第2話
第0話 ②
『Արևն ամպի տակ չի մնայ։』
(Ar ev-n amp-i tak ch’i mnay .)
[Sun=the cloud(属) under(後置) not stay .]
アルニア語は基本SOVの順で、属格支配の後置詞を考えると直訳は、《The sun doesn't stay under the cloud.》
古きよりのアルニア語の格言であり、『太陽は雲の下に留(とど)まらない』となる。
高原・高山に住まいしアルニア人ならではの言葉であり、彼らは雲の上の高所に居るので、時に太陽は空を覆う暗雲の中に隠されている。だが、必ず太陽は雲を抜け、直上に昇り、アルニアの人々を照らす。
それは、時に真実が嘘(うそ)・偽(いつわ)りの張り巡らされたベール(veil)に覆われたとしても、必ずや出(い)でるのと同じ。
太陽、それは高く輝いたとしても、時に小さな雲に覆われる事もある。
(The sun which is so high and shining is hidden often
by a small cloud.)
時に、空は雲に覆われ、悪しき狼を喜ばせるだろう。
『Գայլը ամպոտ օրը կ՝ ուրախանայ: 』
(Gayl-ə amp(v)ot or- ə k ' urakh anay.)
[the wolf overcast(名詞) the sun (動節)rejoice.]
《կ՝ 》は《կը》(kə)の省略形で動詞前節を意味し、
《ուրախանա յ》は第3
の三人称単数・現在形。
直訳は、狼は 曇り日を喜ぶ。
(The wolf rejoices with a coverd sky.)
しかし、太陽とはアルニアの古き神々、太陽神アラマズド[Արամազդ](Aramazd)の化身でもあり、それを遮(さえぎ)る邪悪な暗雲が在(あ)りても、必ずや暗雲は晴れ、太陽を永久(とこしえ)に遮(さえぎ)る事など出来はしない事を暗に示唆(しさ)しているのだろう。
偉大なるモノ、正しき事も、時に雲の下に潜み、時に矮小な雲に遮られたりもするやも知れぬが、必ずや天空の世に出(い)でて遍(あまね)く世を照らしていく。それこそが大自然の摂理なのだから。
そして、一度(ひとたび)、高く世に出た太陽は、小さな暗雲を逆に光で覆うのだ。月が満ち、幼子を布でくるみ抱きかかえるように。
その慈愛を持ってして・・・・・・。
『Արեգակը որ այնչափ բարձր ու լուսաւոր է ,
մեկ փոքր ամպը կը ծածկէ : 』
(Ar yegak- ə vo aynchap' bar dzr u lusaw(v)or e ,
myek p'(v)okhr amp- ə k ə dzadzke.)
[The sun that is insomuch high and bright
wraps a small cloud . ]
・・・・・・・・・・
守護者は幼き頃の記憶を無意識の内に紐解(ひもと)いていた。
その時、彼女は幼き少女だった。
『Նազանի(ナザニ)(Nazani)、Նազանի(ナザニ)や』
と、祖母は彼女の名を呼んだ。
「はい、おばあ様」
と、幼いナザニは最愛の祖母に答えた。
祖母は幼いナザニによくアルニアの神話や昔話を聞かせた。
怖ろしき妖魔Ալք(アルク)(Alk’)、すなわちԱլ(アル)の群れの話を。
Վահագն(ヴァハグン)(Vahagn)の竜退治の物語を。
美麗王Արա(アラ)(Ara)の悲劇を。
様々な古代の物語を。
そして、祖母は幼いナザニに、アルニアの格言を教えた。
格言を学ぶ事こそは、言語を習得する上で、最も効率が良い方法の一つであり、さらに先人の思想や発想を理解できるのだった。
祖母は幼いナザニに、アルニアの言語と思想と文化を習得して欲しかったのであった。
幼いナザニは、今回も祖母がそうした話をしてくれるものと思ったが、それは違った。
重々しい口調で祖母は告げた。
『今日は大切な話をしようね。よく心してお聞き。今から話す事は決して忘れてはいけないよ、決して・・・・・・』
「はい、おばあ様」
少し恐い気持ちになりながらも、幼いナザニは答えた。
『これは今から一世紀よりも昔。世界が中枢量子コンピュータ、デス・エクス・マキナとの戦いに勝利し、束の間の平和を享受していた頃の話。しかし、私達ハイ・クト(アルニア人)の民は未だ血の中にあったのだよ・・・・・・』
アルニア国の隣国、オズマ・デュルク第3帝国は奇妙な生物と秘密裏に手を結んだ。それは吸血鬼竜と呼ばれる人工生命体だった。かつて、吸血鬼の王ナイト・イン・ゲイズが生物兵器として作ったモノが自我を持ち、独立して行動を始めたのである。
