二日目――其ノ三
当然あると思っていたものが無かった時の衝撃ほど大きなものは無い。
「乃愛。華ちゃんどこに行ったか知らない?」
俺はさっきまで一緒に居たはずの彼女にそう尋ねる。
「しらなぁい」
彼女は欠伸をしながらキョトンとした様子でそう返した。
俺は少し焦った。崩壊は突然始まる。だからもしもの事が起こったんじゃないかと動揺した。
「音衣。乃愛を連れて先返っててくれる。俺、華ちゃんを探してくる」
そんな俺の心中の狼狽を悟っみたいに、音衣は俺の左手を両手でそっと握って
「大丈夫だよ。私が行くから」
ってやさしく投げかけた。
「じゃあ一緒に」
「私一人でいいよ。ノアノア眠たそうだから早く帰って寝かせてあげて」
「いや、でも……」
「心配しなくていいよ。私のほうがワン君よりこの辺りに詳しいし。こう見えても、小学校低学年の頃は夜の山道で遊んでたんだから。ここは私の庭だよ」
彼女は柔らかい握りこぶしで自分の胸をたたき、その自信をアピールしてた。だから、華ちゃんの捜索は彼女に任せることにした。
音衣と別れ乃愛と二人で道を進んだ。その間、俺は後悔してた。なぜ、彼女を独りで行かせてしまったのかとか、もし彼女の身に何かあったらどうしよう、とか考えなくていい心配までしてた。ここ最近どうしても悲観的になってしまう。
「パ・パ。ついてる・ついてない。……。パパはついてないよ」
乃愛はそう言って歯を見せた。
「ついてない? どういう事?」
「ラッキーじゃないってことだよ」
そう言って思いっきり開いた左手の親指の先に右手の人差し指を置き、今度は、
「は・る・ちゃ・ん・お・ね・え・ちゃ・ん」
っていう声に合わせて、指を親指と人差し指の付け根、人差し指の先、人差し指と中指の付け根、……っていう風にスライドさせて、名前の最後の音で到達した場所に小指を添えて次は
「ついてる・ついてない・ついてる・ついてない・ついてる・ついてない・ついてる・ついてない・ついてる」
って同じように人差し指を親指の先から順に、添えた小指までスライドさせてた。
「はるちゃんおねえちゃんはラッキーだよ」
いわゆる指占いというやつをしているらしい。
同じ要領で音衣、静ちゃんの分も占ってた。
「それ、流行ってるの?」
「うん。ようちえんのみんなやってるよ」
俺が幼い頃も同じようなものがあった。だから少し懐かしく思えたし、その遊びが世代を超えて受け継がれてる事に少し驚いた。
「パパ。つかれた。だっこ」
彼女は俺の左足にしがみつきながら駄々を捏ねた。だから俺は彼女をそっと抱き上げた。
「のあはね、ついてないの。パパとしずこおねえちゃんも。はるちゃんおねえちゃんとねいおねえちゃんはついてるの。あとでみんなにおしえてあげるんだぁ」
俺はそんな彼女の言葉に静かに相槌を打った。
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