三日目

 天気は快晴。青々とした空はどこまでも澄んでて雲一つ無い。俺は乃愛のために洗剤と砂糖を水と混ぜ合わせてシャボン玉液を合成してた。

「パパ。パパ」

「もうちょっと待って。すぐできるから」

シャボン玉液は一見普通の水みたいにも見えるけど、太陽の光を分光して虹を生み出してたし、表面は白くまばらに泡立ってたし、さらに俺がその液に人差し指を突っ込むとぬるぬると絡みついて来たから、それは列記としたシャボン玉液だって自信をもって言える。

 パステル調でカラフルなシャボン玉グッズ。吹くタイプから振るタイプ、ボタン式のものまである。サイズも大きいのから小さいのまで揃ってる。五歳の子供に遊ばせるにはちょっともったいない気もする。

 俺はそんなグッズと、錬成した液体とを手にして立ち上がった。

「乃愛。できたよ」

そう言って振り返ったんだけどそこには誰もいなくて、でも微かにこらえるような笑いだけは聞こえてた。

「んふふ。パパ。みつけてみて」

 最近、乃愛は狭くて暗い場所に隠れることにハマってるらしい。

 俺の目の前には長年使われて無さそうな木製のボロボロの倉庫があって、声は明らかにそこからしてた。倉庫の脇には丁寧に桃色の靴が並べられてて、靴の中にはそれぞれ一つずつ桃色の靴下が詰め込まれてた。彼女が狭い場所に入る時はいつもそうしてる。室内にいる時は靴下だけ、室外では靴と靴下の両方を脱ぐ。何でわざわざそうするのか聞いてみても、彼女は「何となく」っていつも答える。

 漏れてくる声からはいたずらっ子の臭いがした。「本人は見つからないって本気で思ってるのかな。それならめっちゃ可愛いな」とか思いつつ、倉庫の扉を開けてそんな彼女の期待を大人げなく裏切った。

 目が合った瞬間、彼女は何故か気まずそうな顔をしてたけど、裸足のまますぐに俺の脇の下をすり抜けてシャボン玉セットを手に取った。

「しゃぼんだま~」

「うん。分かったから。ちゃんと靴履いて」

「は~い」

彼女はやけに素直だった。

 俺はシャボン玉ストローの先端にシャボン玉液をつけ、それに軽く息を吹き込んだ。先端の液体は平面からゆっくりと湾曲して行って球形になった途端に空に飛んでった。

「うわー! のあもやりたい」

俺はストローに液をつけて彼女に手渡した。彼女は喜んでそれを手に取り思いっきり肺を膨らまして強く息を吹き込んだ。

 シャボン玉は一瞬だけ形になろうとしたけどすぐに弾け飛んでしまった。

「強く吹き過ぎだよ。もっと優しくするんだよ」

彼女はしっかりとアドバイスを聞き入れ、二回目は見事にシャボン玉を飛ばして見せた。

「パパ、できたよ。ほら」

 得意げなその表情は凄く微笑ましかった。

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