第二章「回想の姫君」 第五話
「わらわが、わらわが父上を苦しめておる。
「何がウィッチじゃ、わらわはこんな時に、何も出来ぬではないか」
その様子に、
親分は部下たちを
「……やれやれ、俺たちにゃ
親分はハインリーケの
「ほらよ、姫さん」
「父上! 父上、父上!」
ハインリーケは飛び出し、父親の
「俺がひとりで
親分が両手を上げて外に出る。
警官の
「ちょ、
「俺は親分とどこまでも一緒だぜ!」
「俺だって!」
部下たちも銃を捨てて親分に続いた。
「……
父はハインリーケの
「
警官たちは、
「父上」
ハインリーケは赤くなった目を
「連中は悪人ではない。怪異に土地と家族を奪われた者たちじゃ。罪を
「ああ、うちで
父は微笑んで頷いた。
「ひ、姫さん?」
このやり取りを聞き、
ハインリーケは父から
「必ず、わらわの許に来い。よいな?」
「あ、ああ」
「それと」
がっ!
ハインリーケはいきなり、親分の
「済まぬな。わらわは誓ったのじゃ。必ず痛い目に
「……ひ、ひでえ」
親分は
「父上、手が痛い」
ハインリーケは親分を
指の付け根の部分が、ちょっとだけ赤くなっていた。
* * *
「こうして、わらわは見事に
ハインリーケは話を終えた。
「
那佳が感想を口にする前に、アドリアーナが
「この話、そなたに聞かせたことはないであろう?」
ハインリーケはぷいと顔を
「何度も聞かされたのは僕ですよ。正確には二十三回」
と、右手を上げたのはイザベル。
「いい話じゃないですか」
「異動してきて二日目で、ウィトゲンシュタイン
イザベルが体をひねり、
「ああ、
アドリアーナは
「
こちらはいい気分で話していたのに、台無しにされたと言いたげなハインリーケ。
「美しい
アドリアーナはウインクを返す。
と、そこに。
外の方でクラクションのような音がした。
「ん? あの音は?」
ハインリーケが
那佳も何かなあ、と後に続いた。
すると。
「姫様〜っ!」
ちょうど、グレーに
運転席から半分身を乗り出し、ハインリーケに手を
「ご領主様から、今週の差し入れですぜ!」
「あれって、大尉のお
那佳は男の方を指さし、ハインリーケに
「そのようなものじゃ」
ハインリーケはトラックのところまで行くと、運転席の男に声をかける。
「毎回毎回、お主が来ることもなかろうに?」
「いえ、姫様のご尊顔を拝見できる機会を
少しばかり年はとったが、実はこの男、あの野盗の親分である。
今は領地のワイン畑の管理者となっているのだ。
「赤か?」
トラックの
「良い出来ですぜ」
男はニッと笑った。
「わらわはあまり赤を
ハインリーケはわずかに
「仕方がない。整備班に振る
これを聞いて、わらわらと集まってきてトラックを遠巻きにしていた整備班員たちが
「他の荷は?」
舞い上がる整備班をそのままにしておいて、ハインリーケは男に訊ねる。
「ご注文通り、ワグナーのオペラのレコードに、社会学に美術史の本、ケルン水に
男はリストで
「全部、
「そうじゃな」
ハインリーケはちょっと考え込む。
「カールスラントらしい
「バームクーヘンとか?」
ちょっと考え込んで、元
「それ、扶桑にもありますよ! わざわざ、ユーハイムってお菓子職人さんが昔、扶桑に来て作り方を広めてくれたんですって」
と、那佳。
「……別の物にしろ」
扶桑にあるものでは、ハインリーケにとっては意味がないようである。
「へえ」
男はまた考え、今度は別のアイデアを出す。
「それじゃ、シュトレンで」
「よかろう」
ハインリーケは満面の
荷を降ろし終わったトラックが帰ってゆくと、那佳はハインリーケを
「な、何じゃ気味が悪い?」
ハインリーケは顔を
「大尉って」
那佳はハインリーケの顔に自分の顔を近づけた。
「ほんとに慕われているんですね?」
「あ、当たり前じゃ!」
急に
「ねねね! 今度、アンミツとシュトレンでお菓子対決しましょうよ?」
那佳は提案する。
「相手にならんわ。カールスラントのシュトレンは世界、いや、宇宙一じゃからの」
鼻先で笑い飛ばすハインリーケ。
すると。
「お菓子なら、ベルギカのチョコが王様」
「何を言ってるんだ。我が国が
なんと、イザベルとアドリアーナまでが参戦してきた。
実際にこの対決が実現するのは、まだまだ先の話なのだが──。
この時、
* * *
あの……ええっと、よく分かりません。ごめんなさい。
サーニャ・V・リトヴャク
(506JFW設立についてのコメントを「タイムズ」紙の特派員に求められて)
* * *
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