CHAPTER2 回想の姫君
第二章「回想の姫君」 第一話
ガリア北方、ベルギカ国境に近いアルデンヌ県セダン。
この深い森に
506JFWは、A、B二つに
A部隊を構成するのは、本来の設立目的に
Bのメンバーは戦力不足を補うためにリベリオンから送り込まれた、ほとんどが貴族ではないウィッチたちである。東の空からゆっくりと
「ですから、アンコと寒天の
新入りの那佳はここ何日か、ハインリーケとの
「そのアンミツと
興味がなさそうに
ハインリーケはナイト・ウィッチ。夜間
ハインリーケがスペックと言ったのは、アンミツのレシピのことのようだ。
「だが、それが美味だというのが信じられぬと言っておる。特にそのアンナだか、アントニオだか──」
「アンコのこと?」
那佳はビーンズ・ペーストとでも説明した方がよかったかな、と
「そう、そのアンコとやら。ブリタニアの
ハインリーケは表情を
戦闘隊長拝命の直前、ロザリーとたまたま
異論もあるが、カールスラント料理と並んで、世界中から
もっとも、ブリタニア人に言わせれば、カールスラント名物のカリーブルストやアイスバインなぞ、料理の名にも値しないところだろう。
「あれはグリーンピースだから、ウグイス
那佳は
ウグイス餡の団子は確かに
「小豆とな?」
小豆はどうやら、ハインリーケの
「うん。ちょっと
「キドニービーンズのようなものか?」
「近い! けど、ちょっと違う」
那佳は身を乗り出し、パチンと指を鳴らした。キドニービーンズの方が、豆が大きめ。
アンミツよりも
甘納豆のあのジョリジョリした砂糖の食感も、那佳が愛して
「……いよいよ分からぬ」
ハインリーケは
「とにかく。私はそういうのが好きなんですよ。小さい頃から食べてたし」
口の中で
「で、大尉の好きなお菓子って何ですか?」
「いきなり聞くのう」
「……ふむ。改めて
「うわ〜、信じられない!」
那佳はまるで、軽犯罪で死刑を
「それって、好きな時に好きなだけお菓子を食べられる人の発言ですよ。パンがなければ、お菓子を食べればいいって言ったの、大尉じゃないんですか?」
那佳はマリー・アントワネットの姿をしたハインリーケの姿を、心
やれと言っても、絶対にやらないだろうが。
「ガリアの
庶民という言葉さえ、人生でそう何度も口にしたことがなさそうな顔でハインリーケは胸を張る。
「……
「仕方がない。わらわが幼少の頃、いかに庶民に
ハインリーケがそう言った
グレン・ミラー・バンドの『ムーンライト・セレナーデ』が休憩室に
「そこ、ラジオがうるさい!」
キッと
「
イザベルは、全く悪気はないといった様子だ。
「……バーガンデール
ハインリーケは
「あれはまだ、わらわがストライカーユニットを身につけることもできなかった幼少の
* * *
どこまでも続く針葉樹の深い森。
「軍は八歳でもまとえるストライカーユニットの開発を急ぐべきじゃ」
幼いハインリーケは馬車に
「
ウィトゲンシュタイン家に仕えて七十余年。
「現代の科学技術を
「仰せの通りで」
「さすればわらわは、すぐにでも今世間を騒がしている
後にネウロイと呼ばれることになる存在は、まだこの
「仰せの通りで」
「ウィトゲンシュタイン家が独自に開発するのはどうであろうな?」
「仰せの通りで」
「……父上は、どうして分かってくれぬかのう?」
ハインリーケは、昨日の夕食の席での会話を思い出す。
午後8時。
18世紀に
ハインリーケは父と母、三人で夕食を取っていた。
古い習慣から、客人がいない時でも、十二人
ウィトゲンシュタイン家のシェフはガリア人なので、他のカールスラント貴族の屋敷と比べると、かなりヴァリエーションに富んだ料理が常々供されている。
「わらわは
パンを千切りながらハインリーケが
「
「ええ、悲しいことですけれど」
自分のナプキンでハインリーケの
「じゃが、わらわの八歳の時代はあと……」
八月十四日生まれのハインリーケは指折り数えた。
「十か月と九日で終わってしまう。八歳で
「ハインリーケ」
父はワイン・グラスをテーブルに置いた。
「
「弱き者を守るために、貴族は戦う」
物心がついた
「個人の
「うう」
そう
「付け合わせの野菜を残してはいけませんよ」
「うう」
母の命令は、ハインリーケにとってはさらに
「……
「仰せの通りで」
馬車はウィトゲンシュタイン家の領内にある村のひとつに向かっていた。
村のハンナおばさんが焼くシュトレン──ドライフルーツとスパイスをふんだんに使った焼き
ハンナのシュトレンは、
「早く着かぬと、わらわの分までもが売れてしまう」
自分の足で走った方がまだ速い馬車の動きに、ハインリーケは
「仰せの通りで」
答えた御者はいっこうに馬車を急がせる気配はない。
「楽しみじゃのう、シュトレン」
ハインリーケは
やがて──。
* * *
「ちょ、ちょ〜っと待って!」
話の
「さっき、菓子類にこだわったことがないって言いませんでしたか?」
「お主も細かいのう。今は幼き頃の話をしている。もはや時効じゃ」
「そんなのってズルい!」
なおも
「続きを聞きとうないのか?」
「……ひひはふ(聞きます)」
那佳は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます