パソコンを使わなければ投稿できない!? 俺は今おこている!
カメラから直接投稿できない事を知った俺は先程の電機屋に乗り込んでいた。こうなれば戦争である。とことんやろう。
俺は店内を見渡し、前回のペテン野郎を探しだした。おったで! あいつやで!!
「店員さーん」
心の中では腸が蒸発するほど煮えたぎっていたが、それを他人にぶつける俺ではない。俺は今まで社畜として社会に貢献してきた大人なのである。こんなトラブルぐらいで切れてないっすよ。
俺は再び店員さんを口寄せした。
「はいはいお客様。なにをお探しでしょうか~?」
ペテン野郎は相変わらず軽いフットワークで俺の目の前にやってきた。つい先程アップロード機能の付いていないカメラを買わされたばかりの俺の顔を忘れたとは言わせない。さあ見ろ! この俺を! 思い出せ! 己の罪を!!
「あぁ、さきほどビデオカメラをお買い上げになられたお客様ですね~? どうなさいました?」
店員さんはにっこにっこにーしながら俺に話しかける。このやろう、お前がスクールアイドルであれば俺は完全に萌え死にしているぞ。だが店員さんはいい年のおっさんであるため萌え死にはしなかった。
「俺がさっき買ったビデオカメラ、実はYouTubeにアップロードできないみたいなんですけど」
俺は事細かに先ほどまでの信じられない出来事を店員さんに報告した。そして俺はアップロードできるやつと交換してくれと要求した。もちろん脅すような態度はとっていない。心から親切丁寧に、聖母マリアのような広い心を持って懇願すれば、全額返金の上、俺の希望するものと交換してもらえるかもしれないと考えたのだ。というかそうなると思っていた。
だが、結論から言うと、そんなビデオカメラは置いてなかった。置いてなかったというのは正しくない。そんなビデオカメラはこの世になかった。存在しなかった。スマホやノートパソコンという例外はあるが。
「ええっ!? じゃあどうやって動画をアップロードするんですか!?」
話を聞くと、一回撮った動画をパソコンに取り入れた後そこで編集を済まし、そこからやっとアップロード出来るらしい。
小説家になろうには若年層が多いというが、この小説を見てくれている人の中には俺と同じようにパソコン関係に詳しくない人もいるだろうからわかりやすく例える。
海で釣ってきた魚を一回冷水に入れて〆て、市場で解体し、そこからやっとお客様に売りさばく。
簡単に言えばそうゆうことだ。海で釣った魚はそのまま売りさばくことが出来ないのだ。
ちなみに全く関係ないが、俺はこの話をなろうで書いた後、他の小説投稿サイトに移植している。そうゆうことだ、カクヨムユーザーよ、許してくれ。
話を戻すが、つまりこれから俺が動画で食っていく為には、どうしてもパソコンが必要になってくるという事だ。今まで触ったこともないパソコンが……。
俺は店員さんに言われるがままに動画編集できるパソコンのおすすめを教えてもらった。欠けたリンゴが描いてあるノートパソコンだ。値札を見るとなんと10万越えのスペシャルプライスだった。俺は店員さんに尋ねる。
「店員さん、そっちの安い奴じゃダメなんですか?」
*
俺は安い方のパソコンを持って家に向かった。
なんとこのパソコン、値段もお手頃ながら、インターネットも無料でついてくるという、まさに俺向けの商品であった。
何と幸運な事か。
天が俺のユーチューバーとしての門出を祝福しているとしか思えん。この幸運を俺は一生忘れない。
そこから軽いノリで、俺は自分の源氏名を『よしおしゃちょー』から『幸運庫』(さちうんぐら)とした。幸運を人に届けるという意味であることはもちろん、元トラックの運ちゃんであることから掛けた名だ。
暫くして、しあわせうんこって呼ばれるだろうなと気付き、幸チャンネルに改名することになるのだが、この時の俺は自分のネーミングセンスにうっとりしていた。
*
やがて部屋にたどり着き、俺は早速開封しようとしたが思い留まった。
いやいかん、この機を逃す手はないだろう。
俺は返品しようと一緒に持って行ったまま、そのまま自宅に持って帰ってきたビデオカメラを充電し始めた。
そう、俺はこのパソコンを使い、早速ユーチューバーの基本ともいえる動画、商品レビューをしようと考えたのだ。
充電している間、俺は自分のキャラというものを考えた。
さっき一度はやってみたが、やはりピッチピチの学生ユーチューバーと比べて27歳のやるテンション高めなキャラは痛々しい。ならばどうだろう。年相応の大人の余裕をかもしだしてみれば。下手をすれば全国の婦女子からファンレターが届きまくるかもしれん。
ううむ、まいっちゃうな。
けしからん妄想に時間を使っていると、ビデオカメラのバッテリーはとっくに充電できていた。カメラを机に置き、モニターに俺を映し出す。傍らには買ってきたばかりのパソコンの箱。
いざ!! 参らん!!
