定番のメントスコーラやってみた!
自分の動画を見た後の俺は現実逃避して、スマホで他のユーチューバーの動画をひたすら見続けた。
実に面白い、見ていて飽きない。
そして再度、自分が投稿した動画を見返した。
くそつまんねええええええええええええええええ!!!!!!
つまらないとかそうゆう問題じゃあない。
何度見ようとも、そこにはただ自分の名前を言った後、パソコンの箱を開けるおっさんの姿しか映ってなかった。下手をしたらYouTubeに上がっている動画の中で、一番しょうもない動画かもしれない。てゆうか一番しょうもない動画だ。
ぐぬぬ、さすがに甘くはないな。
見れば見るほど恥ずかしいその動画を一時は消そうとしたのだが、消し方がわからなかったのでそのままにしておく事にした。
俺は仰向けになって考えた。
なにがつまらなかったのかを真剣に考えた。カメラが悪いのか、そもそも商品レビューになってないからか、実は面白いけど何度も見直さないと笑いのツボがわからない動画なのか。試しに何度か見直したが、残念ながら面白くなる事はなかった。
再生数は地道に伸び、8回再生された。俺はこの動画を見てくれた人に、心の底から土下座をしたいと思った。動画を見た人間が、人生でも上位に入る無駄な時間を過ごすだろう事に気付いていたからだ。後からわかったことだが、その心配は無用であった。なぜなら再生回数8回中8回は俺が再生したカウントだったからだ。10割である。俺は誰にも迷惑をかけずにすんだ。
ともあれこれは大問題だ。俺は早くもユーチューバーとして第二の挫折を経験した。面白くない動画を撮っても稼げない。俺にもそれくらいわかる。舐めるな。ならどういう動画が面白いのか。
参考にしようと俺はまたスマホを取り出し、動画を漁った。
そして俺は見つけた。
そう、タイトルでネタバレしちゃってる通り、メントスコーラだ。
見たことがない人の為に簡単に説明すると、炭酸飲料であるコーラに、お菓子のメントスを入れるとなんかこう、化学反応的なやつがおきて、コーラがこう、ブワーッと噴き出すのだ。
そのブワーッと噴き出したコーラを飲むとどうなるか。口の中に収まらず、ブヘェって噴き出して、それに対してダチョウ倶○部並みにオーバーリアクションをするのである。
このメントスコーラに挑戦するユーチューバーは多い。
やはり、用意する消え物にお金がかからないであろう事と、定番ネタなのでどうなるかわかっていても、皆見てしまうからだろう。
俺ももちろんその一人だ。噴き出したり、リアクションが取れなかったり、普通に飲めてしまったり、その結果は様々であるが、共通して言えることはやはりそれなりに面白くなるのだ。抜群の安定感により落ち着く、いや、落ちがちゃんと付く。まさにユーチューバーとしての登竜門である。俺にふさわしいではないか。
俺はさっそく近くのコンビニに向かった。
*
コーラはともかく、俺はメントスというものを初めて買った。
赤、黄、緑、紫とそのバリエーションの多さに驚かされた。とりあえず定番の紫を買う。コーラは500mlのペットボトルだ。会計をすまし、意気揚々と家に帰る。
もしかしたら店員さんはあれ? この組み合わせ……もしかして! この人ユーチューバー!?
と、気付いてしまったかもしれない。声をかけてくれればいいのに。恥ずかしがり屋さんめ。
家に帰ると早速準備に取り掛かる。
机にビデオカメラを置き、俺の全身が映るように、セッティングすることが、できなかった。なんと、俺が立ち上がると上半身がどうしても見切れてしまうのだ。視野の狭い安物のカメラでは、俺の部屋は狭すぎたのだ。
ぐう、くやしい。
俺は試行錯誤を繰り返した。こたつをどかして床にビデオカメラを置き、レンズが付いている前面の下にライターを置いて調整した。その苦労の甲斐あって俺の計画は成功に終わる。モニターには一応全身が写っていた。床に置いたコーラもバッチリさ。少し不安定でグラグラしていたが、まあこれで何とかなるだろう。
よし、時はきた。それだけだ。
俺はビデオカメラが倒れないよう、静かに録画スイッチを押した。
「YouTubeをご覧の皆さん! 俺は幸と言います!!」
同じ失敗を繰り返す俺ではない。失敗とは勿論ぼそぼそと音声が聞き取れなかったことだ。
ビデオカメラにしっかり録音されるよう、俺はなるべく声を張った。
「ユーチューバー初心者の俺なんだが、今日はね! 定番のメントスコーラに挑戦したいと思う!!」
俺はそう言って両手で拍手した。
頭のなかでは子供がイェーイって言ってる効果音が流れていた。
「ここにコーラとメントス買ってきたから! じゃあ早速やりたいと思う!!」
俺はそう言って500mlのペットボトルに手を伸ばし蓋をくるりと開けた。
プシッっと爽快な音をたて、シュワシュワ言っておる。これからなにをされるかも知らず、呑気にシュワシュワ言っておる。
待ってろよ。今からその泡、何倍にも増やしてやるからな。
食い物で遊ぶのは抵抗があるが、俺の食費の為だ! 許せ!!
