パソコンをYouTubeで勉強した結果……、なんということでしょう!?

 こんな女っ気のない小説をここまで読んでくれるとは有り難い話である。

 お前らの力に支えられ、早くもこの小説は4話目を迎える事となった。数ある小説の中、これをチョイスして読むなんて本当に暇な……おっと失礼。

 俺はというとあれから死に物狂いでYouTubeを見続けた。時間なら死ぬほどある。やる気があればいくらでも勉強できるのだ。でもきっとこれを読んでくれてる人も時間が……おっと失礼。

 俺が動画で得た知識。

 ムービーメーカー、YouTubeアカウント開設、エロサイトの無料サンプルの見方。

 正直買ってきた本の100倍わかりやすく100倍ためになった。すでにパチンコ屋で海○語やジャ○ラーを打っているジジババにあがめられるくらいに俺はパソコンに詳しくなっていた。


 というより、パソコンは実はそんなに難しくなかった。

 自分で触ってみると、あれよあれよと上達していくのがわかる。上達するとやれることが増える。これが無性に楽しい。好きこそ物の上手なれ。ということわざがある。好きなものは頑張って上手になれという意味である。俺はまさにそのことわざ通り、パソコンが上手になり続けた。

 間違っていたらすまぬ。


 ここまで来て俺は本分を思い出す。本分とはなにか、決してDMM.comでひたすら無料サンプルを見る事ではない。本分とはYouTubeに動画を投稿することである。俺はユーチューバーにならなくてはいけないのであった。

 自分の生まれてきた理由に気付き、早速カメラからSDカードを抜いて、なるべく優しくパソコンに挿しこんだ。そして抜いた。

 そしてもう一度優しく、愛を込めて挿した。

 特に意味はない。


 パソコンからSDカードの中身を開く。

 3話までの俺とは大違いであろう? そうだろう?

 なんせあの頃の俺ときたら、ノートパソコンのマウスを動かすマウスパッドにライターを置いて、小物置きと勘違いしていたほどである。幼少期からパソコンを自在に操る世代から見たら失笑ものだろう。

 だが、俺は進化した。

 今やマウスが動かせるどころか、DMM.comの女優、さらにはSDカードの中身さえ丸見えである。


 カチカチッっとダブルクリックを披露する。ダブルクリック、こいつは結構練習した。そして今の俺はダブルクリックどころかトリプルクリックやクワドラクリック、はてさてペンタクリックまで習得した始末。だが、俺のパソコンには対応していないようで、ペンタクリックは普通のクリックと変わらない反応だった。

 フォルダーの中には動画ファイルが入っていた。俺はそれを華麗にダボゥクリックする。すると動画が再生され始めた。間違いない。フォルダーには俺がとった自己紹介動画とノートパソコンの商品レビューが入っていた。


 俺はそれらをパソコンに取り込み、ムービーメーカーなるソフトで開いた。

 いいねえ、クリエーターらしいぜ!!

 1か月前の俺はまさか俺がこんなインテリっぽいことに手を出すとは思ってなかったであろう。当然である。昨日の俺ですら思ってなかったんだから。


 俺は動画の余分なところを切り落とした。

 そしたらどうだろう、自己紹介が10秒ほどで終わってしまったではないか。これはあまりにも短い。短すぎる。そう思った俺は、パソコンの商品レビューとくっつけることとした。

 3本の矢は束ねれば折れないという。今回は2本であったが、俺ながらいいアイデアだ。


 俺は適当に2つをくっつけ合わせた。動画は3分ちょうど。

 これはいけるぞ、早速保存だ!!

 俺は動画をパソコンの推奨設定で保存した。





 あれから1時間が経とうとしている。

 動画の保存は13%から一向に動かない。俺はパソコンをゆすってみたり、撫でてみたり、腕を振って応援してみたりしたが全然駄目だ。かんっぜんにとまっちまったみたいだ。この現象は聞いたことがある。フリーザだ。ホーホッホ、初めてですよ。私をここまでコケにしたおバカさんは。


 俺は調べた通り、強制的に電源を落とした。

 再び電源を点けたらそこには何もなかった。俺は泣きながらまた先程と同じように動画を作った。

 ユーチューバーへの道は苦難の連続だぜ! まったくよお!!


