第13話「自己血採血」
「患者さんの側の医師と連絡を取った結果、やはり吉村さんに提供していただきたく。」
ン☆もう!カヲル君(吉村が決めた患者の名前)私のこと大好きやな!デレデレ、吉村アリスです、コニチハ。入院は中止ではなく延期になりました。当初の予定より1ヶ月ほど延びました。
そのため私は、楽しみにしていたプロオケのコンサートに行けなくなり、後輩の結婚式の二次会も予後が心配で欠席(無理して行って気を遣わせたら最悪だ)することになりました。プロオケのチケットは同行する予定だった人に2枚任せて「アンタ誰か誘って行きなさいよ、金は要らんよ」との自暴自棄。それ以上に、結婚式の二次会には、行きたかった…。パーティドレス、西田の最初の結婚のときに買って、その後演奏会で1回着ただけの、可哀想なドレスを、着る機会がorzアンタイトルのドレスとバッグと、アナスイの毒々しいアクセサリー、どんどん似合わなくなる年齢に。くそぅ、高かったのに、コスパ悪すぎるぜ…!(それもこれも友人が少ないのが致命的)
体調不良での通院の際に骨髄採取の担当医である坂本先生(仮名)にも問診されて、吉村は鉄剤を処方されています。鉄分50mg配合て医薬品すげえ。毎日1錠ずつ飲むのです。これさえもらえばプルーンドリンクのチープなドーピングはやらなくてよいので喜んで飲んでます。骨髄移植関連はタダです。安上がり!イェイッ!
そして入院の10日前、自己血採血。
以前も書きましたが繰り返し書きます。骨髄移植とは、血液を造る機能の移植でして、血液は骨の中の造血幹細胞てヤツが造ります。骨の中にも普通の血があるのですが、その血に混じって、骨の中にだけ、造血幹細胞が浮いてるのです。これを移植するには、骨に針を刺してちゅるっと中の血を抜くんですね。だもんでコレ、骨髄液、ほぼ、血です、血液です。都合よく造血幹細胞だけ抜き取るのは不可能で、人によっては1リットルを超える血を抜くのです。針を刺す回数も100回を超える。そんな多く血ィ抜かれるとドナーが貧血になるので、ドナーは予め自分の血を取って冷蔵しておき、手術の際に輸血して戻すのです。
吉村は、カヲル君が、非常にお軽くていらっしゃるので、この自己血採血は1回やるか、やらなくてもいいかってトコ。「ま、一応200mlくらい取っておきましょうか」ってんで、入院予定の病院に行くのです。
病院に着いたら検査用の採血をちゃっと済ませて、ドキドキ☆麻酔科受診!
一応、ドナーの方は「手術」ということになるのです。手術の定義からしてよくわからんけどとりあえず手術室は使うし麻酔もするから手術です。なので麻酔科も受けておかねばならないらしいのです。ぶっちゃけ、骨髄移植のドナーで後遺症、麻酔関連も少なくはないのよね。歯が折れたとか痺れが残ったとか声が出にくいとか。骨にガスガス針刺してくれる血液内科と同じくらい、麻酔科も重要っぽいヨ。
麻酔科の待合は、外来にいる人の群れや流れなんかとは切り離されて、どこまでも静かにヒッソリしている。その中で家族がヒソヒソ話していたり、やけに陽気な病衣のオッチャンが妻の携帯電話で撮影をされていたりで、暗くは無いけどちょっと不思議な空気。病衣のオッチャンは看護士とも顔見知りのようで、颯爽と手術室に歩いていったよ。そう、すぐ目の前には手術室の扉があって、ここが手術するとこなんかな。
手術室の反対側には多くの小部屋、診察室とか相談室とか書かれてる。ここは重い話をするところなんですかね。私、完全に観光気分でごめんなさいね。
呼ばれて診察室に入り、医師による麻酔の説明があります。私がやる予定なのは全身麻酔で、数秒で眠ってその間に全部終わってるアレです。寝てる間は気管に管通して人工呼吸器付けます、なーんて、ヒマさえあれば「骨髄移植 ドナー ブログ」で検索し、片っ端から読んでいった吉村に知らんことはなくってよ!と余裕ぶっこいておりましたら、寝たトコで気管に管通す前に口をこじ開ける器具を見せられまして、これ、ヒポクラテスが持ってるヤツじゃないの(訳:原始的な形状)?!と驚き、ちょっとビビる。おかげで「尿道カテーテルは使いますか?いつ抜きますか?」と問うタイミングを逃すorz
最後は処置室ってトコで200mlの自己血採血。成分献血だの全血献血400mlだの普段からやってた吉村にとっては200mlなんて軽い軽い。ドナーやってて思うのは、献血マジオススメ。普段から医師に問診されるとか針刺されるとかに慣れてると、病院でイザ処置ってときに平常心でいられるよ。元気な時にやっといて、弱ってる時に追加でビビらなくていいのよね。
処置室は沢山ベッドがあって壁とカーテンで仕切れるようになってて、看護士さんが忙しそうに動き回ってる。ベッドは普通のベッドで、歯医者のベッドみたよな献血ベッドとは違う。勿論テレビは付いてないし、飲み物は自分で持参せよとのお達しが前以て出てるよ。吉村は水平に横になるように指示されて、ベッドの頭側の器具をチラチラ見てました。あそこから酸素出るんだろーなー、とか。
血を入れるパックが出てきて、体温と血圧を測ったところで吉村の担当医師の坂本先生(仮名)登場、針を刺し、抜くまでやってくれます。先立って受けた血液検査の結果は良好だったようで、「鉄剤を生理前にも普段から飲むといいかもしれませんね」とアドバイスしてくださる。言われなくても手ぇ握って緩めてする、せめてものホワイトドナー。200mlは私にとって一瞬で、体調の変化もなく、お疲れ様でしたありがとうございました――
「もう少し寝ててください」
「?!」
完全に献血気分であった吉村、そうか、ここは献血ルームじゃないから、待合で休むって発想が無いのか。それでも、寝ててって、横になってろってコトで、いつも行ってた献血よりもずっとずっと大事にしてくれる。これ10分以上よ。献血ではピッと絆創膏当てて終了なトコ、ちゃんと止血してるか念入りに確認してくれる。これが、献血=健康と病院=病人の差か。そこまでせんでも、大丈夫ですよ、私…。休まずダッシュで遊びに行く、直後に飲み会等、やってはイカンコト、一通りやってます(まねしてはいけません)。
請求金額0円の会計を済ませて仕事に行くよ。次ここに来るのはイヨイヨ入院!処方されている鉄剤は、1日1粒ずつ減っていき、それはまんま、入院までのカウントダウンになっている。最初に適合通知が来てからは、半年近くが経過しています。
あと10粒、カヲル君にも私にも、もう何も起きませんよーに。
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