俺はコーラをカメラに映るように置き、メントスを開封する。
「じゃあ! いきまーす!!」
俺は手につまんだメントスをコーラの中に入れた!!
メントスは泡を吐きながらペットボトルの一番下まで沈み、そしてコーラがてっぺん目指して上昇してきた!!
予想以上のその勢いに、俺は焦って地面に手をつきもう片手でコーラを掴み取る。
「うおおおおおおおおお!!!!!!!」
ペットボトルを口につけ、漏れないように口中に力を入れる。
次の瞬間、口内中にコーラが吹き込んできた。ほおが限界まで広がり、コーラが体の入ってはいけないところに容赦なく入る。
「ブフォッ!!!」
俺の鼻からコーラが盛大に噴き出した。
リアルハハワロス。コーラ返せ。状態だ。
おおよそ、人間の体はその通路に水分が通るようにはできていないのだろう。鼻と耳がものすごく痛かった。かき氷を一気食いした時の様に頭がキンキンする。
だが俺はやり遂げた! 完璧なリアクションだったはずだ! 出川〇郎もびっくりさ!
「……以上。メントスコーラでした」
俺はビデオカメラの方に顔をむけ。視聴者に向け、〆の笑顔を作った。
そこで俺は気付く。ビデオカメラがコテンと横に倒れていることに。
「えええええええええ!!!!!??」
俺は持っていたコーラを床に置きビデオカメラを確認する。
試しに再生した動画は俺がコーラにメントスを入れ、それを慌てて撮ろうとした瞬間に、コテンと横になり、床を映し出した。
不安定だったビデオカメラは地面に手をついた衝撃で倒れたのである。
俺のうめき声の後、ブフォッっと噴き出す音が入り、ビチャビチャとコーラが右から降ってくる。残念ながら、必死に鼻からコーラを出した映像はまったく映っていなかった。
もう一つ残念な事がある。
俺はメントスコーラの破壊力を完全に侮っていた。床がコーラまみれになっているのである。早急に拭き取らなければベッタベタするのは必至である。この状況に喜べるのは蟻さんくらいだ。
俺は風呂場に雑巾を取りに行った。まさに踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂、撮影失敗に大惨事である。
雑巾を取ってきた俺は泣きながら床を掃除した。
そこかしらコーラまみれだ。俺の着ていたシャツも、洗濯をしなければ蟻のたまり場となろう。無駄に金をだして、苦労して、そして得るものは何一つなかった。一体俺は何をやっているんだ……。
……だが俺は、床をふきながら自然と笑えてきた。
にやつきながら一人で床を拭く27のおっさん。周りから見たらさぞかし気味が悪いだろう。下手したら通報ものだ。軽くホラーだ。しかし抑えられない、なぜか笑いがこみ上げてくる。
ダメだ、もう耐えられない。
「はーはっはっははは!! ひーひっひっひっひ!!」
気付けば俺は訳もわからず大爆笑していた。
年甲斐もなく、笑いすぎておなかが痛い。こんなに笑ったのは子供のとき以来だ。一体何がおかしいというのか。
もうネタとしては使い古された、誰もがどうなるかを知っているメントスコーラに、なおも挑戦するユーチューバーが絶えない理由に気付けた気がする。
「はーはっはっはっは……。あー、笑った……」
思いっきり笑って落ち着いた俺はさらに掃除を続ける。
肝心な部分は映っていなかったが、俺はこの動画をYouTubeにアップロードしようと思う。誰がこの動画を見るかわからないし、他のユーチューバーのメントスコーラと比べても、撮影失敗してるだけのクソ動画だと思うだろう。
それでもかまわない。
理由はわからないが、俺はこの動画を見て笑えるんだから。
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