第2話 ちょっとマズいそれはヤメて!

 旅は順調だ。

 さすが力の強い魔剣って言われてるだけあって、この半年で結構たくさんの魔物を倒してきたけどおれは怪我どころか攻撃を受けたこともない。


 今まで特に運動とかしてこなかったおれがどうしてそんな強いのかって言うと。


『さぁ、リックぅ。今日もたくさんヤるわよぉ?』


 コイツのせい、いや、おかげなんだけど。

 サーヤはおれの性よk、いや、精神力を自身の力にしている。敵にサーヤをかざすと、貯めていた力を発揮して敵はまさに蒸発、ってな具合だ。

 それはおれの精神力が高い、ということなんだけど。


 サーヤに精神力を与える手段が、だな。

 夢の中で擬人化したコイツと……。


『昨夜もいっぱいシたしぃ。サーヤ、今日もガンガンイケるわよぉ』

「そういうことを外で言うなっ!」

『恥ずかしがってるのォ? きゃははは。あんなコトしておいてそれはナイわぁ』

「だぁから言うなっての!」

『イヤァン、怒んないでよぉ。夢の中では優しくしてくれてるじゃなぁい。昨夜なんてアタシの言うとおり、体中くまなく愛撫してくれたでしょ。もう思い出しただけでジュンってなっちゃうわぁ』


 ふぉぉ! やめろバカ!


「好きでヤってると思うなよ! おまえの言う通りにしないと一晩中されて立たなくなるまで抜かれるからじゃねーかっ!」


 なにせこいつは淫魔。男を悦ばせるすべなんていくらでも知ってます的な攻めで物理的な拘束がなくても抵抗なんてできるわけがない。

 指が体をなぞり、舐められしゃぶられ甘噛みされるだけでごっそり持っていかれる。さらにこいつの中に入ろうものなら――。


 ……あっ、ヤバっ。思い出したらゾクゾクして股間がジュンって……。


『ウフフ、まだ昼間なのにリックーったらぁ。それで好きじゃないなんて言わせないわよぉ?』


 くっ、悔しいがまともに反論できない。


「うるっさい。もうすぐ村に着くから、おまえは黙ってろよ!」


 コイツの声がだだもれになったら、おれは途端にエロ勇者とか言われちまう。まぁ、エロいのは認めざるを得ないかもしれないけど、わざわざそんな風評を広めたくない。


『はいはーい。複雑なオトコゴコロなのねぇ』


 サーヤはそれっきり黙ってくれたから、ほっと一安心だ。


 もう一つ安心なのは、シャイネがおれとサーヤの会話の内容を理解できていない、ということだ。

 サーヤの仕組みについては、おれが寝ている間にサーヤがおれの精神力、ゲームっぽく言うとMPをもらってる、ぐらいに認識しているっぽい。

 まさかまさか、夢の中とはいえあんなコトやそんなコトをしているとは思ってないみたいだ。


「次の大きめの街まではまだ少しあるから、今夜はこの村で泊まらせてもらうんだっけ」

「はい。リク様がお強いとはいえ、さすがに夜に移動するのは危険ですし」


 シャイネがしっかりと行程を考えてくれているおかげで、おれは余計なことを考えなくていい。

 おしとやかで美人で頼りがいもある。一緒にいるのがシャイネでよかった。


 そんなことを考えながら歩いてると、村の方から小さな男の子が二人、走ってきた。


「わぁ、本当に勇者様が来た!」

「それが魔剣? すごーい! 見せて見せて!」

「魔物たくさんやっつけてるんだよね。カッコイイ!」


 うるさいぞおれは見世物じゃない、……って、おれ、尊敬されてる? 子供にこんなふうにきらきらした目で見られるの、人生初かも。


「こら、二人とも! 勇者様は魔物と戦ってお疲れだから邪魔しちゃだめよ」


 子供達の後を追いかけて、母親かな? 女の人が小走りで来た。

 怖そうだけど、優しそうで、ちょっと母さんに似てるかも。


 そういや、おれが急にいなくなって元の世界じゃどんなふうに扱われてるんだろ。昼寝の最中だったから、学校から帰った痕跡があるのに姿が見えない、ってことで、事件に巻き込まれたとかになってるのかな。