ただし、それは超能力者の始祖が契約した竜とは全く異なる、悪しき邪竜。
突如として、その邪竜達はアルニアの国土に、独自の生態系を作り出し、アルニアの人々を喰らっていった。
そして、悪しき吸血鬼竜と裏で手を結んでいたオズマ・デュルク第3帝国は、表向きは吸血鬼竜を退治するとして、軍隊をアルニアに派遣して、アルニアの領土を制圧していった。
アルニアの人々は当然、反発したが、そういう区域に限って、特に吸血鬼竜が現れるのだった。
そこをオズマ・デュルクの空軍が爆撃していくのだ。
数万ものアルニアの民が犠牲になっていった。それはデス・エクス・マキナとの大戦で、ただでさえ数十万しか残って居ないアルニアの総人口の10%を越えていた。
しかも、犠牲者の数は加速度的に増えていった。
なんとかこの窮状(きゅうじょう)を世界に訴えねばならない。
世界連合のアルニア大使は、超能力を利用した浮遊機関であるESドライブが搭載されたES浮遊船に乗り、世界連盟の本部へと向かったが、途中で邪竜アジ・ダハーカの配下の吸血鬼竜に撃墜(げきつい)され、望みは潰(つい)えかけた。
大使とその義理の娘の双子は、不時着した山麓で死を覚悟した。
その時だった。
彼らが来た。
フェイト・ザ・スカイナイト。
そして、彼の相棒の超能力犬ロコに、
しゃべる大剣J・ハミル・レノルズ(J・Hamill・Renolds)である。
彼らは上空より襲いかかる吸血鬼竜を次々と駆逐していった。
大剣を手にし竜を屠(ほふ)るフェイト・ザ・スカイナイト、その姿は竜喰らい、すなわちドラゴン・イーターと言えただろう。
アルニア神話の竜殺し(ドラゴン・スレイヤー)《ヴァハグン》が今、顕現したかに人々は感じた。
ああ、フェイト・ザ・スカイナイト。彼は、百眼(ひゃくめ)を有する名の吸血鬼ヴァルゴス・O・サザンシアと吸血鬼竜ヴァルハムーンを相手に幾度となく死闘を繰り広げた。
雪の高原、そこにはアルニアの文字の記念碑が厳(おごそ)かに置かれているも、吸血鬼ヴァルゴスには関係無く、彼は無数の血の刃をフェイトに対し放ち、アルニア文字の石碑は切断されていく。
そんな中、フェイトはヴァルゴスに一撃を与えていった。
激闘の中、邪竜アジ・ダハーカの配下達をフェイト達は打ち破っていった。
そして、双子と大使は世界連合の本部へと無事に送り届けられ、世界はアルニアの惨状をようやく正しく認識した。
しかし、世界連合の枢軸軍(すうじくぐん)は準備に時間が掛かり、フェイトは単身、アルニアの人々を救いに向かった。
アルニアの超能力者部隊フューダイ、それはかつてアルニア人の大量虐殺の際に実在した抵抗部隊(レジスタンス)フェダイー(Fedayi)を元に名付けられた。
前史(アーシア・ビフォー・クロニクル)においてアドラニク将軍がわずかなアルニアの兵士(フェダイー)達と共に、虐殺者なるオズマ・デュルク軍に対し、徹底して抗戦したように、フェイトはアルニアの超能力者部隊フューダイと共に、第二の星使徒聖堂にて数百対数万の包囲防衛戦を行(おこな)う。
フェイト達は激戦を戦い抜き、敵軍を釘付けにし、アルニアの人々が逃げ出す時間を、世界連合の枢軸軍が到着する時間を稼いだのだった。
そして・・・・・・邪竜達は討伐され、オズマ・デュルク第3帝国は解体された。
こうして、アルニアの美しき国土は守られた。
その美しき高原の大地は・・・・・・。
アルニアの人々はフェイトの邪竜討伐を記念し、ヴァハグン祭を毎年7月に行(おこな)った。
そこではフェイトを竜殺しにして火の男神ヴァハグンの使者に、フェイトの愛した始祖なる超能力者をヴァハグンの妻・水の女神アストヒクの使者に見立て、古の神々への感謝を深め、火と水の祭典を執(と)り行(おこな)った。
アルニアの人々はフェイトへの恩を決して忘れ得ぬように、子供らに伝え聞かせた。
『だから、私の可愛い孫娘。私達ハイ・クトの民は、彼を覚え続けねばならないんだよ。世界の集団共有意識から彼の存在が消えようと、私達は石版に文字を刻み、心にも刻み込んでいくんだよ。
私達は唄(うた)う。私達は踊(おど)る。
ドラゴン・イーター、ドラゴン・イーターと。
彼と彼の仲間達への感謝を忘れ得ぬように。
私の可愛い孫娘。
ゆめゆめ忘れてはならないよ。ゆめゆめ・・・・・・』
回想は終着点を迎えた。
そして、守護者ナザニは全てを悟り、愕然(がくぜん)とした。
忘れたるにあらねども・・・・・・。
・・・・・・・・・・
ドラゴン・イーター・フェイトⅡ キール・アーカーシャ @keel-a
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