第4話
エクス達はイレイサを追い、村から少し離れた林の中に来ていた。
しばらく捜索したところ、イレイサは簡単に見つかった。
「あら見つかっちゃったみたいね」
特に慌てる様子もなく言いはなつイレイサ。
「今度は逃がさねぇ」
イレイサを前にして憎悪の感情を抑えきれなくなるタオ。
エクス達は導きの栞を空白の書に挟む。
「今度の子達は強いわよぉ?」
笑顔でヴィランを召喚するイレイサ。その言葉の直後に戦闘は開始された。
イレイサの言葉の通り、かなりの強さを誇るヴィラン。
エクス達は苦戦するも、タオのカオスヒーロー達だけは、そんな中でも押されている様子はない。
圧倒的な力でヴィランを倒していく。
少し時間はかかったものの、エクス達はヴィランを全滅させることに成功した。
だが戦闘が終わった直後、一瞬気が緩んだ時にその出来事は起きた。
「あなたは気づいていなかったのでしょうね。
例え空白の書でも、何か書き込まれたりした場合やあなたのように黒く塗りつぶされている場合は」
タオの後ろに回り込み耳元で囁くイレイサ。
「私の力の効力が及ぶようになるなんて」
振り返ろうとしたタオに触れるイレイサ。
その瞬間、タオは苦しそうな声をあげた。
「ぐぁああああああ」
タオは足元から姿が変化していった。その姿はヴィラン。
空白の書が黒く塗りつぶされたことにより、イレイサの力がタオに効くようになってしまっていたのだ。
肩から顎のあたりまで侵食され、体は完全にヴィランになってしまったところで侵食は止まった。
「タオ兄!!」
シェインが叫ぶ。既にタオの意識があるかどうかもわからない。
例えあったとしてもヴィランになってしまったタオはもう討伐の対象になってしまう。
涙目になりながらタオに呼び掛けるシェインに、エクスとレイナもどうすれば良いかわからず立ち尽くしてしまう。
「ふふっ……ふふふ」
堪えきれないという風に笑い出すイレイサ。
「あれほどの怒りの感情をむき出しにしていた者がヴィランもどきになったら、どれくらいの強さになっているのかしら」
エクスはイレイサを見つめ直し、相手がどうでるか伺っている。
タオがヴィランにされてしまった以上、迂闊なことは出来ない。
一度撤退して対策を練り直すことも視野に入れた作戦を考えていた。
「この子、いえこの人は好みのタイプだからずっと手元に置いておくことにするわ。
それにしても空白の書持ちだったヴィランなんて初めて。どのくらい強いのかしら」
タオの頭を撫でながら体を預けるイレイサ。
「タオ兄に触るなぁっ」
シェインが導きの栞を空白の書に挟んで、戦闘体制に入った直後だった。
ヴィランになっていたはずのタオが、そのヴィランの体、鋭い爪でイレイサの脇腹を抉っていた。
「ベタベタベタベタと。気安く触ってるんじゃねぇ」
「……え?」
今起きた出来事が理解出来ずにタオを見つめるイレイサ。
鮮血に赤くそまる白いドレス。よろよろと後ずさる。
「今だやれっエクス! お嬢! シェイン!」
エクスとレイナも空白の書に導きの栞を挟んで戦闘を開始する。
イレイサはダメージを受けてしまったからだろうか?
今までのようにエクス達の攻撃を避けられなくなっている。
エクス達が戦うなか、タオは空白の書や導きの栞を使うことが出来ないようで、ヴィランになった自らの体を使って戦っている。
拳や脚、体術を駆使して戦闘に参加している。
イレイサは避けることが出来なくなっているためか、積極的に自分から攻撃を仕掛けている。
だがヴィラン化しているタオは圧倒的な力を誇っており、やがてイレイサは地に膝を着いた。
「どうして自由に動けるの? いくら空白の書の持ち主がどんな者にもなれると言っても、あれはもう人間ですらない」
焦点の合わない目で一人言を呟いているイレイサ。
「俺の空白の書が消されたことがあるとか言ってたな? あれはどういう意味だ」
動けなくなっているイレイサに問いかけるタオ。
イレイサは苦しそうにしながらも、その問いに答える。
「過去に何か書き込まれて、さらに私のような存在にその書き込まれたことを消されたのでしょうね。それ以上のことは解らないわ」
私のような存在、確かにイレイサはそう言った。
「お前のような力を持つ奴が、他にもいるってのか?」
「さぁね。私はもともと空白の書の持ち主だもの。ある人に書き込まれたことで今はこうなっているけれど」
衝撃の事実が明かされた。イレイサが元は空白の書の持ち主だったというのだ。
「そんなバカな! 空白の書に書き込むことが出来るストーリーテラーなんているはずがないわ!」
レイナが声をあげるが、構わず続けるイレイサ。
「信じられないのならそれでも良いわ。
最後の悪足掻きをさせてもらうけどね」
その言葉にエクス達は身構える。
「何をするつもり?」
「本当にただの悪足掻きよ」
イレイサはヴィラン化したタオに抱きつき、耳元で囁く。
「大好きだよ」
「あ?」
「大好きだよタオ」
急に耳元で愛を囁き始めるイレイサにタオは怪訝な顔をする。
そして次の一言でタオの顔色が変わった。
「だからあなたは生きて」
タオの記憶が甦る。記憶の中の、目の前で消された、ずっと一緒にいたはずの女の子の姿が思い出される。
白い髪のショートカットの女の子。
その姿がハッキリと思い出された。
「ミ……オ……?」
掠れた声を出すタオ。その瞳は涙で潤んでいる。
「ふふっ何て顔をするのよ」
微笑むイレイサ。タオは今目の前で起きている事が信じられないでいる。
「そんなはずはない。あの子は俺の目の前で消えた」
「そうね。確かに一度消えたわ。あなたのいうミオはもう存在しないわ」
ミオは存在しないという言葉を聞いて動揺するタオ。
エクス達はこのやり取りを、何も言わずに見守っている。
「私はミオが消えたあと、黒で塗りつぶされて浮かび上がってきた存在だもの。
ミオであったものの、残骸とでも言えばいいのかしらね」
説明されてもどういう意味かは解らない。ミオの残骸?
それはミオではないのだろうか?
「だからミオの記憶や気持ちは受け継いでいるの。会いたかったわタオ」
再びタオを抱きしめ、キスをするイレイサ。
今度はタオは払いのけることはせず、イレイサのキスを受け入れている。
「だからあなたは生きて」
キスが終わった後、イレイサはタオの胸に顔を埋めながらそう呟いた。
「私は私の存在を消すわ。そうすればヴィランになっているあなたの姿はもとに戻るはず。
そしてヴィランもどきの他の村人達もね」
「おい。何を言って……」
言いかけるタオの胸に抱かれるイレイサの姿は足元から消えていく。
同時にヴィラン化していたタオの体ももとに戻っていく。
「おいまだだ。まだ聞きたいことが沢山あるんだ」
焦るタオは言葉を矢継ぎ早に続ける。
「ふふっダーメ。時間切れ」
イレイサはタオの胸に顔を埋め、イタズラっぽく答える。
「あなたに会えて嬉しかったわタオ」
最後にその言葉を残し、タオの腕の中でイレイサの存在は完全にかき消えた。
「大好き」
その言葉が最後に響いた。
「くっそぉおおおおおおおおおおお
何も解らないまま消えやがってぇ!」
涙を流しながら叫ぶタオ。
その光景を見たエクス達は目を伏せ、同じように涙を流した。
しばらくエクス達は、その場から動くことが出来なかった。
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