ノーブルウィッチーズ SS 「嗚呼! 映画鑑賞会!」
「あ~、これから恒例月1開催のリクリエーションの企画会議を始める」
名誉隊長のロザリーを除く、ノーブルウィッチーズA部隊の全員が簡易休憩室に集まっていた。
議事進行を務めるのは、戦闘隊長ハインリーケ・(中略)・ウィトゲンシュタイン大尉。とはいえ、任務とは直接関係のない行事なので、ハインリーケのテンションは低い。
「はい! 今回のリクリエーションは映画鑑賞会がいいと思います!」
扶桑から来た黒田那佳中尉が手を挙げ、指されもしないのに発言した。
「そうか。わらわはシネマには疎うての。そなたの好きにしてよいぞ」
会議を早々に切り上げたいハインリーケは頷く。
だが。
「大尉の意見に反対する訳じゃないけど、黒田さんに任せると、たぶん、怪奇映画だけになるよ?」
と、異を唱えたのは、その男装の凛々しさ故、アイザックとも呼ばれるイザベル・デュ・モンソオ・ド・バーガンデール少尉だった。
「……それを失念しておったわ」
ハインリーケは額に手を当てた。那佳のお気に入りは怪物が登場するリベリオンの怪奇映画か扶桑のチャンバラ映画。任せてしまえば、下手をすると夜通しホラーの上映会ということになりかねず、部隊の士気に悪影響が出ること必死である。
「怪奇映画でいいのに~」
と、那佳は頬を膨らませる。
「では、少尉、そなたが映画の選定に当たれ」
ハインリーケはイザベルを見て決定を下した。
「え?」
イザベルは固まった。
「異議を唱えたのはそなたじゃ。当然であろう」
「ですよ……ね」
イザベルは肩を落とし、ちらりとアドリアーナ・ヴィスコンティ大尉の方を見るが、大尉は飛び火を恐れて素知らぬ顔である。
「では、フィルムの手配もあるので、明日の午後までに決定して報告するように。以上!」
この日の会議は、こうして終了した。
「意外とバリエーションが多い」
その夜。ロザリー隊長の部屋から借りてきた軍のレンタル・フィルムのカタログをペラペラめくり、イザベルはため息をついていた。
「歴史スペクタクルは長すぎ。文芸大作はみんな寝る。表現主義映画? 誰も見ない」
いちいち確認しながらイザベルが迷っていると、扉をノックする音がした。
「アイザック君」
入ってきたのは那佳だった。
「そろそろ、私の助言が要るかな~って思って」
「要らない」
那佳の猫なで声に、イザベルは背を向ける。
「そんなこと言わないで、一緒に考えようよ~」
那佳はイザベルの肩越しにカタログを覗き込んだ。
「これこれ! フランケンシュ……」
「却下」
「即座にですか!」
「黒田さん、怪奇映画はNG」
イザベルは振り返る。
「うう、世知辛い世の中になったものじゃのう」
「……それ、ウィトゲンシュタイン大尉の真似?」
「似てるでしょ?」
「ウナギと孔雀ほどには」
「……ぜんぜん似てないってことね」
那佳はため息をついたが、それでもめげずに提案した。
「だったら、恋愛映画! それだったら、問題ないでしょ!?」
「どうかな?」
イザベルは疑わしいと言った顔つきになる。
「モテない人間は、他人の恋愛の成就を目の当たりにすると、よりみじめになるような?」
「じゃ、悲恋もので」
那佳は熱弁を奮った。
「戦争に引き裂かれる愛! 身分の違いに引き裂かれる愛! 運命に引き裂かれる愛! 何でもかんでも引き裂かれる愛!」
「…………ま、いっか」
という過程を経て。
今月の映画鑑賞は、「恋の悲劇」5本立てと決定した。
ところが当日。
鑑賞会の会場となった格納庫には、誰も姿を見せなかった。フィルムを回す技術者と、那佳、イザベル以外には。
基本、士気を高めないといけないのに、落ち込む映画なんか見てどうする、という意見がもっぱらだったのだ。
「……アイザック君」
那佳はキスシーンを見つめながら、隣のイザベルに声をかけた。
「ちょっと……気まずくない?」
「うん。気まずい」
先ほどから、キスの多さにへきえきしていたイザベルも頷く。
「……キス、ばっかだね」
「うん。キスばっか」
暗闇の中、肩を寄せ合い落ち込む二人をよそに、フィルムはカタカタと回り続けた。
映画鑑賞会が終わるまで、まだ5時間近くあった。
ノーブルウィッチーズ 第506統合戦闘航空団 飛翔!/著:南房 秀久 角川スニーカー文庫 @sneaker
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