犯罪者達の娯楽曲(ペヤング)

以前twitterで見かけた

#物書きのみんな自分の文体でカップ焼きそばの作り方書こうよ

という企画で書いたパロディです。



*** *** ***



「おいキャリー。てめぇなにやってんだ?」


 深い海を航海する潜水艦。ビクトリア号にて。

 小腹を満たそうと厨房にて食事を作る少女、『キャリー・ポップ』を、青年、『ハーディ・ロック』はただ不思議そうに眺めていた。


「あ、ハーディさん。なにって、あの、お腹がすいたからカップ焼きそばを作ってるんですよ」

「カップ焼きそば? それはなんだ? 本当に食べれるのか?」


 ハーディはカップ焼きそばの存在を知らなかった。

 幼少時は孤児として育ち、その後は27、現在の年齢になるまでレクイエムという刑務所の中で生活していたためである。

 外の世界の情報に疎かったハーディから見れば、キャリーの作っていたカップ焼きそばという食べ物はとても料理には見えなかった。

 白いケースに入れられた四角い固形物。それに袋に入っていた緑と茶色の粒をふりかけている。

 初めて見るその食材は、ハーディの興味をくすぐるに値した。


「あの、よかったらハーディさんも食べますか? 一緒に作りましょうよ」


 キャリーが新しいケースを手に取り、それを差し出してきたのでハーディはそれを受け取った。

 よく見るとケースの周りに透明なフィルムが張られている。

 まじまじとそれを見ると恐るべき事実が発覚した。


「おいキャリー!! これはなんだ!?」


 隣から急に怒鳴られてキャリーはビクッと肩を震わせた。

 ハーディはそのケースのある数字を指さし、キャリーに問い詰める。


「あの、なにってそれは、これの賞味期限ですけど……」


――やはりそうか……


 ハーディは自身の予想が当たっていたことを嘆いた。

 そこに表示されていた数字、『29.6.12』


「キャリー、これは食べられねぇ……賞味期限を一年過ぎている……」


 ビクトリア号は世界を股にかける海賊船である。

 常に新鮮な食材を用意できるわけではなかった。

 世界各所の拠点に赴き食材を仕入れる中、用心棒『キリシマ・エンカ』出身の島国に立ち寄った時に仕入れたカップ焼きそばの賞味期限は、とうに過ぎていたのである。

 肩を落とし、うなだれるハーディを見てキャリーは吹き出した。


「大丈夫ですよハーディさん! 私のお母さんなんて、5年過ぎた物を食べても問題なかったんですよ? 1年くらいどうってことないですよ!」

「だがキャリー……」

「とりあえず作ってみましょうよ! 匂いが駄目そうだったら私が食べます」


 キャリーがそう言うものだからハーディはしぶしぶ、ケースの包装フィルムを剥がした。

 ケースの蓋を開けると、そこにあるのはやはり四角い固形物。そして3つの袋だった。


「キャリー、この袋には何が入っているんだ?」


 ハーディは3つの袋を手に取り、それぞれを見つめる。一つは先程キャリーが入れていた粒の入った白い袋。もう一つは透明で中に緑色、もう片方には砂色の粉が仕切られており、残る一つには黒い液体が入っていた。


「えっとですね。あの、これにはかやくが入っています。要するに具材ですね。これはソース。味付けをするものです。最後のこっちはスパイスですね。お好みでどうぞってやつです」


 ハーディはそれを聞いてレクイエムに君臨する3人の要注意人物を思い出した。

 誰からも必要とされる具材は奇才の老兵『エルビス・ブルース』を、全てを自分の色に染めるソースは無法の王『ビズキット・メタル』を、そして、癖のある異質な存在、スパイスは悪食の孤独者『ガストロ・クラシック』をハーディに連想させる。


 ハーディはそのうちの一つ。液体の入った袋を開けようとした。その瞬間。


「ダメーーーーーーッ!!!」


 艦内にキャリーの叫び声がこだました。

 ハーディは手を止め、キャリーと目を合わせる。

 ハーディの目に入ったのは

 ナニシテルンデス?

 と言いながら

 カタカタと震えるキャリーの姿だった。


「なにって、ソースを入れるんじゃないのか? 味付けするんだろう?」


 当然のようにそう答えたハーディ。それを聞くとキャリーは深くため息をついた。


「そうですね。ちゃんと説明していなかった私が悪かったです。あの、ソースを入れるのは最後なんですよ。順番通りに作らないと、これは完成しないんです」


 ハーディはその時、10年前にエルビスから授かった教訓を思い出した。


『小僧、常に冷静でいろ。戦局を支配する人間というものは、いつも物事の裏側を見ている』


バンッ!!


