第3話

 エクス達は村の外れのイレイサの潜伏先まで来ていた。

目的はもちろんイレイサの撃退。


目的の場所まであと少しとなった時、イレイサの方からエクス達の前に現れた。


「あら来てくれたのね。嬉しいわ」

怒気をはらんだ目で睨み付けながら、タオはイレイサに問いかける。


「お前の目的はなんだ」

取り合う様子のないタオに「つれないわねぇ」

と残念な様子で答える。


「実は私の目的は最初からあなた達だったの」


予想外のことを告げるイレイサ。

エクス達は全員怒りの感情をあらわにする。


「なら何故わざわざ村人を襲ったりヴィランに変えたりしているの!? 私達が狙いなら私達だけを襲えばいいじゃない!」


憤慨しながら叫ぶレイナに、イレイサは笑みを浮かべながら答える。


「だってあなた達には私の力は効かないんですもの。だったらヴィランもどきを作って襲わせた方が良いでしょう?」


「なっ……」

もはや言葉を返すことも出来ないレイナに変わってエクスが問う。


「僕達を狙う理由は何? 空白の書を持っている者がいると何か不都合なことでもあるの?」


真剣な眼差しでイレイサを見つめるエクスに、イレイサは答える。


「ふふ。可愛いわねぇでもまだ教えてあげない」


茶化すような態度を取るイレイサに、タオが問いかける。


「最後の質問だ。俺達を襲わせるために村の人間やその他の想区の人間をヴィランに変えているのはわかった。

だが完全に人間を消している場合もある。それは何故だ」


タオの質問にイレイサは心底嬉しいとでも言うように答える。


「あなた達、結構強いようね。

きっと今まで色んなヴィランと戦ってきて強くなったのね」


「あ?」

イレイサが何を言いたいのかわからず、疑問符を浮かべるタオ。


「戦わせてみてわかったけど、やっぱり普通のヴィランはあなた達にはかなわないわ。強いヴィランを作る必要があったの」


「だからそれと人を消すことと何の関係がっ……」

タオの問いかけを無視して自慢げに話を進めるイレイサ。


「私のヴィランもどきはね。強い気持ちを抱いたままヴィランになると、強いヴィランになるみたいなのよ」


タオが怒りを抑えられずに叫ぶ。

「てめぇ人間に恐怖を植え付けるために目の前で人を消しやがったのかぁ!」


『塗りつぶせ』

タオの頭の中に声が響く。


『黒く塗りつぶせ』

空白の書を開き、導きの栞を挟むタオ。


だが栞を挟んだページが端から黒くなり始め、やがてはページ全体が真っ黒になっていることに、タオ自信は気づいていなかった。


戦闘が始まる直前タオの周りに黒い靄のようなものが現れていた。


タオが召喚したヒーロー達にも同じような現象が起こっており、それだけではなくヒーローの見た目が少し変わっている。


そのヒーロー達には見覚えがあった。


「カオスヒーロー?」

タオを見ていたエクスが呟いた。


タオが召喚したカオスヒーロー達はイレイサが召喚したヴィランを瞬殺していく。


「あら? 今度の子達はそれなりに強いヴィランを集めたはずなのだけれど」


カオスヒーロー達は圧倒的だった。ヴィラン達をほぼ一撃で仕留めていく。

すぐにほとんどのヴィランを倒し、イレイサを追い詰めた。


「これはまずいわね。今回は引かせてもらうわ」


逃げようとするイレイサに、タオが叫ぶ。

「待ちやがれぇえええええええ」


タオの絶叫にも似た叫びも虚しく、最後の一匹のヴィランを囮にしてイレイサはその場から逃げ去った。


戦いが終わり、シェインが心配そうな顔でタオに駆け寄る。

「タオ兄さっきのは……」


ふと我に返ったようにタオがシェインに向き直る。

「俺は……」


我を忘れて戦っていたのだろう。

正気を取り戻したタオは自分自信の状況を飲み込めないでいる。


「タオ兄はカオスヒーローを召喚して戦っていたんです。それもかなり強いカオスヒーローでした」


「そう…なのか」

ほぼ一撃で敵を倒していたタオのカオスヒーロー。黒い靄のようなものが体を覆い、恐るべき力を誇っていた。


「何かさっきの力に心当たりはあるのタオ?」

レイナがタオに問いかける。


「わからねぇ。だが思い出したことがある。

俺は過去にも一度、人間が消される場面に遭遇したことがある」


衝撃の発言に一同は騒然となる。

今回この事件が起きるまで、過去にこういう事件が起きたという話は聞いたことがなかった。


「俺がガキの頃だ。俺のダチが一人消されている」

語るタオにエクスが疑問を口にする。


「それは昔タオはイレイサに会ったことがあるってこと?」


もしタオが言っていることが本当なら、過去にイレイサが同じように想区内の人間を消していたことになる。


「それは分からねえ。俺が見たのはダチが消えるところだけで、奴の姿をその時見てはいない」


そして俯いたまま言葉を続ける。

「それで何故今思い出せたかもわからねぇんだ」


甦るタオの記憶。

名前も顔も思い出せない友のこと。思い出せたのは、いつも一緒に過ごしていたこと。


そして消える間際に言っていた言葉。

「大好きだよ」


繰り返された言葉。

「大好きだよタオ」


いつも一緒にいた、愛しい友人。

「だからあなたは生きて」


どうして忘れていたのだろう。

どうして忘れることが出来たのだろう。


あんなに一緒にいた、あんなに愛しかった女の子を。

どうして顔も名前も思い出せないのだろう。



静まり返るエクス達。

しばらく沈黙がつづいたその場を、レイナの言葉が終わらせた。


「私達のやることは変わらないわ。イレイサの行為を止める。目的が私達だと言うのなら、迎え撃つまでよ」


他のメンバーは頷き、イレイサの討伐を続けることを決意した。

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