CHAPTER1 私が華族のお嬢様?
第一章「私が華族のお嬢様?」 第一話
数か月来の
「帰ってきたんだ」
身長158センチと
佐世保は
軍港の歴史も、
「ウィッチさん、
母親に手を引かれた
(いいなあ、こういうの)
「
那佳はしゃがみ、男の子の頭を
「うん!」
子供と母親が手を振って去っていくと、那佳は通りを
「ええっと、時間はっと」
時計を
約束の時間まで、まだ17分ほどある。
だが。
「あ、いた」
那佳の
「ただいま、父さん、母さん」
道路を
「無事で何よりです」
父がうなずき返した。
「お帰り」
母は那佳に飛びつくと、ギュッとその小さな体を
「わわわっ! 母さん、泣かないでよ!」
真っ赤になる那佳。
通りすがりの人たちが、そんな三人の様子を見て必死に笑いを
「おじいさんもおばあさんも、お前を
父が目を細め、さっき那佳が男の子にしてやったのと同じように那佳の頭を撫でた。欧州での那佳の
那佳としては、ちょっとくすぐったい感じだ。
「ほ、ほら! じっちゃんとばっちゃんを待たせたらいけないでしょ!」
那佳はようやく、母を引き離すことに成功した。
欧州でストライカーユニットをまとって空から見下ろす山々と、のんびり走るバスの中から見る九州の山並みは、やはり違う。
(扶桑の山ってこんもりしてて、
「なんです、お
そう母に
ばっちゃんの手作りで、父が竹の皮に包んで持ってきてくれたのだ。
「家に帰ってからでも食べられるでしょうに」
それはそうだが、バスで
それに父は、ちゃんと
バスと鉄道を乗り
「それで? どこか寄りたいところがあるんじゃないかな?」
駅の改札を出たところで、父が思わせぶりな視線を那佳に送った。
「アンミツ屋さん! 学校のちかくにあった『
《つぶ》れないで残ってるかな?」
那佳は笑顔を返す。
「まだ甘いものを?」
母は
『美よし』は那佳の通っていた小学校から歩いて5分ほどの商店街にある、ちょっと
かなり
ガラガラと引き戸を開けると、中は
「おっばさん!」
暖簾を
「……おんや。黒田のじゃじゃ馬かい? 生きてたとはねえ」
「生きてた生きてた〜。おばさんも元気そうだね?」
昔から変わらない
「元気なもんかね。中風が来とるし、景気ゃ悪いし、配給も
おばさんは那佳を
だが、たとえ時間を半世紀
「で、アンミツかえ?」
立ち上がったおばさんは調理場へ向かう。
「うん! 今日は父さんと母さんが
那佳は昔よく友達と
「那佳、父さんと母さんは二人前はちょっと」
那佳の前に座りながら、父は母と顔を見合わせる。
「
那佳は吹き出した。
「親子で来るとはねえ」
おばさんは、ビール会社の名前が入ったお冷やのコップを三人の前に置く。
「ど、どうも
父が身を縮ませて目をそらすと、おばさんはその横顔を見て指折り数え始めた。
「十八、いや十九年
母が真っ赤になって顔を
「え、何? 父さんと母さん、『美よし』に来たことあったの?」
大きく見開いた那佳の目が、両親を
「二人とも校則
おばさんが入れ歯を見せて笑った。
「ら、らんでぶ〜だなんて」
母が教育に悪いとばかりに、顔を伏せたまま
「そ、その話はもういいですから」
父もだいぶ
「今度ぁひとりで来な。
おばさんは那佳に目配せすると、奥の調理場に引っ込んでいった。
「ああっと、
父は一気にお冷やを飲み干すと、話題を変えた。
「ええと、辞令はまだだけど、新しい隊に配属になるみたいなんだよね。それで、いったんこっちに帰れるってことになって」
何でも貴族──扶桑では
とはいえ、那佳の家は
今の黒田家の当主と那佳の祖父は、
そんな自分が急に華族
それに、貴族の部隊というからには特別手当が出るんじゃないかと、那佳は勝手に思ってもいたのだ。
「ほらよ」
おばさんがアンミツを六つ、テーブルに並べた。
「たまぁに戦地から帰ってきたんだ。今日は
「わ〜い!」
那佳は手をパチパチと
「そ、そんな訳には」
「あたしに
おばさんは結構
「いえ、お言葉に甘えさせていただきます」
父は立ち上がり、直立不動の姿勢を取った。
那佳はすでに、
翌日。
那佳は両親とともに黒田
「昨日はばっちゃん手作りの『がね』も食べたし! 長旅の
「那佳は『がね』が本当に好きなんだね」
と、背広姿の父。
『がね』というのは、サツマイモとカボチャを使ったかき
がねとは宮崎では本来、
もちろん、
もう冬の初めだが、それでもこのあたりは
向こうの気温に慣れた体は、
「本家までってずいぶんあるよね」
駅から歩き始めて、もう30分ほどになる。
弁当の入ったバスケットでもあれば、ちょっとしたピクニックなのだが。
「
父は笑って頭を
「さっきから見えているのに」
と、目を細めて小径の先を見上げる訪問着姿の母。
だが、それを言うなら帝都の富士見坂からでも富士山は見える。
「本家は見えてからが遠いんだよ。父さんのスクーターで来ればよかったのに」
那佳はそう言ったものの、実は父のスクーターは年代物であまり当てにはできない。
それでも、那佳が小さかった時には、よく父の後ろに乗っかって、
「三人乗りは無理よ」
父のスクーターをあまり
「それに那佳、今日は振り袖じゃないか?」
父も那佳を指さして
「う〜、そうだった」
那佳は
「……でもさ。本家が私なんかに何の用だろ?」
「那佳が帰国する半月ほど前かな。当主様から帰国し
父はネクタイを直し、
「まあ、那佳は世界のためにネウロイと戦っているからね。お
「分家の分際で目立つことはするなって、お
「君は悪い方に考え過ぎだよ」
父は笑うが、那佳もあまり本家にいい印象はない。
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