インターミッション
「やっと見つかった〜!」
おやつとして持ってきたマカロンを食べ
「お
マカロンの
「ありがとう! これ、お願いします!」
ストライカーユニットを預けた那佳は格納庫に入って、あたりを
「あの〜、ここって506JFWの基地でいいんですよね?」
「そうだよ」
「今度、この基地に配属になった黒田那佳中尉です! どうぞよろしく!」
那佳は背筋を
「え、新人さん? 聞いてないよ」
少女は目を丸くして、隊長
「もしかして、隊長のサプライズかな?」
「サプライズはないと思いますよ。
そう言いながら近寄ってきたのは、
「じゃあ、ジェニファー聞いてる?」
金髪の方がブラウンの髪に訊ねた。
「いいえ」
ジェニファーと呼ばれた少女は
「初めまして。ジェニファー・J・デ・ブランク大尉です」
「こ、これはどうもご
那佳は差し出された手をぎこちなく握り返した。
「私はカーラ・J・ルクシック。中尉だよ」
最初の金髪の少女が、ニッと白い歯を見せて名乗る。
と、そこに。
心ここにあらずといった表情のダークブラウンの髪の少女が、理知的で
「ども!」
那佳は二人にもペコリと頭を下げる。
「隊員の増強があるという知らせは来ていないんだが……ま、いいか」
ダークブラウンの髪のウィッチが肩をすくめた。
「私はジーナ・プレディ
「よろしく。マリアンでいい」
マリアンはグッと力いっぱい手を握る。
「こちらこそ」
と、那佳も負けずに
「この二人とは自己
ジーナはジェニファーたちを
「念のため、
ジーナは頭を
数分後。
「やっぱり、そういうことですか?」
ジーナは受話器を握ったまま、ああという感じで軽く
『よかった、見つかって。
「黒田中尉にこちらの
ジーナはすぐにロザリーの意図を読み取った。セダンのA部隊とここディジョンのB部隊。二つは同じ506でありながら、関係は良好とは言えない。ロザリーはあわよくば那佳を
『うまくいくかもと思っちゃうのは楽観的すぎるかしら?』
「私も黒田中尉には興味があります。引き受けましょう」
『ありがとう、助かるわ』
電話が切れると、ジーナは那佳と
「黒田中尉」
ジーナはミルクティーのカップを手にくつろいでいる那佳に声をかける。
「念のために確認を取った。君の
「勘……違いって?」
那佳はきょとんとした顔になる。
「君が配属されたのはセダン。このディジョンではない」
「え〜っ! だって、ここ506JFWの──」
「第506統合戦闘航空団にはA部隊とB部隊がある。このディジョンはB部隊の基地。君は本来、Aに向かうはずだった」
「貴族様か」
今まで
「そっか〜」
那佳はここに来る
「まさか、同じ部隊が二つあるなんて」
「同じじゃないよ」
カーラが頭を振る。
「あっちは
「お
マリアンが、今まで那佳と打ち解けようとしていたのを
だが。
「あははははははっ、まっさか〜!」
「お前──」
那佳が笑い飛ばしたので、マリアンは
「貴族っていったって、名前だけ。
那佳は頭を搔く。
「調子が
クスリと笑ったジェニファーが、マリアンの顔を
「……ふん」
マリアンはそっぽを向いた。
「まあ、長旅の疲れもあるだろうから、二、三日休んでからあっちに向かうといい」
ジーナが那佳に告げる。
「ありがとうございます! 喜んでそうさせてもらいます!」
那佳はお
「その間、いろいろ教えてね」
「おっおう、任せとけ〜」
カーラがドンと自分の胸を
「はい」
と、ジェニファー。
「ふん」
マリアンはもう一度そっぽを向いた。
30分後。
「あ、あのさ〜。何をうろうろしてるんだ?」
格納庫のハンガー付近でうろうろしていた那佳を見つけ、カーラが声をかけた。
「何かお手伝いしようかな〜って」
那佳は答える。
「お給料
「働かないで給料もらえたら、そっちの方が良くないか?」
カーラは不思議そうに首を
「なんか、そういうの
那佳は
「職人
「ほんと、貴族っぽくないよなあ」
カーラは
「おいし!」
一口それを飲んだ那佳は目を丸くする。
「ソーダ水っぽいけど、もっと
「そ、そうか!?」
まるで自分が
「こっちに来いって!」
「っとととと!」
カーラは那佳の手を取って控室に向かった。
「わ、私まで」
カードを配られたジェニファーは
控室では、那佳とカーラにジェニファーを加えた三人でポーカー大会が始まったのだ。
「二人じゃ盛り上がらないだろ? マリンコはあの調子だし」
カーラは自分の手札をにらみ、チップを何枚出そうか
