二日目――其ノ二
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ハルハルを連れて向かったのは
ホタルを眺めつつ、そして無駄話をしつつ川沿いを下りました。それはとても和やかな時間だったように思います。この記憶は色あせないで欲しいと願うばかりです。
ここを通ったのは何年ぶりでしょうか? なんだか懐かしい記憶が思い起こされます。
時は幼少まで遡ります。私はムン君と二人でホタルを眺めていました。
「うわぁ~。すごぉい。きれいだね。ホタルさんかわいいね。ムン君」
「うん。そうだね。でもきみのほうがずっとかわいいよ」的な発言を期待していたのですが彼は何も言わず小さく頷くだけでした。
私たちは何を話すわけでもなくただ静かにその場にいました。それでも、全く気まずい雰囲気などは無く、包まれるような心地よさすら感じられました。
私たちはしばらくそのまま座っていました。しかし、途中で誰かがやって来る声がしたので咄嗟に逃げました。なぜなら、私たちの関係は誰にも秘密だったからです。
「ほら、早く。こっち」
そう言って彼は私の手を引っ張ってくれました。普段とは違い、彼はとても頼もしい存在に思えました。その時の手の感触やぬくもりは、きっと忘れることができないでしょう。
私たちは近くの茂みに身を潜めました。とても狭くて二人必死に身を寄せ合っていたのを覚えています。声は次第に大きくなり遂にその姿を現しました。それは、私たちの先輩方集団でした。これはますます見つかるわけにはいきません。
先輩方はわいわいガヤガヤとホタル観賞をしていました。私たちはその後姿を木々や葉っぱの隙間から静かに覗いていました。別に悪いことをしているわけでは無いのですが、私たちが知らない先輩方を見ているようで、そのことに少し背徳感を覚えました。
そうやってずっとしゃがんでいたので、途中から足はものすごく痺れてきて痛かったです。なので、私はなんとかその痛みを和らげようといろいろと体制を変え試行錯誤していました。すると、私はうっかり尻もちをついてしまったのです。当然草木は「カサカサ」と音を立て、それに気がついた先輩方は一斉にこちらを振り向きました。私もムン君も一気に凍りつきました。生きた心地がしなかったです。
「何? 今の音」
「さぁ。ねずみとかじゃない」
先輩方の内の一人がこちらに向かって近づいてきました。これはもう絶体絶命のピンチなのです。
そんな時でした。近くに生えていた細い竹が自然と折れてその先輩の頭に直撃したのです。
「いってぇ。なんだよこの竹」
他の先輩方はそれを見て大いに笑っていました。
「はっはっはっ。腹痛てぇ。日頃の行いが悪いからだよ」
そんなこんなで私たちのことはうやむやになりました。
先輩方が過ぎ去った後、私たちは自然と目を見つめ合っていました。そして、少しの沈黙の末に二人で大笑いしました。どうして笑ったのかは分かりません。ただ、不思議と笑いが込み上げてきたのです。
ああ、これは正しくノスタルジアです。しみじみとするばかりなのです。
そんな記憶に思いを馳せながら川を下りました。ノアノアは元気に走り回っていました。ワン君は子育ての大変さを吐露していました。ハルハルはどうなのでしょう。そう思い彼女の方へ振り向きました。しかし、そこには誰もいませんでした。
私はノアノアとワン君を帰らせて、一人彼女を探しに向かいました。一体、どこに行ってしまったのでしょう。
「ハルハル~」
呼んでみるのですが返事はありません。普通の道にいてくれればいいのですが、もし山道に入ってしまっていれば見つけ出すのは非常に困難になります。どうか、その状況だけは避けたいです。
金成橋付近まで戻ってきました。しかし、一向に見つかる気配がありません。金成橋では親子がホタルを見物していました。
私はその人たちに情報提供を求めました。すると「二十歳くらいの女性が川の上流に向かって走って行った所を遠くから見た」と言うのです。私は急いでその方向へと向かいました。
しばらく進むと、前方に人影のようなものが確認できました。しかし、それが誰なのかと言う所までは、はっきりと分からなかったので私はその陰に向かって走りました。するとなぜかその影はその場にしゃがみ込み小さく丸まりました。
ある程度近づいた所で、その影はやはりハルハルだと確信しました。私は彼女のもとに駆け寄ってポンポンと肩を叩きました。すると彼女は
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」と大きな悲鳴を上げたのです。とてもビックリしました。
彼女の意識は朦朧としているようで体には力が入っていませんでした。私は心配になって「ハルハル」と何度も呼びかけました。
数回ほど呼んだところで彼女は正気を取り戻しました。彼女はとても怯えているようで、私に抱き着いて泣いていました。何があったのかは分かりません。でも、それは彼女にとってとても辛いものだったのでしょう。なので、私はそんな彼女を静かに抱擁しました。そうすることが最善だと考えたからです。
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