 もう、帰れない……、んだろうな。こういうパターンって。


「さぁさ、勇者様、お食事の用意ができていますよ。狭いところですがゆっくりと休憩なさってくださいね」


 母さんに似ている、子供達の母親の言葉に甘えることにした。




 この世界、アイズライルは不思議だ。

 文化は中世よりちょっと近世に近いぐらいかな。けど魔法がいろいろあって現代日本より便利なところもある。


 移動に関しては、なにせ中世レベルだから乗馬か馬車か徒歩。だから魔王が拠点にしている最果て山脈までここからさらに半年かかる。

 情報伝達の魔法はあるのに、移動の魔法はないらしい。

 おれが勇者だってのがこんな小さな村にまで伝わってるのは、世界レベルで「おふれ」が出たからなんだって。


 そんなことをおっかさん――子供達の母親を心の中でこう呼ぶことにした――が教えてくれた。


 召喚の儀式があるなら移動の魔法も使えそうなもんなのに、ヘンだよな。魔王んとこまで送ってくれたらいいのに。


 それじゃ寝るかってなったときに、この家の二人の子供達が名残惜しそうにじゃれついてきた。


「ねぇねぇ! 勇者様ってすごく強いんだよね」

「魔王をやっつけて世界を平和にしてね。そうしたらお父ちゃんもお母ちゃんも安心するから」

「ぼく、勇者様みたいな強くてかっこいい男になるんだ!」

「戻ってきたら剣、教えてね」


 ちょっとウルサイけど、悪い気はしない。

 おれ、今までずっと「一番下」だったから新鮮だ。学年が上がって「先輩」の立場になっても、リーダー格は他のヤツだったから。

 小さいから子供だから弟だから、って、理不尽なこともあったけど、得なこともけっこうあったと思う。


 この旅が終わったら、か。

 ここに残らないといけないとすると、きっちりと職について、いい人見つけて結婚して子供作って、ってことになるのかな。

 その、いい人ってのがシャイネみたいな人なら嬉しいんだけど。


「先ほど村の方に聞いたのですが、次の街までの間でたくさんの魔物が出る箇所があるそうです。最近行動が活発になってきたとか。明日は戦闘があるでしょうから今夜はぐっすりとお休みください」


 部屋に引っ込む前にシャイネが教えてくれた。やっぱり頼りになる。


『それじゃあ、今夜は頑張らないとね、リックぅ』


 うわっ、びっくりした。すがすがしい気持ちが吹き飛ぶからおまえもうずっと黙ってろよ。


『むぅっ、かわいくなぁい。そんな子にはおしおきよ』


 何する気だよ!

 ちょっと寝たくないかも。恐々ベッドに寝そべって、でもすぐにおれは夢の中。


『リク様』


 えっ? シャイネ?


『さぁ、始めましょうリク様』


 いや違う、サーヤだ。シャイネが化けてるんだっ。


「おいちょっと冗談キツいぞ。元の姿に戻れよっ」

『お慕い申しております、リク様』


 シャイネが、違う! サーヤがしなだれかかってきた。うるんだ瞳、形のいい唇。ローブを通して感じる柔らかい体、いつものサーヤと違う清楚な笑み。

 ごくりと唾を飲む。


 けど駄目だろっ。これ受け入れると明日からシャイネをまともに見られないっ!

 サーヤが首に腕を絡めてキスしてきた。はじめは軽く、おれの反応を確かめるように一度離れてまた笑って、今度は深く口づけられた。

 これだけでおれの理性は半壊だ。


『魔物を倒すためです、リク様』


 ……もう、ダメだ!

 あぁそうだよ魔物を倒すため仕方なくだよチクショー!

 おれはシャイネサーヤを押し倒した。ローブをはぎ取り、あらわになった胸に顔をうずめる。

 本人には絶対にできないコトをしてやった。


 快楽に歪むシャイネの煽情的な表情かおに、さらに興奮する。

 これは夢だ。夢の中だからいいんだ!

 自分に言い聞かせながらシャイネに欲情をたたきこんだ。




 そのツケは大きかった。

 なぜか村の人達がよそよそしい、なんかヒソヒソされてる。昨日まで尊敬のまなざしで寄ってきていた子供達はおれに近づかないように親たちに押さえられてる。

 もしかして、バレた?


『疑われる前に言っておくけどアタシじゃないわよぉ? 寝言で自爆したんじゃなぁい?』


 マジか。


「朝食をいただいたらすぐに出発しましょうか、勇者様」


 さらにシャイネまで他人行儀だ。名前呼びじゃなくて勇者様になってるし、皮肉っぽい響きがあるし。


 これは、絶対にバレてる。誰だよ余計なことを言ったヤツは! そういう寝言を聞いても黙ってるのがオトナの思いやりってヤツだろ!


 次の街までの道中で話に聞いていた魔物たちを倒して到着すると、さらなる悲劇が。


「あっ、エロ勇者だ」

「あれが淫行勇者か、なるほどいやらしい感じだな」

「いくら魔物を倒すって言っても、ねぇ」


 ……恐るべし伝達魔法。


『でもこれで遠慮しなくてもよくなったじゃなぁい』


 喜ぶな元凶めっ!!

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