人間ズ。うん、何もないわけないんスよ。


 しばらくするとありましたよ。

 斜面をひたすら下に向かって続いてる鉄梯子。

「これか」

「これだ」

 さすがにちょっとぽかーん。

 だって底はまったく見えず、とにかくひたすら下へと続いてるんですよ、その梯子。周りはかなり草ぼうぼう。時折梯子段まで伸びてる様子も見て取れる。しかも湖の水蒸気か、夕べの雨のせいか濡れてとっても滑りそう。

 どうする?というやりとりがあったかなかったか…まあとにかく、ここまで来たんだから行ってみるべと、二人して梯子を下りだす。

「長いなあ」

「手が疲れてきた」

 息が切れるほど長い鉄梯子なんて見たことない(記憶なので誇張されてる部分はあると思いますが)。ちょっと疲れたーなんてぶちぶち言いながらひたすら下りてくうちに、半ばくらいだったろうか…マサキチの目がふと、右手にある看板に吸い寄せられました。

「!!!おいおい!熊出没注意って書いてあるんだけど!」

「え?うわ、鈴とか鳴り物なんて何一つ持って来てないよ!」

 …とまあ、そういう問題ではないのですが、そこはさておき。


 その看板がまた、東北辺りの特色なんですかね…色々うろうろした先でいくつか同様のものを目にしてたんですが、滞在中に見たもの全部、妙に熊の絵がリアル。

 交通標識なんかで見かける、飛び出し注意のピクトグラム系かわいい鹿なんてメじゃない。手描きなのか?ってくらい全部違うし、シルエットでもなく口の中は赤く塗られてるし、マジな顔で脅しをかけてくる、かなりリアルすぎて怖い部類。

 ちょっとした冒険は楽しいけど、何も好き好んでビビリたいわけではないチキンハートなマサキチ。

 ビビるその間も当然、鉄梯子を下ってます。でも、反復運動?を続けてるうちになんとなくバカバカしくなってきた。

「でもさあ…明らかにコレ(占い)目当ての人への注意喚起としか思えないけどさあ…この状況で注意って言われても、出現したところで逃げるとか戦うかの選択肢すらないよね」

「確かに」

 鉄梯子を下りてるので、両手足は常に梯子にあるわけですよ。もうどうにもならんです。

「とりあえず無視無視」

とうとう居直り。

 しかもなんか2人して、この状況がおかしくてげらげらと笑い始める。

 もしあの姿を見られたら(見られる場所ではないけれど)、完全ヤバイ人たちでしかなかっただろうなあ…。


 で、ようやく下まで到着。

「…ここ?」

「ここだよねぇ…」

 首をかしげざるを得なかったのは、少し開けた地面の向こうにいきなり水際。辺りはかなり大きな木が茂ってるし、人1人がしゃがんで腕を伸ばして湖に向かって…みたいなスペースしかない。当然ここですなんて看板もなし。

 けど、終着点はこの場所以外考えられずで、両名とも本当にここでいいのかの疑問を抱きつつ、とりあえずやってみるかと袋から中身を取り出してみる。

 短冊状になった、習字の練習用和紙のような紙が何枚か入っていました。

 確か『こよりにして、占いたいことを思い浮かべながら水に落とす』、沈むか浮かぶかによって吉凶を占うそうで、沈み方を解説する紙が入っていて、その種類は多分、5、6通りくらいだったと思います。垂直に沈んでくとか、水の上に倒れるとか、半ばで浮遊するとか色々。


 よくわからないけど、とにかくやってみよう!


 ――で、早いけど結論。

「これじゃあどれにも当てはめられなくてわからん!」

 でした…。

 マサキチが先だったか、友人が先だったか…これも覚えていないけれど、とりあえず2人して同じ状態に…。

 こよりの下部は斜め45度から50度くらいの角度で水面下にあり、頭は湖面に出ていて、解説のどの図にもない。

「沈まないよー」

「なんか頑張りすぎ」

「斜めなのは凶とかでもいいから、載せておいてほしいんですけど」

 文句言ったって、ないものはないのでどうしようもない。

 これは、神託は下らないのか、下せないということなのか…。それとも半分だけイケる!みたいな意味なのか…

 やっぱどうせなら、託宣知りたいじゃないですか。こういう結果だったのかって一喜一憂してみたいじゃないですか。


 …けれど、しばらく眺めていてもポジションは一向に変わらず。

 風に吹かれて少し遠くへと流され、岸辺を離れ漂って行っても変わらず。

 頑固だなぁ…。

 とうとう見えなくなってしまった(沈んだのかもしれないけど、勿論見えなかった。きっと斜め45度のまま沈んでいったに違いない)。


「まだ残ってるけど(おより紙)…」

 どうする?の言葉すら途切れる。

 結局、全然わからないまま、なんとなく再挑戦する気にもなれず、もういいかの声もなく…2人してしょんぼりトボトボと、元来た梯子を上って帰った十和田神社での、ちょっぴりしょっぱい経験。


 ホントあれ、なんだったんだろうなあ。

 おより紙の残りは、旅先でもらったチラシやガイドをしまっている箱に今もあるはずだけれど、いまだ見直したことはありません。

 斜めに沈むはなかったからね。


 もしもこの斜め四十五度的結果についてご存じの方がいらっしゃいましたら…近況のコメント欄などにコソッと記していただけますと幸いです。


 これを書くために調べてみたところ、占場と呼ばれていたその場所には、311の余波により、今では下りられなくなってるそうですね。

 結果はわからず、ひたすら続く鉄梯子と熊看板の印象ではあったけれど…そう思うと、案外悪い経験ではなかった…のかもしれません。

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