「次止まったらぜってえ許さねえぞ! いいか!! ぜってえ止まるなよ!!」


 俺はそう言いながら再度、完成した動画を保存しようとした。だが、チキンハートな俺は、あきれるほどに、そうさそのクリックが押せなかった。

 きりがないので俺は調べた。

 いや、本当に便利な世の中になったと思う。部屋の中にいるというのに、ネットを使えばなんでも情報が手に入る。DMM.comでエロ動画だって簡単に手に

 真面目な話をすれば調べた結果、プロジェクトの保存で解決できるとの事だった。万が一消えたとしても読み込めばそこから簡単に復活できる。昔の子供は復活の呪文を必死に紙に書き留めていた。やがて文明は進み、その復活の呪文はセーブ機能に進化した。その波がムービーメーカーにも押し寄せていたのである。ちなみにパソコンが動かなくなる現象はフリーザではなくフリーズと言うらしい。


 俺はプロジェクトを保存し、早速動画を保存した。

 まだかな。

 まだかな。

 動画が出来上がるのを楽しみにしていたわけではない。俺はフリーズするのを心待ちにしていたのだ。

 フリーズしてみろこの野郎!!

 そしたらドヤ顔でプロジェクトを読み込み、いとも容易く復活させてやるぜ!!新しく手に入れた知識をふんだんに利用する時がきたのだ!!

 結果としてはそのままパソコンはフリーズすることなく動画は普通に完成した。


 動画が出来たのならば次はアップロードである。

 まずはYouTubeアカウントを開設せねば。

 俺はパソコンでグーグルクロームを開き、YouTubeのサイトにとんだ。

 いつもはスマホで見てるが、やはり画面が大きいほうが見やすい。つぶれて読めなかった字もきれいに見えるし、表示される量が多い分動画も探しやすい。

 おっといけない、動画を見てる場合じゃなかった。

 俺は動画を作る側にまわったのだった。いけないいけない失敬失敬。


 俺は早速自身の自信のアカウント『幸チャンネル』を作り、完成したばかりの動画をアップロードした。アップロードにはまたも時間がかかった。

 もどかしい、もどかしい。


 暇なので俺はスマホでYouTubeを見始めた。

 パソコンで見なかったのは余計に触って、またフリーズすることを恐れたからだ。作業で手一杯のパソコンに余計な仕事をさせれば怒ってへそを曲げるだろう。俺にだってそれくらいわかる。舐めるな。

 スマホで適当に動画を探していたら、いずくかけるという全然再生数の伸びていないユーチューバーを見つけた。面白いテキスト動画を上げているのに全然伸びていない。他の動画に埋まってしまっているのだろうか。もったいない、せっかくこんないい動画を作っているのに。是非お前らも検索してほしい。

 と、ここまでがステマなわけだが、そうこうしているうちにアップロードは完了していた。


 早速俺は公開ボタンを押す。

 俺の記念すべき初動画はこうして、世界中に配信された。

 どうしよう、有名になってテレビで紹介されて、番組に呼ばれて仲良くなった女子アナと結婚しちゃったらどうしよう。同級生にどんな顔して会えばいいんだ! 申し訳なくて、俺は俺は一体どんな顔をすればいいんだ! と、まあそれくらいまで妄想に浸っていた。


 それから俺は飯を食って、風呂入って、またスマホでYouTubeを見て、パソコンで大人の映像作品を鑑賞しながら自家発電していた。

 そして寝る前、ふと気になって自分が投稿した動画を見た。


 再生回数は1回だった


 これには俺は結構ショックを受けた。

 初めて動画を投稿したのだから100万10万とはいかなくても、そろそろ1万再生くらいされててもおかしくはないだろうと思っていたからだ。

 俺は自分の見通しの甘さを恥じた。だがこの直後、俺はさらにひどいショックを受けることになる。

 自分の動画を全部見終えた時だ。


「なにこの動画……。クソつまらねー……」

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