第18話「術後検診」

退院したその足で四重奏の合奏に行ってたくらい、通常営業でしたね。翌日から普通に仕事してたし。カレーとラーメンと焼肉食べたくて即行ってガツガツ食ってたし、飲み放題にも行ったし。健康に気を遣わなくていいって楽しいですね。健康だからこその不健康生活!


手術から約20日経過して、1回だけ検診に行きました。もう大病院システムにも慣れたモンです。受付して、血液検査して、診察ですね。診察のタイミングは受付で渡される端末がピコピコ鳴ってくれるので、それまではカフェで朝食食ってのんびりしてました。


坂下先生(仮名)によると血液検査の結果は完璧。当然だ。私の骨髄には問題が無いもん。傷の経過も順調で、尻の上に小さな点が2つあるだけ。押したら他の場所とは違うカンジはするけど、それももう痛みではなくなって、あと1週間もあれば点を見なきゃ場所なんてわかんなくなるだろうという予感がする。点も消えないなら消えないで構わないが、通常半年くらいで消えるというし、半年もしたらドナーやったことなんて文字通り跡形もなくなりそうです。


「何か、ドナーさんからの提言などありますか?」と問われ、これだけはと「浣腸されるとは思ってませんでした笑」と言っておきました。何度も書きますよ、私結構調べて臨んでるんですよ。浣腸があると知ってたら全力で回避するよう対策をとりましたのに。坂下先生は笑って「普通あの薬で出るんですけどね」と仰っていたので、吉村の腸が頑固だっただけで、普通のドナーは浣腸しなくていいのかもしれません。


「骨髄は無事患者さんに届いていますし」と坂本先生が仰って、こう、心臓あたりにヒヤッと。だって私、骨髄抜かれるのが本番なのであって、抜かれたら後のことは知らんという体で、患者に届いたことを確認したいと思ったことはなかったのよ。普通は気にするモンなのかな…。患者についてこれほど興味の無いドナーが他にいようか。


ちなみに。吉村は患者側の闘病ブログも結構読み漁りました。様々な人がいますが、総じた感想は、「骨髄移植は、ひとつの治療方法に過ぎない」ってコトですね。勿論、バンクを介した骨髄移植で生き延びた人は「マジ感謝、見知らぬドナー様、永遠にありがとう」ってカンジなのですが、選択肢として移植を勧められる時点では、かなり厳しい状況の中でそれが最も適しているから決断を迫られてて、移植前処置のしんどさについて散々脅されるし、治るかはわからんし、治らんかったら割とすぐに死ぬし、血液の病気が治っても後遺症が残るかもしれんし、お金もいくらかかるか不透明だし、で、ずっと「ありがとうキラキラ」ってテンションでは無いっぽいのよね。


「軍隊入って半年戦地に行きますか」or「三百万円の税金払って免除されますか」的、両方イヤな選択しか残ってない状況ですね。喩えが上手くなくてすみませんね。肉体的、経済的負担に、「もうどうでもいいわ」と投げやりになる人もいるでしょうよ。吉村ならソレかも、「緩和ケア行きで」ってね。前にも書いた通り、骨髄移植するよーな病気は、治るとしてもゆっくりゆっくり治っていくんで、患者は日々不安であろうし、多分、ドナーが期待するほど患者はドナーに興味は無いんじゃないかな、特に移植後。私は骨髄移植の1日に、偶々すれ違っただけの関係と思ってます。


この日の会計で、入院の間借りてた病衣の料金を支払います。パジャマ持参するとタダになるんだけどね、3泊4日で290円、コスプレと思うと借りるよね。ドナーの最初っから全部ひっくるめて、私の負担金はこれだけです。入院中にコンビニで買ったおやつやゴハンなんかも自費扱いですが、入院準備金にいただいた5,000円で充分おつりをいただいてます。


