第一章「私が華族のお嬢様?」 第二話
そうこうしているうちに、ようやく三人は黒田
門の
本家にはこうした警備の者が、他にも何人かいるらしい。
父が
「どもども〜」
那佳が手を振って男たちに
門から
那佳はその敷石を、
「ごめんくださ〜い!」
玄関で那佳が声を張り上げると、扶桑家屋には
欧州ではちょくちょく見かけたけれど、家令とか
「黒田那佳
「父さん、結構
年末年始の挨拶は
「あ、ああ」
父は胸ポケットのハンカチでこめかみの汗を押さえた。
「お見えです」
立ち止まった燕尾服の男が
八十
那佳と大して歳の変わらない少女もいて、那佳にあまり好意的とは言えない視線を向けている。
父よりもいくつか年上に、那佳の目には映った。
「ども」
(意地でも
那佳は胸の内で自分にそう言い聞かせ、口髭の男の前に出る。
「皇国陸軍飛行第33戦隊、黒田那佳中尉か?」
口髭の男が那佳に
「そうです」
「私は当主の名代である」
口髭の男は
「はあ」
那佳は
(当主の人ってじっちゃんと同い年のはずだから、この人は
「当家に呼ばれた理由は分かるか?」
「いえ、全然」
口髭の男が続けて訊ねるので、那佳は首を横に
「本日を
「ええ!?」
那佳は
驚き過ぎて、使い
「第506統合、統合航空
口髭の男は
「第506統合戦闘航空団?」
助け船を出す那佳。
「そう」
口髭の男はかすかに赤面し、
「その何とか団に扶桑皇国から人材を
「でも──」
「話してよいと言った覚えはない」
自分は何も聞いていないと反論しようとする那佳を、口髭の男は
「そもそも分家にウィッチが出た時点で、養子
(さっきから私を
那佳はチラリとそちらの方に目をやった。
お
周囲に期待されて、それに
那佳は本家の
「那佳、お前は黒田侯爵家本家の娘として、ノーブル・ウィッチーズに入るのだ」
「ノーブル・ウィッチーズ?」
「パリ防衛のために貴族の娘だけで構成される新部隊だそうだ」
貴族の
新設部隊の
(私が華族だなんて、絶対おかしいって!)
「本家の体面のために、この子を養子にするんですか?」
母が那佳を守ろうとするかのように前に出る。
「たとえ名目だけでも本家の娘となれば、分家の子に甘んずるよりどれほど幸福か」
口髭の男は
「それが分からぬほど、
「…………」
母は
「それとも
「……いいよ、別に」
那佳は口髭の男を見つめながら、母の手を
「養子っていうのは名前だけ。そうなんでしょ?」
「無論だ」
「この屋敷に住むだの、財産の
(
一言どころか、十言も二十言も言い返してやりたいが、両親に
「では、お
口髭の男は立ち上がった。
「お前が黒田の名に
「って、どうやって?」
そう振られても、
「ほんの少しでよろしいのです。ストライカーユニットを使ってのデモンストレーションを」
親族一同の好意的とは言えない視線に
「でも、ストライカーユニットが──」
「ここに用意してある」
口髭の男は障子を開けた。
その向こうは中庭──といってもちょっとした公園よりはよほど広い──になっていて、その真ん中、
「あれって三式
那佳の目が丸くなる。
「黒田の財力を甘く見ないことだ」
口髭の男が鼻を鳴らした。
「皇国のストライカー開発に、我が黒田
(
自分が戦うのはじっちゃんやばっちゃん、父さんや母さんに楽をさせるため。
それでも、何とか
三式戦闘脚Ⅰ型丙は、練習機として使われている
(整備とか、
チラリと広間を振り返ると、不安そうな父と母の姿が目に飛び込んできたので、那佳は安心させるように笑顔で手を振った。
「さてと」
ハンガーの支柱に手をかけた那佳は、ストライカーユニットに飛び乗った。
両足がユニットにすっぽりと収まると、光の
だが。
「え?」
飛び立とうとした
那佳の体は
(
(
親族の
「那佳!」
(父さんのあの声。ちっちゃい
「……ぶはっ!」
那佳は顔を芝生から引き
「大丈夫」
「お
「ありがと……ええっと、
「家令でございます」
那佳が礼を言うと、家令はほんの少し、親族連中に見えないように笑みを返した。
やはり、この人だけは那佳を
「何が起こったんだい?」
父が、那佳の顔を
「何でもないよ。左右のユニットの出力が思ってたより
肩をすくめる那佳。
だが。
整備不良ぐらいでこれだけ
誰かが、那佳に
(誰の
自分を
(まず
だが、だが、スパナを握ったことなどないようなあの子自身では、ストライカーユニットに細工をするのは
「あのような無様な
「とんだ
「
「大丈夫なのでしょうなあ? 分家の娘に家名を
娘だけではない。
いい年をした大人の
(この人たち、みんなこういうのが見たかったんだ。まあ、いいけどね)
那佳は胸と顔についた
「今のは無しね。これからが本番」
風が芝生の切れ
(悪いけど、もうあなたたちを喜ばせないから)
さっきは不意を
だが、左右の出力の差がどれくらいか、実際に体が覚えてしまえば那佳にとっては何ということもない。
片
(そうだよ。あの時はもっと──)
那佳の
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