 ハーディは怒りを抑えられず机を強打した。


「くそっ! 俺はまた繰り返しちまうとこだったのかっ!?」


 キャリーは優しく、慈しむようにハーディに話しかけた。


「大丈夫ですよハーディさん。幸い、まだ袋は開けられていませんでした。さあ、作りましょう?」


 「ふっ……そうだな……」軽く笑い、ハーディはそう答えると、白い袋を開封し、かやくを固形物の上に振りかけた。


「次はどうしたらいいんだ? これで完成か?」


 キャリーは「ふっふっふ」と笑いながら厨房からやかんを持ってきた。そのやかんから放たれる湯気はなかに沸騰したお湯が入っていることを容易に想像させる。


「このお湯を注ぐんですよ。いきますよ」


 キャリーは自分のケースと、ハーディの用意したケースになみなみとお湯を注ぎ始めた。

 固形物がお湯に浮く。その様子を見ても、ハーディの食欲はくすぐられなかった。


「よし、そしたらつめを折って蓋を閉じるんです」


 キャリーは蓋の端っこにあるつめを折ると、自分のケースにその蓋をした。まるで自分の過去を隠していた時の様に……


「何をしているんだ。蓋をしたら食べられないだろう?」


 ハーディの疑問は最もだった。これから食事をするというのにそれをしまうなんて、キャリーの行動はハーディの予想を遥かに超えてきたのだ。


「いいからいいから。ハーディさんも早く蓋をしてください」


 理由はさっぱりわからなかったが、ハーディは言われるがままに蓋をした。


「そしたらこのまま3分待つんですよ。麺がふやけたらほぼ完成です!」

「3分経てば冷めてしまうだろう。 それに麺? 今麺と言ったのか? どこにそんなものが……」


 ハーディはそこでハッとした。先程の固形物。まさか、あの正体は……


「あの四角い物体が麺なのか!?」


 ハーディの認識する麺は細く、長めに成形させた小麦粉を主とする食材だ。キャリーの発した情報が、まだ信じられない。


「そうですよ。お湯でふやければ、あれが麺となって食べれるようになるんです」


 その事実を受け入れられないまま、時は流れる。

 その間、あの固形物がどのように麺になるのか、ハーディは気になり蓋を開けようとしたが、それはキャリーによって阻まれた。




*** *** ***




 あれから3分の時が過ぎ去った。

 ちらちらと時計を眺めていたキャリーが口を開く。


「もうそろそろいいでしょう。ハーディさん、私と一緒にそのケースを持ってきてください」


 キャリーはそう言って自分のケースをひょいっと持ち上げた。

 同じくハーディも自分のケースを手に取る。


「熱ッ!!」


 ハーディの手に伝わったのは熱。それも耐えきれないほどの熱だった。

 思わずケースから手を離すハーディを見て、キャリーは心配する。


「ハーディさん! 角を持つんですよ! そこに熱は伝わってません!!」


 キャリーの持ち方を見てみると、なるほど、面の部分には触れていなかった。

 試しにハーディがケースの角を持ち上げると、確かに熱は伝わっていない。


 ケースを持った2人が向かったのは、厨房の流し台だった。


「そしたらハーディさん、よく見ていてくださいよ?」


 キャリーはシンクに向けてケースを傾け始める。すると、ケースからお湯が流れ出てくるではないか。


「なるほどな、そうやってお湯を捨てるってわけか」


 キャリーは最後の一滴まで搾り取るように、そのケースを上下に振った。


「さあ、ハーディさんもやってみてください。ここまでくればもう完成したも同然です!」


 ハーディは自分のケースを手に取ると、そのままシンクと向かい合った。

 キャリーがそうしていたように、ケースを傾け始める。


 その時、

 ハーディの脳裏に一人の男の顔が思い浮かぶ。

 忘れもしない。

 その男の名は『セルゲイ・オペラ』

 巨大刑務所、レクイエムの最高顧問を務める男。

 ハーディは用が済んだらまるでごみのように捨てられるお湯を見て、セルゲイの顔を思い出してしまったのだ。


「セルゲエエエエエエエエエエエエエイイ!!!!」


 怒りに染まったハーディは一気にケースを傾けた!

 すると、無慈悲にもケースの蓋が開く。

 慌てて止めようとするキャリーの声もむなしく、中の麺は宙を舞った。

 そう、あの時、約3分前、ハーディは蓋のつめを折り忘れていたのだ。

 キャリーはその確認を怠った……


 彼らがどうなるかはここでは語らない。


 なぜならこれは、ペヤングを作る物語なのだから。

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