三人から少し
「ほんとにマリアンさん、貴族が
那佳は声を
「ど、どうでしょう? 向こうの方たちとはあんまりお話する機会はなくって」
人の悪口には
「それじゃ、嫌な人たちかどうかなんて、分からないじゃないですか?」
那佳はハートのAを残し、他四枚をすべて取り替えた。
「うちの
「……黒田さんって
ジェニファーはそう
「分かってる」
雑誌に熱心に目を通す振りをしていたマリアンは、わざとらしく背中を向けた。
「……けど、貴族は貴族。受け入れられるほど、人間が出来ちゃいないんだろうな」
「マリアン……」
ジェニファーの声が
と、その時。
「あ!」
那佳が重い空気を振り
「私、勝ったかも!」
来たカードのうち、最初の二枚はクラブの4とダイヤの6。だが、残りはスペードのAとダイヤのAだった。
「ねねね、これ勝ち? 勝ちだよね!?」
那佳は興奮してみんなにスリーカードとなった手札を見せる。
「相手に見せてどうすんだよ」
「……おります」
こうして。
那佳はビギナーズ・ラック、
二日後。
ストライカーユニットの整備も終わってセダンに旅立つ那佳をB部隊のウィッチたちは見送りに出ていた。
とはいえ。
「ウィトゲンシュタイン
マリアンは相変わらず素っ気ない。
「うん。ありがとう!」
マリアンは答えずにそっぽを向くと、早く行けと言うように手を振った。
「ごめんね、あんな態度だけど──」
代わりに謝るのはやっぱりジェニファーだ。
「
「じゃあ、私はどうなるんだよ?」
愛想がいいにも
「カーラはカーラ。表裏ないでしょ?」
「黒田
カーラは思わず那佳に
「中尉の一存でそんなことができる訳ないでしょう?」
ジェニファーがため息を
「……これ、
カーラはカンバス地の
「コーラ、こんなに」
中を覗いた那佳は息を
こうして、黒田那佳は本来の所属部隊の基地であるセダンに旅立った。
そして。
ジェニファーの足元には、コーラのバッグを
──この後、那佳が忘れ物に気がつき、すぐにディジョンに引き返してB部隊の一同を
しばらくして。
「来るのは今日でしたね」
A部隊所属のベルギカ貴族ウィッチ、イザベル・デュ・モンソオ・ド・バーガンデールは、先ほどから時計と南東の空を
「使い者にならないようなら、Bに追い返せばよい」
長い
「返品ですか?」
イザベルは振り返る。
「おそらく、そうなろうな。何しろ基地を
やがて。
空にポツリと那佳の姿が見えてきた。
ハインリーケは着陸してくる那佳の前に歩み出る。
「黒田中尉じゃな」
ハインリーケはゆっくりと自分の方に近づいてくる那佳に声をかけた。
「あ、はい! 黒田那佳、扶桑陸軍中尉でありま……す!」
停止直前で敬礼しようとしたものだから、那佳はつんのめってひっくり返りそうになった。
(こ、こやつ、わらわを
その様子を見て、ハインリーケの顔に不快そうな表情が
「ハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン。カールスラント空軍大尉。506の
ハインリーケは
(この人があの?)
と、那佳の目が丸くなる。
ハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン。
一度、いや、十回聞いても那佳には覚えられそうにない名前である。
(プリンさんとか、プリン大尉って略したら、絶対
那佳は
「ウィトゲンシュタインでよい。こちらだ、グリュンネ
ハインリーケはロザリーの
「……戦闘隊長さんがわざわざお
ふと、気になって那佳は聞いた。
「基地を間違えて
ハインリーケはそう言ってしまってから、
だが。
「申し訳ありません!」
那佳はただ頭を下げた。本当に悪かったと思ったのが半分、
減俸処分は、
あいにく、今まで死刑になった経験はなかったが。
「ほんとに言い訳のしようもなくって、ごめんなさい!」
だが、こうした態度もハインリーケの目には上官に
「……この
小さく
(やっぱり、マリアンさんが言ってた通りの人なのかな?)
(でも! これから同じ隊でやってく仲間だもん、絶対に仲良くなってみせるよ! これもお給料のうちだもんね!)
那佳はグッと
だが──。
那佳はやがて、嫌というほど思い知ることになるのだった。
* * *
ウィトゲンシュタイン家領内在住の
* * *
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