昼寝してたらエロ勇者にされた件

御剣ひかる

第1話 設定にひねりがないぞ三流め

 なんとなく学校に行って、なんとなく友達って呼べる連中とダベって、なんとなくご飯食って寝る。

 そんなおれの生活は、なんとなくな昼寝の間に音もないままに崩れ去った。




 気が付いたら、見たこともないような、それこそゲームやアニメが実写化したかってぐらいのファンタジックな建物の中に横になってた。


「おぉ、勇者様、よくぞ我が世界へ!」


 やっぱりファンタジーな服装の連中が、おれが寝かされてる台の周りで土下座してる。


 はぁ? 勇者?


 この景色、このカラフルな髪の色白で彫の深い顔の連中、どう見てもここはおれの部屋じゃないし、撮影セットとかじゃない限り日本でもない。

 思わずほっぺをつねってみた。痛い。

 まじ? これって、異世界転移ってヤツ?


「勇者様が驚かれるのも無理はありません」


 この場にいる一番の年寄りジィさんが、でっかい杖で床をゴンゴン鳴らしながらおれのそばに来た。

 ジィさん、神殿の長(おさ)とか言う人の話によると、この世界、アイズライルって名前らしい――は魔王軍の侵攻に悩まされていて、異世界から有能な若者を転移させてきて戦ってもらっているんだと。


 まんまじゃねぇか! そんなもん、世の中にあふれかえってるラノベでお腹いっぱいだっつーの。ってか設定にひねりがないぞ三流め!


「……勇者、ってったよな」

「はい。この剣を使えるという条件でさまざまな異世界に召喚魔法を施した結果、引っかかったのがあなた様でございます」


 引っかかったって、人を罠にかかった害虫みたいに言うなよ。

 ジィさんがうやうやしく出してきた剣は、なんか雰囲気からしてヤバい。なにがヤバいって説明できないけどとにかくヤバそう。


「さぁ、これを手に取り、魔王軍を蹴散らしてくだされ!」


 土下座したジィさんが掲げ持つ剣の周りで、他の連中も土下座した。


 害虫駆除シート的な勇者コイコイ召喚をあっちこっちの世界にばらまいたジィさんが差し出したアヤシげな剣。

 イヤすぎる。


 おれが手を伸ばさないでいると、連中は土下座スタイルのまま顔をちょっと上げて上目でおれを見てる。

 ひぃぃ。


 ずっとこのままはイヤだから剣を取った。すると、辺りが妖しいピンクの光に包まれた。

 どぎついピンクってなんだよ。こういう場合、神々しい白光とかじゃないのかよ。


『はあぁぁン! イイ! いぃわァあ! もっとぎゅっとシテぇ』


 ちょっ? 何このAV女優な声。


「おおぉ」「素晴らしい!」「あなたこそ勇者の中の勇者様!」


 ばっと輝く土下座マン達の恍惚とした顔。何がどうなってんだっ?


「あなた様はその剣にとても気に入られたのです」


 すっと立ち上がったのは若い女。ゲームとかだと神官って感じの白いローブを着た、薄い青のロングヘアの美人だ。


「はじめまして、勇者様。わたしはシャイネ。見ての通り神官です。勇者様と旅を共にすることになる者です。よろしくお願いいたします」


 カンペでもどこかに持ってるのかってぐらいスラスラ言ったその人、シャイネはおれのそばまでやってきた。

 こんな美人と旅ができるなら、異世界転移だか転生だかも、悪くないかもしれない。

 この剣はすごくアヤシイっぽいけど。




 神殿の別室でシャイネからいろいろと聞いた。

 魔王軍との戦いは、最前線の戦士達が頑張ってるらしいけど圧され気味だそうだ。

 そこで強力な魔剣と、それを扱える勇者に頼ろうとなったわけだ。


 この剣は、もともとこれだけでも充分強かった。けれど魔王相手には今一つ決定力に欠けるってことで力の強い英霊を宿そうとしたら、何をどう間違ったか力の強い淫魔が封じられた。

 普通なら大失敗作だろそれ、なんだけど、これがまた強いもんだから使えるんだと。

 けど、クセが強いから使い手はすごく選ばれるとか。まぁそりゃそうだわな。


「コイツに合う使い手の条件って?」

「わたしは詳しいことは判りませんが、よく寝る人、だそうです」


 その寝るはどの寝るなんだろうかと不安に思いつつ、確かにおれはよく昼寝するし夜も快眠だよなと納得することにした。


「コイツを以前使ってたヤツっているのか?」

「はい。ですがみなさん……」


 シャイネが目をそらした。

 魔王軍との戦いで命を落としたってことだな。じゃないとコレがここにあるわけがないし。


『みんなもうちょっと強いと思ったのにぃ。ちょっと吸い取ったらすぐに弱っちゃってぇ』


 なにこの不穏な付け足しっ!


『アタシ、サーヤよ。ヨロシクね。あなたならたっぷりヤっちゃっても大丈夫みたいだし楽しみぃ』


 サーヤとかちょっと清楚っぽい名前のくせして淫魔かよ。


「……おれは真鍋利久斗(まなべりくと)だ」


 サーヤにというよりシャイネに挨拶した。


「マナベリクト様ですね」

「苗字と名前をつなげて呼ばれるのもなあ。それじゃ、リクでいいや」


 ……母さんがそう呼んでた。

 リクくん、リクくんって、うっとーしーぐらいにかまってきて。

 おれがいなくなったことに気づいてんのかな。半狂乱になってないかな。


「リク様。……リク様?」

「あぁ、いや、何でもない」

『ママぁ、ぼくちゃんママと離れて寂しいですぅ、って心で泣いてるのよネェ。カァワイィい。そういうプレイが希望ならアタシがママンになってあげてもイィのよぉ?』

「うるせぇ! そんなんじゃねぇだろねつ造すんなこのビッチがぁ! 大体、親なんてガミガミうるさいから離れてせいせいするってもんだ」


 郷愁吹き飛ばすサーヤを思わずガンっと床にたたきつける。


「仲が良いのはよいことです」


 シャイネがくすくす笑ってる。これを仲いいとか、天然ちゃん? それとも変人ちゃん?

 すごく困難な旅になりそうな予感しかしない。

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