私の会計には290円と出るのだけれど、明細には入院中の医療費の点数が全部書かれてます。ドナーの3泊4日の入院で全部込みで50万円くらいかかってます。ドナー分の医療費は患者の保険で何割か削られるけど、個室の差額ベッド代はそのまま直で患者負担となるし、私の場合一次検査も二次検査も再検査くらってるブラックドナーだから、いくら請求がいくんか知らんけど支払うのは30万くらいにはなるんかいな。そんで患者自身の治療費はまた別だから、生命ってお高いですのねgkbr。


こんな私が食っちゃ寝生活するのに50万で、差額ベッド代の負担までしていただいて、ありがとうございますよ。充分に楽しみました。私、人が死ぬのはもうしゃーないと思うんですが、こんだけ重い負担してもらってると、お金が無駄にならんといいなと願わずにはいられませんね。ドナーとしてはタダでお気楽美味しい経験、この温度差よ、金額見てはじめてビビりましたわ。


温度差といえば。骨髄移植に関して、ドナー本人と、骨髄バンクと、採取施設の医療関係者と、患者(患者と患者の医療関係者はドナーから見て同一勢力です)の4つの勢力があるのです。この中で最もドナーをちやほやしてくれるのはバンクです。最上級にちやほやしい。でも医療関係者方面は、私にとってはバンクと同程度ではありませんでした。てか、「ありがとうございます」臭はゼロですな、まさに事務的。普通に考えてドナー側の医者がお礼を言わなきゃなんない義理はないもんな。それがボランティアでないブラックドナーにはすごい心地よくて快適でした。特に私の体調不良で移植延期させても医者が痛くも痒くもなさそうに進めるのに救われた。バンクは私の体調をしっかり心配してくれて、最上級の「患者方面は気にしないでください」(言わないけどこういう雰囲気)により罪悪感をつついてくださるのだよ…。


「ドナーの扱いが軽い」というドナーの意見を、ネットでたまに見かけます。吉村からしたら「ボランティア様なのかな」と穿った見方をしてしまいがち。検査や入院の日程調整で、ドナーの選択肢が狭いのが原因のようです。バンクからの連絡は基本的に平日の9時から17時までだし、検査や最終同意の面談も平日のその時間帯で、「職場に迷惑をかけたくない」という善良なドナーからしたら、「ちょっと血ィ抜くだけなら平日の夜ではいけないのか」「面談は土日にやってくれんか」と願わずにはいられないようです。


んー。善良が具現化したよな骨髄バンクのコーディネーターですら、私にとっては労働者って感覚です。医者もそうです。月金の9時から17時に働いてて、日曜は月2でサークル活動もしてて、残業は出来ればやりたくない身からすると、ドナーを得るために医者やバンクが残業や休日出勤する必要はなくて、骨髄移植のために平時からローテーションの運営体制にする必要もなくて、ドナー側の「職場に迷惑をかけたくない」て思考回路がオカシイんじゃねーかと。


仕事くらい休んだらええやん。ドナーやるならいくらでも休んだらええやん。みんなそんなに仕事したいのん?


患者は絶体絶命の状況だから365日24時間気が抜けないし、医者だってドナー専用じゃなくて365日24時間絶対絶命の患者を何人も抱えてるやろうし、それでも医者だって休みはダラダラしたいやろし、吉村の退院は日曜だったからコーディネーターの本田さん(仮名)は日曜働きに来てくれた。きくところによるとコーディネーターは常時何人ものドナーを掛け持ちしてて、私の入院手続きの直前まで別のドナーの病院行ってたらしい。


健康なドナーが「いつでもいいですよー」って言いたいものです。検査や面談を直前でキャンセルや延期されても「絶対絶命の人に何かあったんやろな」くらいの想像力で、「次決まったら連絡ください」て余裕があるべきなのだよ。元気なんだから、優先順位の最後でええやん。


ウチの会社は「病院まで車で送る」や「上司が見舞いに来る」をやる、ありがた迷惑やりすぎな感ありますが、休みに関してはこれが普通だと思います。労働者が有休使って休むといえばハイわかりましたと言え。理由がドナー活動なら時期変更権すら無いわ。これが、私の、普通です。ドナーが会社に感謝する必要すらないわ。「日本の普通はそうじゃない」て怒られそうですけど、変えていくためにもドナーは図々しく働きたいものです。

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