五日目――其ノ二

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 昼食をとった後、僕は叔父からごみの焼却の手伝いをするように言われました。

 新宮神社では最近、粗大ごみの不法投棄が絶えません。その出所は、新宮村の人たちもそうですが、隣の村やその隣からもごみを捨てに来る人がいて、その量はひどいものです。

 我々がそのごみを年に一度の粗大ごみの回収日まで保管しておいて、その日にまとめて出しても良いのですが、その全てを保管するのには限界があるので、燃やせるものは燃やしてしまおうと言うのが叔父の考えでした。

 個人でのごみの焼却は法律で禁止されていますが、お焚き上げという名目であればそれも可能です。

 村の警察は都会と違いかなり適当なので、僕が焼却中にそれらしい振る舞いをしているだけで、目をつぶってくれます。体裁さえ整っていればいいんです。

 だから、僕は浄衣を身に纏い、大幣を引っ提げて焼却場所である畑を訪れました。

 畑は叔父さんが所有しているもので、普段は野菜を栽培しているのですが、先週収穫が終わり今は何にも使っていません。

 僕がいち早く畑に到着し待っていると、叔父さんの軽トラがやって来ました。僕は叔父さんに声を掛けようとしましたが、軽トラの中から見知らぬ男性と幼女が下りてきたので、慌ててそれを取りやめました。

 彼らはごみの焼却を手伝ってくれるようでした。と言っても手伝ってくれるのは男性の方だけで、幼女は一人で遊んでいました。

 僕は彼らとは会話を交わしませんでした。理由はお察しの通りです。

 焼却が始まりました。

 僕はごみに火をつけ祓詞を唱えながら大幣を振るうことでお焚き上げっぽさを演出しました。火は轟々と燃え、ものすごい量の煙が立ち込めました。煙たさは常軌を逸していました。

 ごみ山は複数個あって、一つずつ燃やしていたんですが、残り一個となった所で、手持ちのライターの火が無くなってしまったので、別のライターを持ってくるために、一旦家へと帰ることにしました。

 途中の道で先ほどの幼女を見かけました。少し前まで畑で遊んでいたんですが、それに飽きてしまったのかもしれません。女の子は道端に生えている花を摘んでいるようでした。

「おひとつどうぞ」

そう言って彼女は僕に花を差し出してくれましたが、僕なんかと触れ合っては彼女がかわいそうだと思い無視しました。

 僕が再び畑に戻ってきた時には誰もいませんでした。少女も、男性も、叔父さんも。

 ごみ山のすぐ隣には小さな靴が揃えて置かれていました。おそらくあの幼女のものでしょう。僕はそれを安全な所に移して、最後のごみ山に火をつけました。火は音を立てて燃え上がります。

 僕は祓詞を唱えようとしましたが、周りには誰もいなかったので、何もせずそのまま家に帰りました。火は、畑で燃やしているので他に燃え移る心配もありませんし、放っておけばいずれ消えるので放置しても問題ありませんでした。

 去り際に幼女の声が聞こえたような気がしましたが、僕が関わると悪いことしか起こらないので、特に気にかけませんでした。




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 叔父さんは、今夜遅くなるということで、僕は夕食の支度をしていました。包丁を使い、肉や野菜を切り刻みます。こうして、料理するのは何年振りか分かりません。

 そんな時、家の玄関から誰かが入ってきました。足音は僕の方へと近づいてきて、姿を現したのは叔父さんでした。

「叔父さん。今日は遅いんじゃなかったんですか?」

「そうだね。そのつもりだったんだけど少々事情が変わってね」

叔父さんはいつもより怖い顔をしていました。怒っているとかではなく、どことなく怖い顔。何が怖いかと問われると答えかねますが、平常時とは何かが違いました。

「どうしたんですか?」

そう言うと、叔父は一呼吸置き

「凛太朗。警察の方から話があるそうだ」

苦虫を嚙みつぶしたような表情でした。

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