俺は録画ボタンを押した。
「おうおう初めまして。YouTubeを見ているお前ら。俺の名は幸だ。今日はパソコンを買ってきたから早速開封してみたいと思う!!」
俺はそこでパソコンを自分の前へと出し、隠していたカッターで箱を開けて見せた。
「おまえら見てみろ! 中にはなんとパソコンが入っているぞ!!」
箱の中をカメラに写してみせた。この時点で俺はもう何を言っていいかまったくわからず軽く焦っていた。とりあえず中身を取り出す。
「えーと……。中身はノートパソコン本体、なんか黒いコード、説明書、あとCDだな!」
中身を全部箱から取り出した。初めてで緊張したが俺はやり切った。
そろそろ締めるとしよう。
「以上がパソコンのレビューだ。次の動画もぜひ見てくれ。じゃあな!!」
そう言って俺は録画を停止した。
なかなかの出来だったんじゃないのか?
俺は動画を見直したが声もちゃんと録音できていた。これはいける。俺はここからだ。無駄に自信をつけ、これからユーチューバーとして稼いでいく自分の姿を信じて疑わなかった。
コンセントに繋ぎ、俺はパソコンの電源を入れた。俺にもそれくらいはできる。舐めるな。
せっかく動画が撮れたのに、アップロードをしなくてはんまい棒すらも買えないのである。
パソコンが起動し画面に壁紙が表示される。
……俺はどうしたら良いのだ。
カメラと違ってパソコンには多くのボタンがついていた。それもアルファベットやひらがな、何のボタンかわかったもんじゃない。
%5えぇ とかわけのわからないボタンまでついてやがる。
これが俺がユーチューバーになってから初めての挫折であった。目の前には強大すぎる敵、パソコンが立ちはだかる。
*
無理だ……
俺はもう完全に諦めていた。
1時間ほどパソコンと格闘したが画面は一ミリも変わってなかった。
カメラと違って説明書を見ても何が何だか全然わからねえ。
詰んだ……。完全に詰んだ……。
俺は天井を見上げ、会社を辞めたこと、ビデオカメラを買ったこと、部屋を撮ったこと、パソコンを買ったこと、今までの様々なユーチューバーになってからの思い出を走馬燈の様に思い返し……思い出した!!
そうだ! TYUTAYAでユーチューバー入門を買ったではないか!!
部屋の片隅に投げ捨てられた一冊の本を俺は抱擁した。
今こそお前の力が必要な時だ。
俺はページをめくり、読み始めた。
なるほどなるほど、あーなるほどね! わからん。
俺は再び部屋の片隅にその本を投げ捨てた。キャッチアンドリリースだ。
スマホで調べるうち、とりあえずわかったことは動画編集はあの欠けたリンゴマークのパソコンでやるといいという事。直感的な操作で初心者でもやりやすいと書いてあった。
ううむ納得、どおりで俺の買ったパソコンは扱いが難しいわけだ。
しかしあの値段には当然手が出せそうにない。俺はこのパソコンを使うしかなかった。
こうなると完全に手詰まりである。
もうどうしようもない。
とりあえずYouTube見よう。
現実逃避しよう。
俺はスマホを取り出しYouTubeを見始めた。
そして俺に、電流走る!!
YouTubeに解説動画あるんじゃねえ?
検索するとあっさりそれは出てきた。パソコンの使い方や、ネットのつなぎ方。そしてYouTubeへのアップロードの仕方。俺はニヤリと笑い、天井に向けて拳を伸ばした。
「世界は、この俺の手の中にある!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます